第304話 キャスターさんの憂鬱
共和国軍兵士との話し合いが終わるころになって、やっと俺の指令車が到着した。
それを見た共和国軍兵士は一様に驚いた顔をしていた。
そういえばこの車両は共和国製の物をあの飛行機墜落事件からずっと使っていた。
前にキャスターさんの部下から聞いた話では最新式の高性能車ということであって、ここゴンドワナでは一部有力者しか使えないとか。
そういえばこの車に乗っていた共和国軍の人は将軍だったし、キャスターさんもあの時はまだ共和国の英雄の扱いだった筈で、有力者というのもうなずける話だった。
最初の話し合いで彼らの降伏の確認が終わったが、今度は基地の接収についても決めなくてはならないし、何より今の人数では絶対に無理だ。
幸い彼らからの情報で、あの基地の南には補給のための港町まで共和国の施設が無いとう話を聞いたために、ここから無線を飛ばしても傍受の恐れも無いため、無線封鎖を解除して、無線でとりあえず村にいる俺の部下たちを呼びつけた。
また、キャスターさんもこの無線を使って自身の部下たちをこの場に集める指示を出していた。
「ここから、基地まで無線で飛ばせるかな」
「最大出力では無理も無くはないですが、それですと敵にも傍受されますよ。今無線を使っているのって、近くに敵が居ないからですよね」
「ああ、そうなると困ったな」
「大尉。連邦の首都までは大丈夫かと思います。まずはそちらに連絡して、応援を頼むのではどうでしょうか」
「いや、それは無理だ。俺からいきなり防衛軍に命令範囲以外で、指示を仰ぐわけには行かないだろう。組織の長を飛び越してのイレギュラー対応は越権行為になるのだろう、軍では」
「え、あ、そうですね。普通は大隊長からの命令を待ってからになりますね」
「あ、それならアザミ連隊に大隊長あての伝言を頼むのはどうでしょうか。一応組織上では、アザミ連隊は我々と同じくくりになっているはずですよね」
「そうですね……メーリカ少尉の言われるように、その方が道理に叶う《かなう》かと。それでもイレギュラー対応にはなりますが」
「ああ、それ良いな。イレギュラー対応がどうとかもあるが、今の防衛軍本部には連絡したくないからな。そうしよう。直ぐにアザミ連隊のアート大佐を呼び出してくれ。緊急事態とでもいえばすぐ無線に出てくれるよ」
「緊急事態ですか。そう言えなくもないですが……ね~」
それからすぐにアプリコットたちが連邦首都に駐屯しているアザミ連隊と連絡とった。
流石に帝国一の精鋭と言われた花園連隊の流れをくむアザミ連隊だけあって、事の重大性に直に理解を示すと、こちらに連隊で応援に駆け付けるとの返信を貰った。
また、情報として連邦軍もその戦力のほぼ全て、虎の子の戦車を含む全車両を出して、乗せられるだけの兵士を連れてやって来ると言うそうだ。
この辺りに散らばっている俺の部下たちはおおよそ半日かけて全員がこの場に揃った。
驚いたことに、俺たち以外で最初の応援が来ていた。
それも、さらに驚いたことに空からやって来たのだ。
いや~、初めてみたよ。
実際に空挺部隊の登場シーンって迫力がある。
俺からの報告を聞いたアザミ連隊長のアート中佐は、自身の権限を持って同じ軍団に属する海軍へ空挺団の応援依頼を出していた。
事後承諾となるが、サクラ閣下からの承認を得た行為だ。
なにせ今のサクラ閣下は帝都の出張中のためだ。
それでも、クリリン秘書官は基地に残っていたので、彼女の古巣である海軍陸戦隊を通してゴンドワナの海軍基地にいた第一空挺団の一部100名が直ぐに海軍機で、応援に駆けつけてくれた。
準備が整い次第、残りの第一空挺団総勢500名がこちらに揃うとのことだ。
キャスター幕僚長はアザミ連隊が到着次第、基地に入り接収を試みることになる。
その件については、先に交渉した相手である中佐に既に連絡済で、その準備のために彼は基地に戻っている。
これが彼の計略であれば、俺たちなんかひとたまりも無いだろう。
せめてアザミ連隊が到着するまでの時間すら稼ぐことはできないだろうが、そんな心配は微塵も見せないキャスターさんは部下集めで忙しくしている。
かくいう俺はというと、既に部下全員がそろったこともあり、することが無い。
暇な俺たちは、大穴を避けて、仮設司令部の設営にかかる。
ただ周りに大型テントを張り巡らせるだけだが、慣れない新人ばかりの俺の隊にとっては良い訓練になるだろう。
敵を目の前での基地設営だ。
皆緊張しながら作業している。
俺たちの攻撃から翌日にはアザミ連隊が、連邦の戦車隊を引き連れて現着した。
キャスターさんは戦車を先頭に基地に向かう。
すると基地からは敵共和国兵士がぞろぞろと門前まで出てきて、整列して出迎える。
完全に降伏の意思を示した行為だ。
そんな中を先頭の戦車から凱旋する兵士のように悠然とキャスターさんは中に入っていく。
一応2時間ばかりの行為ではあるが、儀式めいたことはこれで終わり、全員で後処理に入る。
俺たちも基地の中に通されて、アザミ連隊の幹部と一緒にキャスターさんから説明を聞いている。
基地の資材は一部食料などを除きほとんどそのまま備蓄されている。
しかし、車両と共和国の現金、それと金貨などの貴金属などはことごとく無くなっているという。
今、連邦軍とこの基地の兵士とで備蓄品のリストを作っているそうだ。
燃料については幸いに、8割がた残っているので、このまま連邦軍がこの基地に残っても十分に戦力として活用できるという話だ。
問題は降伏してきた共和国軍兵士の処遇だけになる。
捕虜として価値のある黒服も、高級士官である佐官もほとんど逃げ出した後のため、捕虜もほとんどが一般兵士だけになる。
尉官も半数は逃げ出しているので、もはや残った兵士も軍としては機能できないのは自明の理だ。
「は~。元居た軍だから余計に悲しくなるわね」
「ため息は運が逃げると言います。どうしましたか、キャスター幕僚長」
俺は書類を見ながらため息をついているキャスターさんに声を掛けた。
「物品についてはおおよその報告はしたわね」
「ええ、先ほどの会議で説明を受けましたが、それが何か」
「物品の詳細はまだ時間を要りますが、人の方はそれほど時間をかける訳にはいかないのですぐに調査させたら、情けない結果が先ほど届いたのよ」
「情けない結果? 何です?それって」
教えてもらったのは、残っていた共和国軍の兵士の数とその内訳だ。
あくまで速報とことわられたが、それでもその内容が驚きだった。
元々この基地には二個連隊が駐屯していたという。
これはキャスターさんが、この基地を出発する時と同じで、その内訳がこの基地を守る普通科連隊が一つで、5000名で構成される、帝国の普通科連隊と変わらない構成の連隊だ。
だが、面白いのはもう一つ駐屯している連隊だ。
普通に2個連隊もあれば帝国なら旅団を構成するようなものだが、それは共和国でも状況はあまり変わらないらしい。
だが、この基地だけは違うという。
この基地を特別にしているその連隊は、補給科連隊と呼ばれており、人員も普通科連隊とは異なり3000名という連隊としては遥かに少ない人数で構成されてるそうだ。
この基地に駐屯していたのはこの二つの連隊で総勢8000名いたという。
また、これは共和国の恥とまでキャスターさんが恥じていた話だが、普通二つも連隊があれば、どちらかもしくは統合して指揮するところがありそうなのだが、ここには無い。
それぞれの連隊が独自の判断で動き、全く連携していないという話だ。
だからかもしれないが、二つも連隊が駐屯していた基地なのに、俺たちに対していともあっさり降伏した訳だと納得していたら、キャスターさんの嘆きが続く。
補給科連隊の位置づけはジャングル方面に展開している部隊への円滑な補給任務を専門で行うためだと、本国でもそのように説明されているが、その仕事内容ははっきり言ってあの黒服をサポートするためにあるという。
あくまで噂だと前置きの後、共和国には同様の補給科連隊がもういくつかあり、その仕事内容は皆同じで、『ポッケナイナイ』だけだそうだ。
補給物資を現金に換え本国に戻すのが任務とあり、補給科連隊が設けられているのも前線には近いが、ここのようにはっきり言って戦闘にはあまり縁のない場所が選ばれているという。
かくいうここでも、キャスターさんたちまともな部隊への補給は件の補給科連隊からではなく、防衛を任されている普通科連隊の補給部隊からだったとか。
だからだろう。
補給科連隊の兵士は少なくとも士官は全員、下士官もできる限り本国から特別に回されている者たちで構成されている。
だから補給科連隊の
また、普通科連隊も、7割の佐官5割の尉官、それに3割の下士官が逃げ出しており、それに続いて一般の兵士も相当数逃げ出している。
現在残っているのは普通科連隊でおおよそ3500名くらい、補給科連隊では1000名を切る数しかいない。
しかも、残った兵士のほとんどがキャスターさんの元へと希望しているとか。
亡命を希望しないのは最終的に100名以下になりそうだとも零している。
どれだけ根が深いんだと俺すらも驚くが、実際に直ぐに対処しないといけないキャスターさんの悩みは深そうだ。
俺にできることは、余計な邪魔の入らないように
なので、ここまでの話はすべて連邦国内だけに留めてある。
俺たちから情報は帝国に伝えなければならないが、今のところ連邦首都にある防衛軍本部には一切の情報は伝えていない。
まあ、サクラ閣下から本国にいる殿下には正確に伝わるので、防衛軍の対応も殿下の方ですることになるだろう。
俺は、後から応援できた第一空挺団から本国に居る筈のサクラ閣下からの命令を受け取っていた。
『私たちがそこに行くまで現状を維持せよ』とだけ。
俺はアザミ連隊のアート大佐と相談して、しばらく付近の偵察などの警備を行いサクラ閣下を待つことにした。
しかし、サクラ閣下は本当にここまで来るつもりだろうか。
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