第297話 間近に迫る脅威
兵士を駐屯させている広い場所に、連邦軍も一緒に駐屯している。
その連邦軍の中央付近にキャスターさんたちが入る幕舎があった。
俺は迎えに来た連邦軍兵士にその幕舎まで連れて行かれた。
「幕僚長。グラス大尉をお連れしました」
「おお待っていた。直ぐに入って頂け」
中から元気な幕僚のマリーさんの声がした。
俺はアプリコットとメーリカ少尉、ケート少尉ら3人を連れて中に入った。
幕舎の中はかなり広い。
中央に大きなテーブルを出してあり、そのテーブルの上に簡単な図が書かれた紙がある。
俺たちをその前まで連れて行って早速打ち合わせが始まった。
ここから歩いて2日の距離にある村はまだ共和国が来た形跡がなかった。
マリーさんがその村長との話し合いに成功しており、とりあえずだが連邦に加わる言質までは貰ったようだ。
その代わり、直ぐ傍まで来ている共和国の危険からの保護を望まれた。
マリーさんはもとより連邦軍の幕僚長であるキャスターさんにもその気持ちはあるが、村を残した状態での保護は現状では非常に難しい。
しかし、先の村長にはまだその話はしていないとのことだった。
「幕僚長はこの先どのようにお考えで」
アプリコットは遠慮なく切り込んでいった。
「約束した通りに村は守りたい」
「それができるとは思っていませんよね」
ちょっとアプリコットは失礼に当たるような直截的な言葉で聞き返した。
「もちろんだ。だが、今その話を村長に言っても現状は良くならない。いや、かえって悪くなる」
「今はとにかく敵である共和国の現状を知ることが先決なのだが……」
マリーさんはさっきまで元気な声を出していたが、いざ打ち合わせとなったとたんに声に元気がなくなる。
その場にいた陸戦隊を率いた少尉に俺は顔を向ける。
彼はキャスターさんやマリーさんの方を振り返り、その二人から目で合図を受けたのだろう、説明を始めた。
「大尉。ですので我々は一部をその村に残して次の村に偵察に向かいました」
「この辺りにある村だ」
「ここからだと歩いて4日。あの村からだと2日と言った距離だ」
「幸い我々の車両が使えたこともありそれほど時間はかかりませんでしたが、肝心の村までは行きつけませんで、引き返してきました。ちょうどこの辺りになりますが……」
「何かあったのですか」
アプリコットはかなり緊張しているのか報告の途中で少尉に声を掛けてしまい、話の腰を折ってしまった。
「アプリコット少尉。少し落ち着け。すまんな、話の腰を折って。報告を続けてくれ」
俺は副官の暴走を詫びて話を続けてもらった。
いや、そこから何故か知らないがキャスターさんが引き継ぎ話してきた。
……が、その内容がぶっ飛んでいた。
なんでも途中で共和国の偵察部隊と鉢合わせになり、戦闘かと思ったら、先方がキャスターさんに降伏?してきた。
なんでもキャスターさんは今でも共和国の特に女性兵士からは絶大な人気を誇り、以前帝国がキャスターさんに手ひどくやられた時の部下の一人が共和国の偵察分隊を率いていたという。
もう分隊長の少尉はキャスターさんを妄信している状態で、キャスターさんの現状を知るとその場で亡命を希望してきたそうだ。
彼女の部下はというと、これも面倒というか、その分隊長はかなり人望の有る人でリトルキャスターの異名を一部で頂いているくらいで、分隊全員が分隊長に続いて亡命希望だそうだ。
流石に連邦への亡命については、帝国は口を挟めないが、キャスター幕僚長だけの判断で受け入れる訳にもいかないだろう。
とりあえず持ち帰り案件として、現在は連邦軍の保護下に置いてあるという話だった。
「幕僚長。お話を聞く限り、かなり面倒ごとになりそうですね」
「ああ、彼女らの保護については同盟軍であるあなたの部下も加わっているから、その捕虜にできなかったことで問題が発生したら申し訳ない」
俺は先に俺に報告してきた少尉を見た。
「大尉。彼女らの保護について、私たち小隊は一切の関与はありません」
「隊長。彼は無かったことにしたいそうですよ」
ケート少尉が俺に教えてくれた。
「でも、これって君たちの功績なのでは」
「正直言いますと、全くそのように思ってはおりません。また中隊長から離れて我々だけが評価いただく訳にも行きませんから。それに何より、既に大尉から過分な評価を頂いており、昇進したばかりですのに、正直これ以上はちょっと……」
あ、そういうことね。
ただでさえ俺の傍にいることで、色々面倒に巻き込まれているからこれ以上はっていう奴ね。
「分かりました。私の中で収めておきます。後日必ず埋め合わせをお約束しますね」
「あ、いや、その……」
「そういうことですから、亡命希望者については連邦内で処理願います」
「ああ、そうしてもらえると非常に助かる。で、だ。前置きはこんな感じでそろそろ本題に入りたいのだが……」
え、今までのが前置きって、俺はそれだけで十分にお腹一杯なのですけど。
「大尉の部隊だが、どれくらい戦えるのか。現状の兵力はどれくらいなのか」
「え? 兵力なら大隊規模ですが、まともに戦えるとしたら2個小隊くらいですかね。それすら怪しいですけど。どうしてですか」
「いや、私が聞いたのは装備についてもだが」
「それなら、どれくらいだっけアプリコット少尉」
俺は副官のアプリコットに丸投げした。
アプリコットは正直にメモを見ながらキャスターさんに説明していた。
「それが何か問題でも……」
アプリコットの説明が終わってから俺は理由を聞いた。
「もうじきこの辺りはまずいことになる。奴ら懲りずに戦車を持ち込んできた」
「え、どういう……」
キャスターさんの説明によると、前に俺たちが落とした町(連邦の首都を置いた町)を奪還するために機甲化中隊をこのジャングルに持ち込んできたと言う。
先の偵察部隊はジャングル内の移動に際しての経路探索を目的としていたようだ。
既にその機甲化中隊はゴンドワナに上陸して、俺たちが目指していた基地に向かって移動しているという。
「しかし、私の祖国だった共和国も何を考えているのか。こんなジャングルに戦車を入れてどうやって使おうというのだか。全く兵器の用法が成っていない。が、大尉の部隊も同様に大概だな。何でジャングル戦に移動式野戦砲を12門も持ってくるのだ。どうやって使うつもりだ。ジャングル戦で大砲なんか普通いらないだろう。まあ、元の祖国も戦車を12両も持ち込んで何をしたかったか分からないが」
「まあ、うちの場合、与えられた兵装を置いてくるわけには行かなかったんで持ってきましたが、遠くから目的の基地に対して打ち込んでさっさと逃げようかと考えておりました。それよりも近づいてくる敵の正確な情報を教えてほしいのですが」
それから聞いた話では、直近の脅威としての機甲化中隊はまたあの大統領直轄のロクデナシ共で、その規模は戦車が12両、自走砲8両、補給物資などを運ぶトラック20両で、よくわからないのだが、歩兵部隊を連れてきていない。
キャスターさんの話では、大統領直轄で歩兵はあの死神とまで言われるくらい悪名高い連中しかおらず、そいつらはいつも単独で行動している連中しかいないらしいが、そいつらは最近俺たちにGのごとく駆除されたばかりだ。
とにかく今回の目的は大統領直轄部隊に対して恥をかかせた帝国と、その直轄部隊を助けようともせずにさっさと降伏したキャスターさんたちの抹殺だそうだ。
それと現地人に対する乱暴や虐殺などの彼らの楽しみも兼ねている作戦だとか。
そうなるとまともな神経の普通の部隊ではかえって足手まといになるから、一緒には行動をしたくないのはどこも同じだ。
なにせ共和国の法律でもあのロクデナシが仕出かすことは違法行為になっているので、最悪大統領直轄部隊の行為は、その場で反乱として処理されても共和国の法律でも問題はない。
いや、本来その場で殺してでも取り締まらないとならないのだそうだ。
まあ、取り締まりなんかできない話だそうだが、どこまで腐った国なんだか。
とにかく、今回の共和国の作戦は、戦車を使って俺たちを一掃するというどこに作戦があるんだと言いたくなるようなものだが、俺たちとしては、その戦車たちをどうにかしないといけない。
「とにかく、間近に迫った脅威をどうにかしないといけませんね」
「威力偵察の前に敵の機甲化中隊を相手にしないといけないな。しかも、早々逃げる訳にもいきそうにない。ケート少尉、知恵を貸してくれないか」
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