第296話 国境の村に到着  

 それから3日、本当に防衛軍の参謀からは何も言ってこない。

 流石に俺もそろそろここを出発したかったので、今日は朝から防衛軍司令部の前で、さも見せつけるかのように威力偵察の準備を始めた。

「おい、その物資は第三中隊のトラックに積んでくれ。あぶない。慌てなくてもいいから、怪我の無いように」

「ここでのんびり準備していても良いのでしょうか」

 アプリコットがわざとらしく聞いてくる。

 できればもう少し演技を勉強してほしかったが、まあ、目的は十分に果たせるだろう。

「出たくても出られないんだ。参謀殿が軍監を手配してくださるから、それを待たないとな。なにせ俺らだけでは威力偵察はできないから」

 俺はこの町に居る誰にでも聞こえるような大声で言い切った。

 アプリコットの予測では、今回の計略は防衛軍でも一部しか関わっていないそうだ。

 となると、その他の人たちに目立つようにしていれば、そろそろしびれを切らして……

 ほら、出て来た。

「大尉。ここで何をしている」

「え、参謀殿。参謀殿から命じられた敵基地への威力偵察の準備をしております。大方の準備は整いましたが、参謀殿にお願いをしております軍監の方がまだ……」

「あちこち手配したが無理だった。とにかくこの命令は急ぎだ。直ぐにでも出発してくれ」

「え、でも……」

「良いからすぐにだ。抗命で処分されたくなければすぐにでも出発するのだ」

「抗命するつもりはありませんが、威力偵察の評価は」

「良いから。敵に攻撃された時のことを素直に報告すればよい。それ以上は君には望んでいない」

 はっきりと言質は貰った。

 しかも参謀の他に、この周りに居る無関係と思われる人たちにも聞こえるような声でだ。

 目的は達した。

 何よりも俺もグズグズはしたくはない。

「分かりました。今すぐに出発します」

 俺は参謀以外の人にまで聞こえるように、大声を上げて出発することを伝えた。

「おい、それを載せたら出発してくれ。俺たちは先に出る」

 第三中隊の兵士は敬礼姿勢を取り俺の指示を了解した。

「アプリコット。かねてからの作戦通りに」

「ハイ、了解しました」

 そうアプリコットが答えると、どこからともなくいつも俺が使っている指揮車が出て来た。

 俺とアプリコットを載せると、すぐにその場を発った。

「うまくいきましたね」

「ああ、あれで、あいつもかなりまずい立場になるだろうな。なにせ、他の同僚にも俺らが威力偵察に駆り出されたことを聞かれたからな」

「そうですね。戦略計画に無い威力偵察なんか怪しさ満載ですからね」

「そういうことだ。とにかく俺らだけでも急ごう」

 すでに陸戦中隊だけは昨日約束の村に向かわせてあるので、既に合流が済んでいるだろう。

 俺は自身の第一中隊と、その護衛としてメーリカ少尉率いる第二中隊は一緒に連邦の首都を出発した。

 車内で、先行している陸戦中隊から報告が入った。

「隊長。陸戦中隊のケート少尉から報告が入りました」

「無事合流できたかな」

「ハイ、昨日村に入り連邦軍幕僚長と無事合流、先方より偵察の任の依頼がありました」

「偵察?」

「ハイ、隊長。ケート少尉からは、先行して1個小隊を連邦軍の小隊と一緒に目標の村へ偵察に入りたいとのことです」

「ケート少尉の気持ちはどうかな。行きたいのなら俺は許可するが、先方からの依頼に断れそうな空気がないからといった理由では許可できないぞ」

「その旨伝えます」

 ………

「ケート少尉も同じ気持ちだそうです。是非に同行させてほしいとのことです」

「少尉の同行は認めないが、1個小隊を出すことは許可する。大隊長代理の権限を持って命じる。先行偵察に一個小隊を派遣しろ」

「ケート少尉から了解とのことです」

「それ、俺らも急ごうか。どうも連邦軍は時間が惜しいらしい」

「でも、そうすると第三中隊とはもっと距離が離れますが」

「ああ、構わない。第三中隊に連絡してくれ。

 ゆっくりでいいから脱落者を出さずに目的の村まで来てくれ。3日遅れまでは容認するとな」

「了解しました」

「3日とは…… いくら何でも明日には着くでしょう。遅くとも明後日昼には絶対に着きますよ。獣道とはいえ、連邦国内は道で繋がっておりますから」

「ああ、その獣道も整備中だよな。国境方面に向かう方から整備していくと聞いたけど」

「ええ、ですが補給路の後だそうで、まだ未整備です」

「そういうことか。まあ、道についてはとりあえず獣道でも通じているので問題ないか。どうでもいいが、俺たちは今日中には着くつもりでメーリカ少尉にも伝えておいてくれ」

 俺たちは急ぎ村に向かったが、それでも日が沈んでからの到着となり、村に入る前にちょっとばかり騒ぎがあったが、無事誰も脱落者を出さずに村まで来れた。

 まあ、国内移動の扱いだから来られない方が問題なのだが、それでも新兵を含む兵士たちがこのレベルまでの訓練はできていたことに俺は少しばかり驚いた。

 村で俺たちを迎えてくれるはずのお二人は、いなかった。

 キャスターさんもマリーさんもあの先行偵察隊について偵察に行ってしまったとのことだ。

 俺らを出迎えてくれたのは、以前に会ったことがある亡命した元共和国軍の小隊長のお二人だ。

 今の役職は前に紹介された時よりはもう少し偉くなっているが、正直よく覚えていない。

 そのお二人がすまなそうに詫びながら俺たちを出迎えてくれた。

 俺たちは流石にこの人数が急に村に入れる筈も無く、傍の河原で駐屯することになった。

 先に入った連邦軍がこの辺りを整備して待ってくれたようだ。

 ここに来た連邦軍は、首都に配備されていた部隊から2個小隊、これは共和国軍の亡命した大隊兵士の部隊で構成された小隊だ。

 それと俺たちが前に作った、居留地と呼ばれているあの施設で訓練中の部隊から2個小隊の計4個小隊、中隊規模の部隊を連れてきている。

 そのうち訓練中の連邦国から募集した若者を中心とした新兵が約半分もいる。

 流石にここに連邦軍の主力を務めるあの大隊から全てを連れて来れなかったようだ。

 それに何より、この先合流する村々に対しても多少面識のある方が良いとの判断もあるのだろう。

 その中隊規模の部隊を連れてきているはずだか、ここにはその半分しかいない。

 残り半分2個小隊は先行偵察そして偵察中だとか。

 まあ一応連邦国内であるから、しかもここには常備兵として駐留させていないことから、別に新兵だけでも問題無いと判断されたのだろうが、良いのだろうか。

 一応、1個小隊の精鋭を残してはいるが、指揮官が不足気味ではとは思う。

 尤も、この先俺も同様なことをするつもりだ。

「この場所に、補給中継基地を置く。その準備をさせてくれ」

 俺の指揮車の後から続々と集まってくるトラックが並んで止まっていく。

 直ぐにメーリカ少尉の部下たちがトラックを駐車場の案内人のように指示を出して秩序だった基地づくりを始めた。

 なにせ今回は豊富に補給された資材をしこたま持ってきている。

 ジャングルに移動砲を12門もトラックに繋げて持ってきた。

 連邦の首都から出発するときに、周りからあれを持っていくのかと怪訝な目を向けられたが、置いて行く訳にも行かずとりあえず持ってきたものだ。

 ここまでは獣道とはいえ道があるので、問題無く運べたがこの先どうしよう。

 とりあえずだが、この先にも運ぶつもりで、トラックに繋げたままにしておいた。

 翌日の夕方になって遅れていた第三中隊もたくさんの物資を持って到着した。

 直ぐに俺たちが河原に作っている建屋に弾薬や食料を運び出した。

 ここから必要な分をもってこの先に進むつもりだ。

 更にその翌日になって、やっと先行偵察に出ていた陸戦中隊が連邦軍たちと村に戻ってきた。

 早速俺はキャスターさんたちに呼ばれて彼女たちの下に向かった。





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