第277話 ジャングルにできた官庁街
勝手知ったるではないが、よく知る人達との仕事だ。
直ぐに俺たちは大使館について話し合い、結局シノブ少佐の言われる自重に配慮して、前に作った司令部を一回り小さくしたものを作ることにした。
そうなると意匠などを考える必要がなくなりほとんど工数仕事なので、捗ること捗ることあっという間に設計図は出来上がる。
今回は、パワーショベルもあるので、この辺りの上下水道の整備もしていくことになり、俺はそちらの方に掛かった。
俺の中隊総出で大使館や上下水道工事をしている。
俺にとってこんなに楽しい事は無い。
仕事になっているがほとんど趣味に近い作業だ。
しかし、そんな幸せもすぐに終わりを告げる。
俺にこんな楽しい事ばかりをさせるかという勢力でもあるのだろうか。
直ぐに別命が下る。
町の周辺調査だ。
敵共和国の動きは今のところ大人しいが全く警戒しないで良い訳ではない。
町の周辺の警戒と地勢調査が俺の中隊に命じられた。
工事の方も出来る限り続けろというおまけもついていた。
俺は中隊を分け、一個小隊を連れて調査に出掛けることにした。
俺の処にもできる小隊長はいる。
旧山猫のメーリカさんや、陸戦隊などはそのまま精鋭の部隊として残っているので、それを調査に出せばいいものと思ったのだが、司令部から俺に直接の監督を命じられたのだ。
そう、俺はここに残って好きな工事仕事をしていれば良い訳にはいかなくなった。
おまけにアンリ外交官からはついでに付近の村を結ぶルートの探索を頼まれた。
今使っている獣道では直ぐに使い物にならなくなる。
多少の土木工事をして少なくとも車両が通れる道路が欲しいというのだ。
その道路敷設のためのルートを探せというお願いという名の命令を頂いた。
結局ここでも俺は便利に使われたのだ。
とにかく忙しかった。
あっちこっちに行っては休憩代わりに工事現場に顔を出し、指示していく生活を続けた。
幸い工事の方は俺の部隊全員が慣れてきたこともあり捗っている。
先日、ついにおやっさんの本隊も到着して、ここの開発もいよいよ本腰を入れてかかるようだ。
俺らが作っている大使館を見た他の村々から来ていた代表たちが、新たに作られる国の政庁をあんな感じで作りたいと話していたそうだ。
それを聞いたアンリ外交官がおやっさんに、町の再開発をお願いしていた。
そのお願いをおやっさんは一言で退けた。
「ここを作り替えるよりもあそこで新たに作る方が早い」
このおやっさんの一言で始まったのが、ここに新たに政庁街を作るという一大プロジェクトだ。
前に司令部を作ったように俺の処のサリーのおうちで集まり、ああでもないこうでもないと連日話し合い、大使館前に広々とした道路を作り、その道路の下に下水と上水道の工事をすることになった。
また、アンリ外交官からの依頼で、大使館の道を挟んだ反対側に以前造った司令部の2倍程度の政庁を立てることになり、その意匠の検討に入っている。
俺も初めはメンバーに入って面白楽しく過ごせるはずだったのに、例によって司令部から邪魔が入る。
敵の動向も無視できないのは分かるが、何も俺ばかりに命令を出さなくてもいいだろう。
町の周辺の調査を命じられた。
特にここから南に行くとかなり距離はあるが敵基地があることは分かっている。
その敵がどのあたりまで進出しているかの調査を命じられたのだ。
俺は戦闘する気が全くないので、今回の調査も俺の率いる隊の内小隊に少しばかりの人数を付けていくことにした。
これなら俺が行かなくとも小隊長に丸投げでも良くないかとは思ったのだが、司令部は俺が遊んでいることが気に食わないのか、サクラ閣下直々に俺に部隊を指揮するように命じて来た。
彼女の言い分には、交戦の危険性がある以上最上級の指揮官が指揮するのが当然なのだとか。
俺でも帝国の特に軍部の現状が分かってきたのだが、どうもこの言い分が信じられない。
特に危険な場面ではなぜかしらお偉いさんは現場にいないことが聞こえてくるのだ。
これは敵も同様なのだが、どちらもはっきりしているのは貧乏くじを引く人は決まっているということだ。
何だ、令和の日本と同じか。
そんな感じで、俺はいつものように使えるメンバー、ほとんど固定化してきたが陸戦隊の小隊に山猫のメンバーを付けてジャングル調査に向かった。
結論から言うと、町から少なくとも50kmまでは敵は来ていない。
おかしいことに、敵は明らかに以前町に来ていたのだから、30km以内に何らかの形跡がある筈なのだが。
キャスター少佐からの情報でも前進基地のような仮の司令部を置かれていた筈。
しかし俺らはそれを発見できなかった。
上空から海軍航空隊の偵察からも同様に敵の痕跡は無かった。
現状敵の動きは非常に慎重だという話は司令部からも聞いていた。
何でもあの怪事件以来敵は戦線を縮小しているというのだ。
ここジャングルでも 後退して守りに入ったようだとも言えるが、果たして本当か。
今のところ敵から町が襲われる危険性は無いと判断している。
俺はその結果をもって町に戻り無線にてサクラ閣下に報告した。
その後は官庁街プロジェクトに参加して新たな街づくりに入っていく。
俺の残していた部隊もこの町づくりに参加しており、今までは大使館をせっせと作っていたようだが、その大使館もおやっさんの工兵連隊がここに来たこともあり、あっという間に出来上がり、今は次の工事に入っている。
防衛軍司令部庁舎だ。
それに何と河原に飛行場まで作り始めた。
次から次に色々と作っているので、リアルシ●シティだと喜んでいたら、次のお仕事を言い使った。
町周辺の地勢調査だ。
とにかく周りの町への道路整備のための地図造りに駆り出された。
また、この時も敵の進攻の警戒調査も前回同様に命じられた。
どうも司令部は俺に町に居て欲しくないようだ。
しかし、俺は宮仕えだ。
命令には従うが、悪意しか感じないのは俺の僻みだろうか。
一度危険性について調べているので、今度は順番にメンバーを選んでジャングルに連れて行く。
そんな感じで町周辺で1年を過ごしていった。
この一年はほとんどジャングルにしかいなかったように感じるが、町に戻れるので、休める時には前のように何もない場所ではないので、色々と部下たちは楽しんでいる様だった。
補給もかなり頻繁に来るようになってきているので、帝国からかなりの嗜好品も入るようになっている。
何より大きく変わった事はおやっさんが予てから作っていた官庁街がある程度出来上がり、来月にはこのジャングルにできる国の政庁舎がオープンするんだと。
帝都から殿下もいらしてお祝いするんだと。
なので、今その準備でかなり周りが慌ただしい。
殿下が来た時に正式にこの国と帝国とで条約の調印式が行われ、あの防衛軍も発足するそうだ。
防衛軍ができれば俺の仕事も終わるだろうと期待していたが、どうもそうならないらしい。
防衛軍の他にこの町に帝国の駐留軍が駐留することになっているそうだ。
これは大使館の警備という名目で、一個大隊の駐留が認められたとかで、俺もそこに駐留する部隊に置かれるらしい。
あと数年、俺をあの忌々しい法律で定められた期限一杯使いつぶすつもりの様で、本当に腹が立つ。
まあ、所詮は社畜出身だった俺なのであきらめもつくが、まだ若いアプリコットやその同期の若い士官たちには本当に気の毒だ。
前に一度アプリコットに話したが、彼女はあまり気にはしていない。
それどころか、俺と一緒だったことで信じられないような速さで昇進している方が色々と怖いそうだ。
ほとぼりが冷めるまでジャングルに居た方がアプリコットも安心できるといっているが、果たしてどうか。
まあ、俺の上に来る大隊長が誰になるか分からないが、その上司が来たら一度彼女たちについて相談しよう。
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