第276話 揃うメンバー
俺らはマリーさんを連れて居留地と呼ばれているところまで来た。
慣れた道となっているので、途中で夜営を一回するだけで到着することができた。
もう少し道を整備すれば少なくとも夜営の必要は無く、行き来できるようになるはずなのだが、これはおやっさんに任せよう。
居留地に着いたらすぐにキャスター少佐を呼び出して、マリーさんの件を話して紹介しておいた。
「ちょっと、待ってください、大尉。お話が違うような……」
「話が違うって、どういうことなんですか、キャスター少佐」
「今のお話を聞く限り、私がマリー様と一緒に国軍を創設するように聞こえるのですが」
「ええ、私もそのつもりで説明しましたから、私の意図はきちんと伝わったようです」
「ええ、私は、新たに作られる国に亡命してそこでしばらくは防衛の任に当たると聞いておりましたよ」
「ええ、皆様にはそのまま国軍に参加してもらい直ぐに国防に当たってもらうことになるでしょうね」
「そのお話のどこに国軍創設があるのですか」
「え? だって、そこには国防を担える軍が無くなっているのですよ。あの黒服に完膚なきまでに壊されたとマリーさんが教えてくれましたから」
「………」
「無くなれば新たに作らないと国防なんてできないのは道理です。キャスター少佐には国防のために新たに国軍を作ってもらわないと、どこに所属して国防に当たるというのですか。そこのマリーさんは町長に無茶振りをされたらしく、『国軍創設の件よろしく』と言われたので、非常に困っていたもんだから連れて着ました。これからお二人で、自分たちが働きやすいように職場を作ってくださいね」
「キャスター少佐。諦めてください。どうも、この件は決定事項の様です。少なくとも近代戦を戦う国軍はそれを知らないと作れません」と切り出してからアプリコットが説明していった。
どこまで話をしたか分からないが、帝国との防衛軍構想も説明しながらジャングルにその防衛軍として共同して国防に当たれる軍隊を作るための人材が必要なことを説明していった。
マリーさん達は決して弱い訳では無い。
また、知能が低いわけでもない。
要は知らなかっただけなのだ。
近代戦としてどのような武器が使われて、どのように戦うかを全く知らない。
そんな人に国軍が作れるはずがない。
なら、それを知る人に協力してもらわないといけないことは自明の理だ。
そのよく知る人が優秀であればなお良く、更に一緒になって働いてくれれば最高なのだと、懇切丁寧にアプリコットは説明していた。
「大尉は初めからそのおつもりでしたのね」
「え? 初めからというとどの時点でしょうか。まあ、帝都で殿下に聞かれた時にはちょうど良い人がいたので、その人を起点に考えたことを提案してきました」
「え? それでは、私が初めから国軍創設に使われるとお考えでしたの」
「ええ、できる人をいつまでも遊ばせておいてはもったいないでしょ。 ただでさえ、ここは人材不足で、使えない私にも毎日のように無茶振りをしてくる職場なのですよ」
「帝国の英雄とも言われる大尉のお言葉とも思えませんね」
「え? だって、私は軍人ではありませんよ」
「大尉。あなたは、今は立派な軍人です」
「だそうです。でもボイラーの修理工に1週間の教育という名のいじめに遭っていきなりジャングルに放り込まれただけの一般人なのですよ。そんな私だけが無茶振りに遭うのはなんだか悔しくはないですか。できればお友達が欲しいかなと」
「そんな友達にはなりたくはないですね」
なんだか少佐に呆れられたようだが、とにかく少佐はこの件を理解した。
納得して了承はしてくれていないが、こう云うのは『なし崩し』が大切だ。
暫くここで、マリーさんと一緒にキャスター少佐の部下たちと訓練して、交流を図ることになった。
俺は、いつまでも町にいるアンリさんを放っておくわけにもいかず、町に帰ることを伝えたら、できるならマリーさんの部下にもここに来てもらいたいと伝言を頼まれた。
まあ、ここは元々あの町の勢力圏内だ。
今のところ国境?に近い場所になる筈だし、国境警備の拠点にもなりうる。
将来的にはここに軍事基地ができても良い環境であるから、ここで国軍を創設してもらうのは案外理にかなっているかも。
ここなら司令部にも近いし、武器弾薬の補給にもそれほど苦労はしない。
しかもサカイ連隊の基地とはお隣だし、帝国もここなら安心して亡命したキャスター少佐たちに武器を渡せるかな。
そんなことを考えながら町に戻った。
当然置いて行かれたアンリさんは完全にご立腹だ。
俺が町に戻ると知るといきなり尋ねてきて、俺を町の拠点を置いている家に連れて行った。
ここの一室に閉じ込められ、優に2時間はありがたいお小言を頂いた。
その後にやっと国軍について聞いてきたので、俺はマリーさんを居留地に置いてきたことを報告した。
キャスター少佐には国軍創設について説明してあるので、後は放っておいても大丈夫だろうと報告しておいた。
「なら、私は国家の骨組みを作らないといけないわね」
アンリさんは独り言のように言ってきた。
「大尉はこの後のお仕事の予定はどうなっておりますの」
「ええ、シノブ少佐に付いて大使館を作ることになっております」
「え、大尉の部隊って工兵でしたっけ」
「いえ、私の部隊はバリバリの戦闘部隊のはずなんですが、前にいた新人なんか異動するまで自分たちを工兵だと信じて疑っていませんでしたね。なんかちょっと変わった部隊になっているようです」
アプリコットが今までのことを簡単に説明してアンリさんは納得したようだ。
俺はアンリさんから解放されたのちに、シノブ少佐の元に向かった。
今は同じ建屋内で仕事をしているというので、シノブ少佐が事務所として使っている部屋に案内された。
そこにはシノブ少佐の部下で、前に師団本部建屋を一緒に作った面々が待っていた。
「や~久しぶり。今度こっちの仕事か」
「久しぶりです大尉。またずいぶんご活躍だったとかで」
「ええ、こっちで仕事することになりました。 おやっさんから、大尉と一緒に大使館を造れと言われて、例のパワーショベルも持ってきましたから、今度はもっとすごいのを作れますよ」
「ということだ、グラス大尉。上からは何も言われてはいないが、一応自重という言葉を頭の隅に置いて仕事をしてほしい」
「ハイ、大尉。おやっさんからは、あんちゃんの指示に従えとだけ言われていますから」
「それじゃあ、これから仕事場に連れて行ってやるよ。サリーちゃんも待っているしな」
「え? またサリーちゃんの入れてくれたコーヒーを飲めるのですか」
「ああ、三代目のサリーちゃんのおうちは開店しているよ」
「大尉、私は大尉に忠誠を誓い一生ついていきます」
そう言って俺の手を握ろうとしてくる連中をどうにか退けて詰所に連れて行った。
しかし、こんな連中をサリーに近づけてもいいのか正直不安になって来る。
前に一緒に仕事をしていた時からこいつらはサリーちゃんの大ファンを公言してはばからない連中だったけど、しばらく会わないうちにさらに病気が酷くなっているような。
まあ仕事だけは、というより気に入ったことだけは手を抜くことを知らずに突き進む、正におやっさんの部下にもってこいの連中だ。
これから作る大使館も楽しいことになりそうな予感がしてくる。
そんなウキウキする俺とは対照的に頭を抱える人が二人。
シノブ少佐と、アプリコットだ。
まあ、あの二人は頭を抱えるが、諦めるのも早いので実害はない。
詰所に戻ってから早速設計図をこいつらと作っていこう。
しかも今回はきちんと仕事として請け負っており、これが完成するまでは変な命令も来ないだろうし、本当に楽しみなことだ。
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