第275話 マリーさんの試練
町長との挨拶を終えて、また建設現場に戻った。
もうここは建設中とは言えなくなっており、小屋は完成しており、今は周りの片づけを行っていた。
俺は現場で指揮を執るメーリカさんを捕まえて、完成の打ち上げを開くことにした。
俺はアプリコットに命じてお土産に買ってきたお酒を全部供出した。
それを見た山猫さんたちが大喜びで、できたばかりのレンガ小屋の前に運んでいった。
そのまま夜通しの宴会となり、夕方に合流してきたシノブ少佐たちの部隊とも無礼講で飲み明かした。
幸いというか、残念というかは意見の分かれるところではあるが、かなり大量に買い込んだはずのお酒はこの一回で全部綺麗に無くなったが、参加した人数が多かったのもあって、二日酔いで死んでいた人は少なかった。
シノブ少佐からは後日本当にすまなそうに詫びを入れられたが、まあ俺としては全部お土産だったので、気にはしていない。
シノブ少佐の気が済まないだろうから、『次はシノブ少佐のおごりを期待しています』とだけ言ってその場を収めた。
翌日、連絡のあった通りに司令部の車がアンリ外交官を連れて来た。
俺らの惨状を見てかなり呆れられたが、俺はアンリ外交官をできたばかりの俺らの城に案内した。
「ここは何ですか」
「ここは私の部隊の本部になります。昨日完成しまして、そのお祝いをした結果が見ての通りです」
「それでですか。ところで、例の件はどうなりましたか」
例の件、これはキャスター少佐たちの処遇の件だ。
キャスター少佐たちの説得は終わっている。
俺はアンリ外交官にその件を報告した。
「そうですか。次はこちらでの受け入れですね。それは私の仕事ですかね」
「その件ですが、先日挨拶に伺った際に、事前に町長に内諾を貰っております。独断での先走り、お詫びします」
「え? 町長はその件を知っているのですか。内諾まで」
俺は、昨日の話をアンリ外交官に説明しておいた。
なにせ、口頭での話だけだ。
ここからはきちんと外交的に問題ないくらいまで詰めて行かないといけない
まず軍事面での現状の話からだが、今のこの町で、軍事面を考えられる人間などほとんどいない。
そういう意味でも、きちんと国軍を造れるくらいまでの能力を持つ人が必要だ。
その役目をキャスター少佐に任せたらともアンリ外交官に提案しておいた。
また、この話は既に町長にも提案済だ。
サリーちゃんの姉のマリーさんについてもらい、キャスター少佐に一から国軍を作ることを話してある。
その話もアンリ外交官に説明しておいた。
「そこまで話が付いているのですか。では、私は文書で両者の確認を取るだけですかね」
そこで俺は一つの懸念を話しておいた。
ここはまだ国ではない。
少なくとも町長にはその意識が無い。
そんなところに大量の亡命者が受け入れられるのだろうか。
いや、国でないので、そもそも亡命が成立するのかということだ。
キャスター少佐たちを含め我々に取りうる選択肢は俺が考えただけで二つある。
乱暴な話だが、町長がこの町だけで国を立ち上げる。
その上でキャスター少佐たちの亡命を受け入れながら周りの村を取り込んでいく。
この方法だと、後から取り込まれる周りの村とこの町とで、意識の差からしこりが残らないか心配がある。
もう一つの案としては、キャスター少佐たちを含め一緒に国を作っていくという案だ。
これは順番が逆にはなるが、できる範囲でこの町を中心に国軍を作り、少なくとも周りの9個の村と一緒に建国させる案だ。
これだと建国が少なくとも一月以上は遅れるが、しこりを残さないという面ではかなりの利点がある。
しかし、帝国側としては、既に国があるとして扱う方針なので、この一月以上の遅れが今後にどう影響があるか分からないともアンリさんは言っている。
その辺りを含めアンリさんはこれから町長にあって相談しておくそうだ。
では行ってらっしゃいと手を振っていたら、頭をこづかれて連れて行かれた。
最後まで面倒を見ろというのだ。
アンリさんは優秀な外交官であるうえ、意識の高い貴族の人だ。
問題点を包み隠さずに議題に上げて、町長と一緒になって考えて行く方針を取った。
町の側も、町長一人とだけ話し合うのではなく、町長の息子さんと、この町における助役の地位にある人にも参加してもらった。
ここに集った人は一人の例外なく共和国に対しての危機感はある。
特にあの黒服連中にはあの僅かな期間だけで、かなりの被害を出したのだ。
しかもその被害は、町の上層部に集中しており、町の有力者のかなりの人は既に鬼籍に入っている。
ある意味これが幸いして議論が空転しないですんだ。
町の上層部で、残ったのが穏健派の老人ばかりで、急進的な考えを持つ比較的若いのは真っ先に連中に殺されたのだ。
結局二日にわたる話し合いの結果、帝国には町長を元首とする国がこの場所には古くからあったが、その形態があまりにあやふやなために、この度帝国との同盟の話をきっかけに改革していくということを帝国に向けて公に発表していくことで決着を見た。
その改革で、周りの村々を巻き込んで一挙に建国してしまおうというのだ。
周りの村々にはその辺りについてもきちんと話し合うと言ってくれた。
俺にとっては不毛ともいえる話し合いから解放されてこれでやっと好きな建築に入れると喜んでいると、マリーさんから声を掛けられた。
「あの~、隊長さん」
「あ、サリーちゃんのお姉さんの……」
「マリーです。隊長さん、ちょっといいですか」
「ハイ、お話ですか。なら立ち話もなんですからこちらに」と言って案内したのが俺らの新たな拠点。
初代サリーちゃんのおうちとほとんど同じ造りの、三代目サリーちゃんのおうちになる俺らの拠点だ。
「サリーちゃんのおうち??」
「あ、気にせず中へどうぞ」
俺はマリーさんを中に案内した。
「あ、お姉ちゃんいらっしゃい。 隊長、今日は……」
「ああ、お姉さんが俺に話があるというのでな。俺はコーヒーを頼みたいが、まだあるか」
「大丈夫です。この間補給が来ましたから。それでお姉ちゃんは何を」
「え? 私は……」
「なら紅茶を出しますね。それと相性のいいクッキーね。これ私が焼いているのよ」
「あ、ああ、ならそれを貰おうか」
俺は中にある大きな机の前に座らせてマリーさんの話を聞いた。
彼女の話は新たに作られる国軍に関してだった。
彼女の上司に当たる町長に国軍創設を命じられたのだが、どうしてよいか全く分からないという話だった。
しかも命じた町長もその息子さんも完全に彼女に丸投げで、どうすればいいか分からないと彼女が彼らにくらいついて聞いていたが、あっさりと俺に聞けという一言で終わったようだ。
どこの世界も上司で使える人はいないという見本のような話だ。
その後、俺はマリーさんの愚痴をコーヒーを飲みながら聞いていた。
正直、俺の仕事ではない。
本来ならばとっくに手の離れた案件であるが、やはりそういう教育や経験の無い人には絶対に無理な案件であることも理解している。
ということで、俺には絶対に無理な案件だ。
そこで俺の生活信条であるが、『できなければできる人を探せ』だ。
まあ、人探しなら俺でもできる。
こういった政治も絡みそうな案件ならアンリさんを通して帝都から適当な人をよこしてもらうことも考えたが、それよりも軍事に特化して、とにかく優秀な人を俺は知っている。
ということで、愚痴を吐き出して落ち着いたマリーさんを俺は居留地に連れて行った。
後は任せたメーリカさん。
シノブ少佐の指示に従っては無理か。
とにかくレンガの増産に勤めてくれ。
直ぐに必要になるから。
ということで俺はジーナをマリーさんに付けて、アプリコットを連れて最少の人数で町を離れて居留地に向かった。
アンリさんの護衛は……、知らないよ。
多分シノブ少佐がいるから大丈夫だ。
俺のことを守るといったくせに早々と裏切ったアンリさんのことは知~~らない。
「大尉、キャスター少佐と話を付けたらすぐに戻りますからね」
居留地に向かう車内で、現実的なアプリコットは俺に命じて来た。
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