第251話 お話合い
俺は引きずられるように建物の中に連れて行かれた。
ほとんど無理やりサカイ大佐と向き合うように座らされ、お話が始まった。
「で、話を聞こうじゃないか、グラス中尉」
え、しょっぱなから何?
申し開きがあるのなら聞いてあげると言わんばかりの言い様だ。
俺って、犯罪者??
「話って、何でしょうか」
「報告に決まっているでしょ。詳しく聞かないとな」
詳しく聞かないと、今度は私がサクラ閣下にどんな扱いを受けるかわかるだろう。
と、何やらサカイ大佐の心の声が聞こえてきた。
俺は少しばかり身の危険を感じ、正直に今までの経緯を話した。
今回は犯罪取り締まりのような雰囲気ではあるが、それでも俺の弁護人であるアプリコットや弁護側証人であるキャスター少佐も居るので心強い。
かいつまんで、町に近づく途中で現地兵士を黒服兵士(グラスが勝手に命名)から保護して、彼女たちと共同で敵黒服兵士に占領されている町を解放した。
その際、捕まえられている現地兵士のリーダー的存在のマリーさんや共和国の英雄であるキャスター少佐を黒服兵士の乱暴から無事に救出して、キャスター少佐の部下も町を解放した後に保護して現在に至ると報告をした。
「さっぱりわからん。何故、キャスター少佐が保護されるのだ」
「何故と言われても、襲われていたので保護しました。何故襲われていたのかまでは分かりません。本人もいますし、お聞きになりますか」
「……ちょっと待て。先ほどの説明で、町に入る前に黒服から保護したといったが、その黒服はどうしたのだ。殺したのか」
「あ、そういえば、報告から漏れておりましたね。捕虜にしておきました。あの捕虜たちどうしたっけ」
「まだ、トラックの中かと」
「『たち』って、捕虜はそいつ一人ではないのか」
「いや、黒服の捕虜って、佐官級が二人と、尉官級が4人だったっけ。トラックに縛り上げ寝かせてあります。町を占領していたのがそいつらですから、捕まえられるのは捕まえて捕虜にしました。すみませんが、その処理もお願いします」
「な、何をやっているんだ。誰か、誰か直ぐにトラックのところに行って黒服を着た捕虜を処理してくれ」
その後少しどたばたとあってから、俺らのお話し合いが再開した。
あのまま解放とはならなかった。
「中断させて済まなかった、キャスター少佐。先ほど話が有った辺りの説明をお願いできますか」
キャスター少佐の説明が始まった。
要は、後から来た黒服兵士があまりの無軌道で業を煮やしたキャスター少佐からの抗議に逆切れした連中が、怒り狂って乱暴を始めたというのだ。
しかし、俺の見たところ、きっかけこそそうなのだろうが、襲われることは初めから決まっていたように思えた。
でないと、彼女の部下の歩兵大隊の持つ武力を無力化しなかっただろう。
本国から離れたあの黒服の連中は、本当に好き勝手しまくる。
帝国と向き合う前線では直接命にかかわるので、無軌道の振る舞いは控えているようだが、その代わり、そうでないところでの行動に歯止めがかからない。
現地勢力や俺ら敵に対してはもちろん、下手をすると味方であっても、下品な欲求をぶつけている。
その証拠にこちらへ亡命を希望しているアンリさん達の例もある。
共和国内での立ち位置が少しでも弱ければ簡単に襲われる、そういう空気がここゴンドワナ大陸にあるようだ。
まあ、なんだかんだと言っても、キャスター少佐やアプリコットの説明もあり、俺らは無事に釈放された。
サカイ大佐の顔色をうかがうに、まだ釈然としていないが、これ以上聞いても分からないというのが彼女の気持ちだろう。
俺だって、なぜこうなったのか分かっていないのだ。
外交的会談の約束もあり、俺は急いで町に引き返したいので、直ぐに出発するように周りに命じた。
決してサクラ閣下につかまる前にここを離れたいという欲求からではない。
心の中でちょっとばかりそういった気持ちも無くはないが、決してそのようなことは無いという風に振舞った。
幸い良くできた部下たちなので、燃料の補給から休息及び食事も済ませているようで、直ぐに出発できる態勢は整っていた。
「隊長。隊長たちの食事はこちらに用意させておりますが、車内でお食べになりますか」
「ありがとう。では出発しますか。…… あれ?? おやっさんはどうしたの?」
「既に最前線の基地に向かわれております。連隊の指揮権引き継ぎがあるとかで」
「グラス中尉。 そんなことは良いですからすぐに出発しましょう」と俺の会話を遮って指揮車にアンリ外交官が乗り込んできた。
彼女のお話し合いも終わったのだろう。
俺は皆に促されるまま車に乗り込んで直ぐに発進させた。
今回のメンバーも、ここに戻ってきた連中だけを連れての移動だ。
俺の中隊で、留守番組は今回もお留守番だ。
しかし、出発前に留守番を任せているメリル少尉には、「迎えをよこすから、直ぐにでも移動できるようにしておいて」と伝え、準備をさせた。
今までの経験上、アンリ外交官の外交交渉などで、町に駐在することになるだろう。
その場合、彼女の警護などの理由で俺らも町に駐在させられる。
いつまでたっても俺らの部隊は最前線に置かれる運命だ。
そんなことを考えていると、ジーナが面白いことを言ってきた。
彼女は俺に報告しているつもりなのだが、内容が面白い。
「今回の移動で、サカキ大佐にはシバ大尉も同行されるそうです」
「え?シバさんも行くのか。彼も好きだね。 敵の戦車を見られると聞いては我慢ができなかったのかな。でも、いいのか。おやっさんの連隊の高級士官になるのだろう。そんな人が連隊長であるおやっさんと一緒に連隊をほって置いても大丈夫なのか」
「シバ大尉なら青い顔しておやっさんの車に乗り込んでいったよ。どう見てもそんな浮ついた雰囲気じゃなかったな」
運転中のメーリカさんが教えてくれる。
俺は用意された弁当を食べながら話を続ける。
「どういうことなのかな」
大きなため息を吐きながらアプリコットが説明してくれた。
「サカキ連隊では連隊長であるサカキ大佐の暴走を恐れているようです。サカキ大佐の暴走を止められるのはこの基地にはいないでしょう。唯一できることは暴走する前に止めることですが、それすらできる人は限られております」
「え?誰なの」
「シノブ少佐とシバ大尉のお二人だけだと聞いております。古くからお付き合いのあるサクラ閣下でも難しいといわれるくらい難しい事のようです」
「あ~、それ、聞いたことある。 あのおやっさん、隊長と違ってほとんど暴走しないので、あまり知られていないようですが、一度暴走するとかなり周りに迷惑をかけるとか。迷惑と言っても、これも隊長と同じように結果的には良い感じになるので公には問題にされていないようですが、彼の弟子たちはその処理に奔走しないといけないので、管理が大変だとか」
「でも、上手にコントロールできんだよね。シノブ少佐やシバ大尉は。なぜそんなに悲壮感を漂うわせているのかな。メーリカさんの見間違えなのかな」
そんなおやっさんについての会話に、急に小声でさも自信無げに加わってきたのはおやっさんから預かっている整備担当のマキアさんだった。
こんな会話に加わるのなんて、彼女と一緒に行動するようになって初めてかもしれない。
「あの~~、私知っております」
「え?誰?マキアさんなの、珍しいねマキアさんがこんな与太話に加わるのなんて。で、何を知っているというの」
「私、出発直前に、シノブ少佐とシバ大尉に命令、いや、懇願されました」
「懇願???何それ」
「隊長を、その……」
「え、俺? 良く聞こえなかったよ。なんて言われたの」
「え、隊長、私が言ったわけじゃありませんよ。だから怒らないでくださいね」
「マキア。大丈夫だよ。私が隊長を抑えるから」
「マキアさん。私が保証します。何を言っても、隊長から叱責が出ないように私が保証します。分かってますよね隊長」
「ああ、メーリカさんやアプリコットに言われれば俺には何もできないよ。それに、多分失礼な話だろうけど、それを言ったのがシノブさん辺りだろう。文句を言うのはそっちに言うから」
「隊長! 大丈夫です。マキアさんに不利益が出ないようにしますから。で、何を言われたのですか」
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