いざ決戦のジャングルへ

第234話 静かに出陣

 師団本部での理不尽な扱いを受けた後に直ぐにでもジャングルに出発するつもりだったのだが、これがそうもいかなかった。

 今回の探査は、師団本部挙げての計画にまで話が大きくなっている。

 まあ正直、今回の件については、師団本部扱いになるのもうなずける話で、この師団始まって以来、初めての本格的な戦闘になりそうな機運が漂っているのだ。

 ここジャングルで本格的な戦闘の端緒を開くことにもなりかねない話なのだから、サクラ閣下も本気にならざるを得ない話だ。

 サクラ閣下とレイラ大佐の本気度は、計画の分析・立案等の進め方を見て、理解できる人にはわかるように勧められた。

 早い話、使えない本土から政治的配慮で送られてくる連中に、今回の探査計画に一切関わらせていない。

 今度も俺の中隊の通常業務範囲で行う体裁を整えながら、師団全体で、迎え撃つ準備をしていく。

 俺の出発を最後まで遅らせていたのは、この基地で一番不足している人の問題だった。

 今回俺に同行するのは2個小隊1個分隊プラスαである。

 あ、忘れていたが、今回は探査の目的だが、ローカル勢力の救助の意味合いがあるので測量などはする暇もないのだが、付近の案内役として亡命者から、測量の専門家でもある元技術少尉のアンリさんも同行する。

 彼女に作ってもらった簡易な地図で案内をしてもらう予定だ。

 逸れた話を戻して、今回のメンバーだが、分隊は言わずと知れた俺の片腕、いや俺の中隊の屋台骨である山猫の皆さんだ。

 中隊の運営上止むを得ずに、今までバラバラにして中隊を運営してきたのだが、今回ばかりはそうもいっていられなくなった。

 そこで、特別に全員を集めて分隊にしてメーリカさんに指揮を取ってもらった。

 なので贅沢な分隊が出来上がった。

 なにせ分隊の構成員全員が下士官で、その頭を少尉が取るあり得ない編成なのだからだ。

 しかし俺の手持ちからはこれ以上ない組み合わせだ。

 また、随伴する2個の小隊も、これまた贅沢なことが許された。

 先に約束してもらったサカイ連隊から連隊最高の小隊を応援に出してもらえた。

 この小隊がすごい。

 なにせすでに伝説になりつつある花園連隊の中でも最高水準の評価を頂いていた小隊がそのままであるのだ。

 歴戦の勇士で構成されている小隊だ。

 また、もう一つは、俺が中隊長になった時から一緒にいてくれる、帝国の精鋭の一つのまで数えられている海軍陸戦隊からの出向組の小隊だ。

 これらの準備にはさほど時間がかからなかったのだが、バラバラだった山猫を元に戻すのに少々苦労はしたが、それ以上に時間が掛かったのがプラスαであるところの士官連中だ。

 今回は覚悟を決めての探査なのだが、それ以上に新任士官の初陣になりうるものだから、俺のところに配属されている士官の内、一人でも多くの士官を連れて行かせたいとの司令部の意向が働いた。

 そうなると、俺の中隊の大部分を占めているひよこさん達の面倒を見る者がいなくなる。 

 そこで、士官である彼女たちが抜けた後の面倒を見る体制を作らないといけなくなるので、時間が掛かった。

 俺のところで預かっている新任士官全員を連れて行く訳にはいかないために、すったもんだの挙句に、ジーナとカリンにケートの新任少尉3人を連れていくことが決まり、彼女たちの指導教官役にひよこたち200人を見てもらっていたメリル少尉も同行することになった。

 当然、ひよこたちの面倒は他が見ることになる。残る新任少尉をシノブ大尉が面倒を見ることになり、おやっさんのところに戻ったシノブ大尉はそのまま居留地でこれらひよこの面倒を見る予定だ。

 何故に工兵連隊がとは思ったのだが、おやっさん曰く、お前の部下は工兵とは非常に相性が良いらしい。

 あれらひよこの先輩もあずかっていることだし、問題ないとのお墨付きを頂いた。

 また、おやっさんから配備されたばかりの新型悪路走破用のトラック一台も借り受け、重機関銃装備の軽車両3台に機関銃の装備されていないいわゆる標準型軽車両2台、それに俺がいつも使っている司令車両1台の機材の準備が整い、あれから10日後に基地を出た。

 基地を上げての作戦だが、表向きが俺の日常業務の延長上のために派手な出発式はなかったのだが、出発する朝にサクラ閣下がレイラ大佐と彼女の幕僚を連れて見守る中の出陣だったために、ジーナたちが緊張していたのが面白かった。

 俺らは、司令車両を先頭に隊列を作り、アンリさんの案内で、前に発見した敵の形跡のあった場所まで、直行するルートを取る。

 この前基地に帰るときに通ったルートを、バイクなどの先行組無しで進むので、ある意味かなり危険な行為ではあるが、今は時間が惜しい。

 今基地にしている村の二の舞だけはどうしても避けたいが、あれから10日が経っているのだ。

 救えるかどうかは、はっきり言って微妙ではあるが、俺にできることを精一杯するだけだ。

 今回は、とにかく隠密的な行動が要求されるので、前に発見した形跡の場所まで行ったら、いつものようにバイクを使っての先行探査ができないので、そこからは徒歩での移動が中心となる。

 安全を確認しながら車両を移動させるので、今までのようなスピードでジャングル内の探査はできそうにないが、今回のメンバーは文句なく一流ぞろいだ。

 早々遅れは取らないだろう。

 俺ははやる気持ちを抑えてはいたが、どうしても進行が速くなりすぎる。

 そんな俺の態度に対して、最初の休憩ポイントでメリル少尉に注意を受けた。

 そういえば、彼女との移動は、いや、活動全てで一緒に行動したことがなかった。

 そのためか、うわさでは聞いていただろうが俺の性格を彼女は理解しきれていなかったのだ。

 理解している他のメンバーは、確かに俺が焦っているのを理解しているが、まだ大丈夫と踏んだのだろう、苦笑いはしていたが何も言ってこなかった。

 でも、彼女の進言は正直ありがたかった。

 俺自身、今の俺の気持ちを理解していなかった。

 かなり焦っていることを彼女の進言から知ることができた。

 もう大丈夫だ。

 焦る気持ちはそう簡単には消せないが、慎重に行動はできる。

 休憩を終え、その後の部隊進行は先ほどとは打って変わって慎重な行動がとれるようになった。

 種明かしは、俺とアプリコットだけが、指揮車両から出て、最後尾を走るトラックに移動したのだ。

 指揮車両はメーリカに任せ、彼女のサポートにメリル少尉を乗せた。

 ジーナもそのまま乗っていることだし、最初の目的地までの移動については問題ないだろう。

 俺はトラックに乗っている陸戦隊のケート少尉と、これから起こることの予測を立てていた。

 そんな姿を、いつものごとく心配そうにアプリコットは見ていた。




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