第224話 建機って何?
「グラス中尉、お久しぶりです」
「あ、軍曹、その節はお世話になりました」
「いえいえ、こちらこそ。それより聞いておりますよ。またまた大活躍だったそうで。すぐにまた昇進ですね。今度は此処に来て下さい」
「いや、何のことだか」
「それよりも中尉は運がいいですよ。昨日から、またもう一艘の解体が始まりましたから。と言うより、昨日突然帝都の命令でここに敵さんの駆逐艦が運ばれ解体を命じられました。普通なら敵の船はすべて本土で、技術者総出で調査されるのですが、見ての通り2世代以上前の駆逐艦なのでいきなり解体命令です。お偉いさんはこっちの都合なんかお構いなしに命じるだけで簡単ですが、こっちはただでさえ狭い解体現場に予定外の船が入り大変なのですよ。最近では使えるものを丁寧に取り出すので、今まで以上に手間がかかるというのに」
「なんかすみませんね。俺が余計なことを持ち込んでしまったようで」
「いや何、手間の方は構わないのですが、現場の都合ってものを考えてほしいという我々の愚痴ですわ。すみません」
「中尉、私は海軍の船には詳しくはないのですが、この船は変わっていますね」
「変わっている?」
「この船の武装が狭い前側にだけしかありませんね。海戦については一応士官学校で教わりましたが、船の武装って前後に砲身なんかがあって、横方向ですべての砲身を向けて打ち合うものかと思っていましたが、この船だと後ろの広々とした部分は無駄なように思われます。私だったら後ろにも武装を施したくなりますね」
「お、いいところに気が付きましたね、アプリコット少尉殿。そうなんです。私もまだ詳しく見分したわけじゃありませんが、この旧型駆逐艦と言っていいのかわかりませんが、多分、敵さんはこの古くなった駆逐艦を改造して輸送船にでもしたのではと睨んでおります。後ろは多分、荷物倉庫だと思いますよ。それだと、煙突の後ろにあるクレーンを使って荷物の積み出しができますからね。敵は積載量よりも輸送速度にこだわったかもしれませんね」
確かにそのような格好の船だった。
制海権が維持できにくくなってきた敵は単独でも補給物資を運べる船を欲したのだろう。
解体される予定の駆逐艦を使って荷を運ぶために計画を立てたのだろうが、制海権をがっちり確保している帝国に簡単に拿捕されたものだと思われる。
帝国は拿捕したはいいが新型ならともかく明らかに旧型の駆逐艦なので、全く興味を持たずに近くの解体現場に曳航したのだろう。
しかし、軍曹の言うようにこれは俺らにとっては運がよかった。
邪魔な兵装がない分、船底に近い場所からでも欲しいものが取り出せる。
「軍曹、この船から勝手に何をとってもいいのか」
「へい、大丈夫ですよ。でも、目ぼしいものがありましたら一応報告ください。そういう決まりになっていますから」
俺は、ここまで案内してくれたウィンストン中尉にも確認を取ると、簡単に了承してくれた。
早速、俺らは自前のヘルメットをかぶり船に入っていった。
先ほど軍曹の言われる通り、この船は明らかに輸送船だった。
後部甲板には大きな板で覆われているが、それをクレーンでどけるといくつかに区分けされた船倉が出てきた。
ほとんどが空だったのだが、一番中央寄りの船倉から非常に興味深いものが出てきた。
俺らはクレーンを使って注意深く荷揚げして確認を急いだ。
いくつかに分解されてはいたが明らかにこれはパワーショベルと言われるやつだ。
令和の現代で使われている新型なようなスマートさは全くないが、これを組み立てれば絶対に見覚えのあるパワーショベルになる。
すぐに俺はウィンストン中尉に報告を入れ、シバ中尉とうちの整備兵のマキアを連れて組み立てに入った。
2時間ばかりで簡単に組み立てられた。
油圧部分があるのでもう少し時間がかかるかと思っていたのだが、よくできたもので分解を前提に作られたものの様だった。
「敵の技術に感心はしたくはありませんが、これは良くできたもののようですね。ところで私はこういった兵器に見覚えがありません。中尉はこれが何に使われるものかわかりますか」
俺はシバ中尉のこの言葉に驚いた。
しかし、そういえばこれがこの世界に来てからパワーショベルを見たことが無かった。
もっともこういった建機が使われる現場に近寄らなかっただけだと思っていたのだが、まだ一般的に出回っているものじゃないのだろう。
そういえばブルドーザーは見たことがあったので、このパワーショベルは敵の発明と言うやつだ。
俺は時間が惜しいこともあったのでアプリコットにシバ中尉の部下を付けてもらい、本来の目的であるタンク類や発電機などの回収を頼んで、この建機について簡単に説明した。
「シバ中尉。あなたはブルドーザーを見たことはありますね。これはそのブルドーザーと同じように土木作業に使われるものです」
「ひょっとしてあの先端のバケツで何かするのか」
「そうです、あれを使って土などを掘るのに使います。いや、使うと思われます」
俺が見たこともないものに詳しいと下手に勘繰られないか急に心配になって言い回しを変えた。
しかし皆は誰一人としてパワーショベルに気を取られていたようで気が付かないようだ。
先ほどの軍曹が騒ぎを聞きつけてやってきた。
「なんですかこれは」
「どうやら敵の機械の様です。使用目的についてはいまいちよくわかりませんが、中尉の言われるには建機の一種だとか」
マキアが軍曹に説明していた。
「いや、その建機っていうのも良くわからないけど、それより、ウィンストン中尉。これは報告案件じゃないでしょうか」
軍曹は先ほど俺に言ってきたいわゆる決まりってやつを思い出したようで、基地の士官であるウィンストン中尉に報告するように上申したのだ。
「そ、そうだな。すぐにマリー大佐に報告しなければ。電話してくる」と言って、ウィンストン中尉が走りだした。
俺は、これは使えると非常に喜んでいたが、肝心なことに思い付いた。
これが使えるとして誰が運転できるのだ。
この存在を知らない基地の連中や俺らの仲間は論外だ。
となるとまずは俺が運転しないといけないようだが、俺も流石にパワーショベルの運転方法は知らない。
中を覗くと運転席のような場所に、図鑑やテレビなどで見たことのあるレバーがいっぱいある席があった。
どのレバーがどのように動かすためか全くわからないのだ。
これは少しづつ試すしかない。
某テレビ番組でタレントが使って居たのだが、彼とて資格試験を取るために練習していたのだ。
誰にだって初めてはある。
「私が試してみよう。ガソリンは入っているのかな」
「いえ、空のようです」
マキアが燃料タンクと思われるタンクのふたを開け中を確認していた。
「燃料はガソリンでいいんだよな」
「そうですね、中に残った臭いからして、普通のガソリンで大丈夫かと。しかしこれを動かしますか」
「ここにおいても邪魔だろう。よくわからないが少しづつ動かしてみよう。ガソリンを入れてくれないか」
俺はマキアに燃料を入れてもらうように頼み中に入ってマニュアル類を探した。
流石に民生品の建機だ。
軍需目的で開発されたのだろうが、民間の会社の製品の様で会社のロゴの入ったマニュアルがダッシュボードのような場所に入っていたのを俺は見つけた。
これならどうにかなりそうだ。
そうこうしているうちにここにマリー大佐がゴードン閣下を連れてやってきたのが見えた。
話がどんどん大ごとになってきたのだ。
これを動かせても俺らが使えないかもしれないと思うと、おもちゃを取り上げられそうになっている子供のように落胆したくなってきた。
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