第225話 パワーショベル



 マリー大佐がゴードン閣下を連れてやってきたときにはちょうどマキアもトラックから携行タンクに入っているガソリンを持ってやってきた。

「中尉、早速の成果かね。これが報告のあった敵さんの兵器か」

「あ、閣下までお越しでしたか。そうですが少しばかり報告が間違えております。これはいわゆる一般的な兵器ではなく、土木工事専用の機械かと思われます。しかしながら使い方によってはこれほど恐ろしいものはないと私は考えております」

「中尉の言わんとしていることが良くわからんが」

「そうですね、ちょうど燃料も入れ終わっているようで、動かしてみます。その上で私の考えがあっているようなら説明させていただきますがよろしいでしょうか」

「すぐに動かせるのかね。構わん。中尉の好きなようにやってくれ。あとで私にもわかるように説明してくれるのだろう」

「はい、では動かしてみます」

 俺は早速エンジンをかけてみた。

 この辺りは俺らが使っている指揮車とあまり変わらない。

 それもそうか、俺らの使っている指揮車は俺らが河原で鹵獲したものを修理して使っているのだ。

 あまりに使い勝手がいいので、そのまま使わせてもらっているが、こういった車両の性能は敵さんの方が一枚上手のようだ。

 このパワーショベルもストレスなくすぐにエンジンがかかった。

 本当によくできている。

 アクセルをふかしながら目の前にあるレバーを、それに伴うアームの動きを確認するようにひとつずつ動かしていく。

 油圧装置がスムーズに作動して、各々のアームが動いていく。

 動作のぎこちなさは運転手である俺の技量によるもので、慣れればこれは使える。

 車体の大きさが大型に近いので使える範囲が限られるかもしれないが、令和の日本の下町じゃあるまいしこまごましたところで軍は使わないので何ら問題はない。

 一通りレバーを操作してアームの動きを確認してから俺はエンジンを止めた。

「閣下。これは私の思った通りの機械です。この機械はアームの先端についているバケツで土をかいて穴を掘る専用の機械です」

「そんなのが使えるのか。それこそ兵士たちにシャベルでも持たせればいいだけでは」

「見ての通り力持ちなので、簡単に土地の整備ができます。特に港湾やジャングルなどで土地を開墾するときなど威力を発揮します。なにせ力が人間とは違いますから、簡単に切り株の処理ができます。できますなら私たちがすぐにでもジャングルに持ち帰り基地設営に使いたいくらいです」

「まだ私にはそいつの有用性が分からない。そうだな、もって行って構わんよ。その代わりうちから技術者を出すからそいつに使い方などを教えてくれ。その報告を待って詳細に国に報告を上げるとしよう」

「よろしいのですか。非常に助かります。マキア、すぐにこれを持って帰るので準備してくれ」

 それからが大ごとになった。

 ただでさえ運転がぎこちないのにトラックに乗せなければならないのだ。

 令和の工事現場でよく見かけるように自身のアームを使って上手に乗せることができない。

 すったもんだの挙句に最後は力業で港湾にあるクレーンを使って乗せたのだ。

 降ろすときに少々の心配はあるが、降ろすだけならどうにかなるだろう。

 当初の目的であるタンクや発電機などの回収もメーリカさん達によって簡単に終えていた。

 この船が輸送船として改修されていたこともあって船底から甲板につながる倉庫があったので、タンク類を倉庫に運びさえすれば港のクレーンを使って簡単に外に出せた。

 その上、トラックに搬入もそのままクレーンで行ったので、そちらは作業をすっかり終えていたのだ。

「何やら待たせたようだね」

「隊長の方は新しいおもちゃを見つけたようで、楽しそうだったな」

「向こうで見せてやるよ。すぐに戻ろう」

「師団本部に戻るのですか」

「シバさん達には悪いけど、このまま基地設営場所に向かおう。なにせ大物がいるので、その方が無駄が無い。あれを下ろしたらシバさん達を師団本部に送って、帰りにひよこさん達を連れてこよう」

「師団長への報告は無しですか」

 アプリコットが心配して声をかけてきた。

「報告はするさ。報連相は社会人の常識だろう。緊急性が無いので、これを下ろしたらジーナでも報告に向かわせるさ。なので報告書の方をよろしく」

 俺らは海軍基地から直接ジャングルに向かった。

 途中連隊基地もそのまま素通りして、例のジャングルにある天然の広場まで一気に向かったのだ。

 広場について、俺は突然ひらめいた。

 最初はこの広場に砦を作るつもりだったのだが、この広場はローカル勢力も使っているのを知っている。

 外から来た連中に好きなようにいじられてもローカル勢力はおもしろくはないだろう。

 人手が限られているのでそれしか方法はなかったのだが、パワーショベルがあるのなら話が変わる。

 広場から1kmばかりジャングルに入った場所に基地を作ることにした。

 これならジャングルの木々が邪魔をして気にしなければ基地は見つけづらい。

 しかし、基地側からは広場が見渡せるという好条件になる筈だ。

 防衛と言う観点からも利点しか見えない。

 とりあえず広場に持ってきた資材類をすべて降ろし、作業にかからせた。

 予想はしていたが一番てこずったのがパワーショベルを下ろすことだった。

 これは俺の令和での知識で最初にアームを地面に突き立てて、徐々に前進してキャタピラを接地させ、アームの向きを変えてトラック側のキャタピラをアームで持ち上げ、トラックを前進させて抜き出すという方法をとった。

 操作に慣れていなかったので、とにかく時間はかかったが無事に降ろすことができた。

 これが降ろせれば今度は、重たいタンク類をアームでつるして降ろしていったので、結果的には時間はそうかからずに資材の搬出を終えることができた。

「こいつにはこんな使い方もあるのか」

「便利なものだな。しかし、考えようによってはこれは脅威だな」

 シバさんと海軍からきている技術者のローリー軍曹が話している。

「どこに脅威があるのすか」

 敬語が少しおかしいが、シバさんもあまり構わない人なのでそのまま話が続いていた。

「ローリー君だっけ。考えてもいてごらんよ。1週間もかからずにいきなり基地でも作られれば脅威以外しかないだろう。現に、こいつの熟練者がいればグラス中尉が作ろうとしている基地だって、ジャングル内でも2週間あればできそうだしね」

「あ、そうっすね。これは報告しないと」とローリー軍曹はしきりにメモを取っていた。

 荷物をすべて降ろすと、俺はシバさんに向かってお礼を言った。

「シバ中尉。ありがとうございました。これからジーナ少尉が送りますから準備は良いですか」

「あ~、かまわんよ。でも俺もこれをもう少し見ていたいな。おやっさんに報告してからになるがまた来てもいいかな」

「ぜひ来てください。時間に余裕ができたらこれの使い方も教えますよ」

「グラス中尉。ぜひ私にも教えてくださいよ」

「ローリー軍曹だっけ。構わないよ。あ、君にはぜひ操作を覚えて手伝ってもらわないといけないな。でないとこいつの報告ができないだろう。俺が慣れてからになるが、構わないか」

「構いません。よろしくお願いします」

 向こうでジーナがトラックに乗り込んでアプリコットに報告書を貰っていた。

 ここには山猫さんたちくらいしか残らずに残りはトラックに乗り込んで基地に帰っていった。




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