第221話 密談


 

「ブルどうした、何か問題でも発生したのか?」

 主だった者たちがマーガレット副官に連れられて師団長室に入ってきた。

 入ってくるなり、レイラ大佐はサクラ閣下に問いただした。

「この基地で問題の出ない日があったら教えてほしいよ。まあいいから座ってくれ」

「それもそうだな」と座るときに俺を見つけたのか行き成り語気を荒げて言ってきた。

「またお前か。今度は何をしでかしたんだ」

 いきなりこの人はかなり酷いことを言い出したぞ。

 俺は反論したい。

 いつ俺がしでかしたんだと言いたい。

 いつもあなた方の無理な命令を要求以上の成果を出して達成してきた俺に対してこれは酷い。

 でも俺は大人だ。

 決して口には出さないし、顔にも出さない。

 出すとどうなるかは会社員時代に散々いやと言うほど味わったのだ。

 俺でも学習はする。

 しかし……

 アプリコットは学習しないのか。

 レイラ大佐の声で固まってしまった。

 もしかすると今日は使い物ならないかもしれないな。

 この人のポテンシャルはものすごいものがあるのだが、このままだとそのまま残念美人になってしまいそうだ。

 上司の俺がきちんと教育をして補正しないといけないと心に誓った。

 それにしても、この職場は前の職場と遜色ないくらいにブラックだな。

 与えられる仕事があいまいなうえに分量が無茶苦茶だ。

 その上、今のようなパワハラも日常茶飯事と来ている。

 ブラック職場で表彰される日もそう遠くないだろう。

「レイラ大佐、今日はグラス中尉が原因じゃありませんから、落ち着いてお座りください」

 サカイ中佐に助けられたぞ。

「レイラ、いいから座ってくれ、でないと話ができない」

 サクラ閣下もレイラ大佐をなだめて座らせた。

 アプリコットはどうにか落ち着き始めた。

 だいぶこのパワハラに慣れてきたらしい。

 アザミ連隊のアート中佐が座ったところで全員がそろった。

「サカイ中佐。悪いが先ほどの提案をもう一度頼む。あいつがいたんじゃまともに検討もできないのでな」

 サカイ中佐はサクラ閣下の要請を受けてもう一度先ほどの提案を始めた。

 地図を前に説明が進むと、全員が提案の骨子を理解したようだ。

「そうだな。現状の我々の戦力からはそれ以上のことはできそうにない」

「待ってくれ、これもできるかどうかはわからないぞ。何より兵士の質の問題が致命的だ」

「だからこそ、最低1個小隊のベテラン兵士の部隊が必要なのです」

「そんなのこの基地のどこにいる」

「グラス中尉のところの陸戦隊を引き抜くか」

 流石にそれは俺が反対する。

「引き抜くのでしたらこれ以上のジャングル探査はできません。まさかここでもあの参謀殿のように我々に死んでこいとは言いませんよね」

「お前だけならそうも言いたいのだが、兵士を巻き込むのは本意じゃないしな」

 おいおい、レイラ中佐が物騒なことを言い出したぞ。

「レイラ、よさないか。そういうことは思っていても本人の前で言うものじゃない」

 あんたもか、サクラ。

 この後本当にすったもんだがあった後にどうにか話がまとまった。

 サカイ中佐のところから今いるベテランだけで編成されている4個小隊をローテーション組んで、新たに作られる基地に回していく。

 アート少佐の連隊からは、兵士の訓練を兼ねて2個小隊(ベテラン兵士少しを含む新人主体の小隊)をローテーションで基地の守備に充てる。

 グラス中尉が受け持っている新人訓練プログラムは、みんなが居留地と呼んでいるグラス中尉が受け持っている亡命者の居住エリアで引き続き訓練をしていく。

 訓練はグラス中尉が受け持つが、実質彼の部下である小隊長が自身の部下を連れてこのエリア内に残っているジャングルを使って行っていくことで話が付いた。

 このエリアに残るグラスの持つ小隊もローテーションを組むが、ここに残る者の管理をジーナに任すなどが決まった。

「向こうの基地ができてからになると思いますが、アンリ外交官も向こうに来てもらうことになるでしょうね」

「グラス、どういうことだ」

「説明にあったかとは思いますが、あそこの場所はジャングルでは珍しく開けた場所なのです。現地ローカル勢力もたびたび利用していた形跡がありました。あそこで待てばローカルとの接触もあるかもしれません。サカイ中佐の基地の場所も現地勢力が利用していた場所なので同様なのですが、どうもジャングル内交通の要衝の様です。サリーとポロンも連れていきますので、3人いれば近づいてきた現地勢力との平和的接触が可能かと思います」

「外交官を最前線に連れて行く気か」

「間違えないでください。ジャングル内はどこも最前線です。今いるサカイ中佐の基地ですら一度共和国に襲われた場所だということを。それにあのお嬢様は置いていくと機嫌が悪くなるのですよ。銃撃戦が行われている場所だって連れて行くと言えば喜んでついてきますよ。それこそここの参謀殿よりもよっぽど腹は座っています」

「確かにそうだな。その件は後程確認しよう。しかし居留地のこともある。最前線に行きっぱなしと言うことだけは止めてくれ」

「わかっております。多分、いろいろなローテーションの方たちについて行ったり来たりの生活になるかと思います」

「わかった、その件はそれで進めてくれ。まずは基地の整備だな」

 話はこちらの提案通りほぼまとまった。

 新兵の教育も予想通り解放はされないらしい。

 まあこの辺りはジーナたちに任せてももう大丈夫だろう。

 居留地?内なら何ら問題は出ない。

 迷子になっても物見台から簡単に探せる。

 そろそろあいつらにも仕事を任せ経験を積ませる時が来たようだ。

 新兵教育についてはあのドック中佐もあの居留地を使いたいと言っていたので俺の方は問題ないとだけ伝えていた。

 新人教育のスペシャリストとの仕事なのでジーナにすべてを任せても安心だと、俺の中では丸投げの一択だ。

 運ばれてきたコーヒーを飲みながら俺はサカイ中佐に「どうにかなりましたね」と声をかけた。

「まあ、だれがどう考えても、現状ではこれ以上の方法はないよ。まあ、いつも通りお前たちには無理をさせるがね」

 今回はどうにかなったと安心しながらアプリコットに話をしたら彼女は苦い顔をしながら聞いてきた。

「ジーナの説得は中尉がしてくださるのですよね」

 そうだ、ジーナの説得が残っていた。

 彼女に泣きつかれたらどうしよう。

「そのあたり、マーリンさんがフォローしてくれないかな」

「命令だけはきちんと中尉から本人に出してくださいね。その後はやってみますから」

 感謝してます。

 本当に地力は高いチートな彼女だ。

 残念美人さんにだけはならないようにしていきたいよな。

「中尉、何か良からぬことを考えていませんか」

「な、何のことかな」





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