第200話  戦地犯罪者の引き渡し



 その後も輸送機『北斗』は順調に飛行して、予定通り帝都郊外にあるランスロット飛行場についた。

 以前に捕虜待遇のふたりを運んできた時もこの飛行場に降りており、それ以降サクラは必ずこの飛行場を利用している。

 帝都にある行政府を利用するなら、軍が管理している帝都内の軍専用飛行場の方が格段に便は良いのだが、サクラたちにとっては所属が皇太子府になっており、その皇太子府が置かれているランスロット城はこのランスロット飛行場からが一番近い。

 ほとんどランスロット城のためにあるような場所に作られた飛行場なのだ。

 今回も共和国の人間を運んでこの飛行場に降り立った。

 飛行場の専用駐機場には既に出迎えの人間が多数待機していた。

 サクラが輸送機から降りると出迎えの人間の一人がサクラのそばまでやってきた。

 以前皇太子府で紹介のあった副侍従長で皇太子付き侍従頭のフェルマン氏であった。

「サクラ閣下、お疲れ様です。閣下に紹介します。彼が司法省治安警察庁の長官をしております、シリウス子爵です。我々の同士のひとりでもあります」

「閣下お会いできて光栄の至りです。副侍従長から紹介にあずかりましたシリウスです。以後お見知りおきを」

「ブルリアント・サクラです。現在皇太子府が所管している軍団に所属しており、少将を拝命しております。以後よしなに」

「本日は挨拶だけで済ませるわけにも行きませんので、大変不躾ではありますが、仕事に掛からせていただきます。ゴンドワナより護送中の被疑者を公安警察の責任において引き取ります」

 シリウス長官は例の犯罪者を引き取る宣言をサクラに対して行った。

 それを受けて、サクラは少々驚いた顔をしたが、副侍従長のフェルマン氏に促されたので、そのままレイラに対して引き渡すように指示を出し、一連の犯罪者に対する責任の移管を行った。

 これで、飛行中にクリリンと話していたライン部門への面倒事の引き渡しを終えたことになるのだが、サクラにとってまだ信じられない。

 このあと絶対に更なる面倒が降りかかってくるだろうと考えている。

 しかし、前回の時にも思っていたのだが敵国人をサクラが帝都に運んできたのはこれで2度目だが、そのどちらも引き渡し先が軍や情報部じゃなかったのが不思議だ。

 本来敵国人は捕虜としてしか帝都に運ばれない。

 その場合には軍が身柄を抑え、軍もしくは情報部のどちらかが主幹となって彼らを管理していくのだが、サクラの場合、2度とも執行行政部の扱いとなっていた。

 最も最初が外交執行部で今回は治安警察庁だが、2度が2度とも軍関係者からは自分らが管理したかったに違いないような人たちばかりであった。

 そのせいか、この場にわずかばかりいる軍関係者はこの引き渡し劇を苦々しく見ていたのをサクラはしっかり観察していた。

「また連中から恨まれるかしらね」

「多分ね。でもブルはまだましよ。私なんか同僚からも文句を言われるのだからね。お前がいてなんで行政の連中に持って行かれるのかって。影ではもっとひどいことを言われているわね」

「でも長官は了解しているのよね。だって長官って殿下のお仲間だったよね」

「長官はね。情報局も一枚岩じゃないのよ。先ごろまでは急進攻勢派が幅をきかせていたしね。今でも軍出身者が多くいるからどうしても考え方が軍よりになっているのよね。ま~これからの取り調べについては我々も参加できるから軍よりはましかな」

 そんなたわいもない会話をレイラと楽しんでいると、車の準備も整い、一行は車に乗って皇太子府の置かれているランスロット城に向かった。

 皇太子府に着くとすぐに殿下への報告とこれからの方針などについての打ち合わせが持たれるために、そのまま会議室に連れて行かれた。

 既に帝都にいる殿下の同胞のお歴々が会議室には待機していた。

 以前サクラがここに来た時に紹介された元老院副議長で近衛侍従長のドラゴーノ公爵、外交執行部長のソーノ子爵、財務相のシオジーノ伯爵、情報局長のフマーノ男爵の他に、今回初めての人も混じっていた。

 今回初めての人たちのほとんどが軍関係者であり、その中でも特に注意を引いたのがあいつの副官を勤めているマーリン・アプリコットの父であるアプリコット男爵である。

 アプリコット男爵家は代々優秀な戦士を輩出してきた。

 アプリコット男爵もその例外でなく数々の戦闘に参加して十二分に彼の優秀さを示してきた名将の一人であった。

 しかし、先の政変のあおりを受け予備役に回されていたが、ごく最近のスキャンダル騒ぎで急進攻勢派が力を落としたことと、殿下が同士を広く求めていたことで、ごく最近になって殿下の元に集ったのだ。

 今は帝都の陸軍方面軍総局内の参謀本部付き大佐の要職を拝命している。

 そんなお歴々が屯している会議室にサクラたちが入るのとほぼ同時に副侍従長のフェルマン氏に案内されて殿下が入ってきた。

 部屋の中の全員がその場で直立し最敬礼で殿下を迎えようとしていたところ

「形式的な挨拶は抜きだ。皆忙しい中集まっているのだし、私的な集まりだしな。無礼講で行こう。着席してくれ」との殿下のお言葉で会議は始まった。

 まずは今回の騒動の発端である原因の説明をサクラから皆に行った。

 まず、今回連れてきた連中の今までサクラたちが掴んでいた内容から説明が始まった。

 メンバーのひとりが報告の最後の方でこうつぶやいた。

「しかし、なんで犯罪者として連れてきたのだ。扱いが非常に面倒になっていることを理解しているのか」

「いや、先の説明を聞く限り、彼のとった行動は法律の範囲内での適切な行動であると言えるぞ。いやむしろ、それ以外の行動は法的に問題が出るとも言えるな」

 一人のつぶやきに対して行政府から来ている者はこのように切り返した。

 先のアプリコット男爵が最後にこのような物騒な話をし始めた。

「しかしな~、軍では今回の扱いは非常に面白くないというのが多勢の意見だ。こういった場合には、とにかく政治的な問題も出るのでとりあえず捕虜として扱ってきたのではないのかな。陸軍内では彼の行動によって司令部機能が著しく低下した責任を問う声が上がってきている。無視できない勢いがある」

 確かにあの騒動では両軍とも軍事行動が取れなくなった時間が生じた。

 特に帝都内の軍関係機関の機能不全は今でも尾を引いており、その責任をどこに落とすかが今の政治問題の一つになってしまっている。

「軍法会議もやむなしの情勢かとも聞いているが、その一方で勲章の授与の申請も上がっていると聞いている。海軍からはわかるが陸軍内部からも上がっていたのには驚いている」

「陸軍内部?一体どこの部署だ、そんなふざけた申請を出しているのは」

「私が聞いているのは補給司令部からだと聞いている。それも彼らが申請できる最高位での勲章を求めてきているぞ」

「その理由はわかっているのか」

「各方面軍への補給活動に多大な功績があったと。敵さんを止めたことで滞りがちな補給がスムーズに行え、今ではほとんど機能していなかったゴンドワナ大陸への補給も計画に対して80%まで補給を完成させたとか」

「確かあの騒動前では補給率が20%を切っていて、撤退すら考慮の対処になっていたはずだな。それはすごいな。となると、奴さんの扱いはますます政治問題化してくるな。

 殿下、どうしますか」

 とにかく今回で話し合わなければならない問題が多数あるのに出だしからあいつの問題で話し合いは滞り始めた。

 絶対にあいつは私にとって厄病神だな。

 サクラは心の中で悪態をついた。




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