第194話 部下たちとの談話

「ふ~~、疲れたな」

 俺は右手で自分の肩の辺りを揉みながら首を回して肩のコリをほぐす動作をしながら俺らの宛てがわれている建家の中の談話スペースに入っていった。


「隊長、お疲れ様です。でも長かったですね」

 すぐさまメーリカさんが声をかけてきた。

「グラス中尉、お疲れ様です」

 なんと先のジャングル探査で俺らの応援で付いてくれたバラ連隊のサーシャ少尉が俺を労うように声をかけてくれた。

「え、サーシャ少尉、私のことを待っていてくれたのですね。お待たせしてすみませんでした」

「なに、皆と先の件で話し込んでいただけですよ。気になさらないでください」

 よく見るとここ談話スペースには一般の兵士は誰もいなくなっていたのだが、俺の中隊で下士官以上の者たちは全員が揃っていた。

 俺のことを待っていたのは明白だ。

 その上で、応援で付いてくれたサーシャ少尉の部下の下士官までも俺のことを待っていてくれた。

 恐る恐るジーナが俺に聞いてきた。

「あの~~、私たちも、その……閣下たちから尋問をされるのでしょうか」

「え?あ~~、大丈夫だよ。前にも話したが、上の連中はそれどころじゃないみたいだから」

「それどころじゃない?何かあったのですか?」

 すかさずアプリコットが俺に聞いてくる。

「あ~、俺の予想をはるかに超えたことが起こっているみたいだよ」

 その場にいた全員が一斉に俺の方を見て問い質してくる。

「「「「何があったのですか」」」」

「あ~、前にお偉いさんを連れて行ったら上の人たちは忙しくなること話したよね。でも、そんなのに構っている余裕がないみたいなんだよね」

「だから何があったのですか。もったいぶらずに教えてください」

「あ~、別に口止めされているわけじゃないし、レイラ大佐の話しぶりじゃ軍関係者全員が知っているようなので、俺の知る限りを話すけど、俺の話す内容以上は俺も知らないからその点は理解して聞いてくれ。で、今起こっていることだけれども、帝国と共和国とが戦闘できないような状況になっているらしい。ほとんど各戦線全てで停戦状態だそうだ」

「て、停戦?なぜ?」

「俺も詳しいことはわからないが、閣下の言うことには俺の発した無線が原因だと言っていたな。確かに内容が内容だけに相当大きな影響は出るだろうと思っていたのだが、俺の発した無線を敵ゴンドワナの中央が多分手違いだとは思うがゴンドワナ全体に流したようで、一斉に軍が機能を止めてしまったようなのだ」

 ここまで話していると、メーリカさんが俺に対して言ってきた。

「それなら我々には反攻の好機じゃないですか。なんで停戦なんですか」

「俺にも分からないが、敵の奇妙な動きに驚いてこちらもパニックになっているらしい。閣下もレイラ大佐も俺にそう言ってきた。最後にお前のせいだとも付け加えられたが」

「なんだかね~~」とメーリカさんをはじめ旧山猫の皆さんも呆れていた。

「本当だよね。でも、そのせいで閣下もかなり苦労をしているようだよ。本当に苦労の絶えない人だよね。真面目すぎるのがいけないのかな~」

「オイオイ、お前が言ってはダメなセリフだろ。お前のせいだと名指しで批難されたばかりだろう」

 俺のセリフを聞いたサカイ連隊長が談話スペースに入りながら俺に声をかけてきた。

 サーシャ少尉が急に敬礼の姿勢を取った。

 彼女の部下なのでこういったケースになれているのか、俺らがただだらしないのかわからないのだが、サーシャ少尉に遅れて姿勢を正して敬礼の姿勢を取った。

「サカイ連隊長、すみません、気がつきませんで」

「いや、構わない。皆も楽にしてくれ。で、グラス中尉にというより中隊にお願いだな。ちょうど良かったよ、この場に士官の全員が揃っていて」

「私たちにお願いとは、やはり連れてきた亡命者の件ですね」

「流石にわかるか。お前たちは当分この基地内で待機だろう」

「待機命令というより、謹慎してろって感じで命じられましたが」

「ま~そう言うなよ。ブル隊長、違ったサクラ閣下も大変なんだよ。その辺も察してやれよ」

「わからないわけじゃないですが、で、連隊長からのお願いとは何でしょうか。他ならぬサカイ連隊長には日頃から大変お世話になっておりますので、私の出来る範囲で精一杯協力は致しますが」

「皮肉はいいから。でだな、依頼内容なのだが、彼女たちの住処を用意しないといけないわけだがいつまでも基地内に置くわけには行かない。そのために基地の外だが、このそばに彼女たちのための住処を用意して欲しい。それと、彼女たちの警護と監視、それに生活のサポート全般も頼みたい」

「連隊長、それでは亡命希望者18名の生活すべてをグラス中隊の責任において管理せよとの命令ですか」

「いや~、命令じゃないよ。第一私には君たちに対しての直接の命令権はないからね。だからお願いだよ。本来なら閣下から直接命じられればいいのだが、閣下には全くと言って余裕がない。多分亡命希望者についてアンリ外交官に任せる決定を下した段階で、その件については頭から消えているようだな。私が細かな事まで閣下に問いただしてもいいのだが、ま~そのあたりは今度は私を察してくれ。今度はサクラ閣下とレイラ大佐のふたりして切れるだろう。本当に今のあのふたりには余裕がない。ま~全ての原因が中尉にあるとは言わないが、あのふたりは絶対に原因の全てが中尉にあると決めてかかっているからね。なので、私からのお願いだ。もう少し落ち着いてきたら、きちんと命令を出させるよ。それに君の中隊に所属している形だろうアンリ外交官は。それもあるので、彼女たちの保護には君たちは適任だと思うのだよ。こちらで出来る限りは精一杯協力するから、ぜひ頼むよ」

「ほかならぬサカイ連隊長から直々お願いですから、気持ちよくお引き受けします。………

 あ、一つ頼めますかね」

「なんだね、早速のオネダリか」

「そうですね。オネダリかもしれませんが、明日にでもアンリ外交官をこちらに呼びますよね」

「あ~、多分サクラ閣下たちとは入れ替わりになるだろうけれどもね。それが何か」

「はい、アンリさんを連れてくるついでにうちのサリーも同行させていただけませんかね。多分、アンリさんがこちらに来るようなら保護したポロンさんも一緒でしょうから、そうなると彼女が寂しがりますので」

「その件は了解した。問題はないと思うよ。ほかには何かあるかね」

「隊長、その~被害に遭われた女性のケアがあるといいかと思うのですが」

「あ~そうだね。先ほどこちらで出来る範囲は見たのだが、そうだな、一緒にセリーヌさんにも応援を頼もう。今から依頼すれば間に合うだろう。

 わかったすぐに動こう。他には」

「いえ、ありません。明日からすぐに作業にあたりますから先の件はお願いします。あ~そうだ」

「まだ何かあるのかな」

「いえ、彼女たちの住居はどこに作ればいいのでしょうか。先ほど基地内はまずいとおっしゃっていましたが」

「そうだな、基地に隣接するジャングル内であればどこでもいいが」

「では、連絡道路沿いに街でも作りますかね」

「え、街を作るのか?」

「冗談ですよ。道沿いに彼女たち用の収容施設をゆっくり造ります。明日から作業にかかりますから、機材だけは貸してくださいね」

「中尉が言うと冗談に聞こえないから心臓に悪いよ。あ~こちらからの応援を出すからよろしくな」

 俺らの謹慎期間中の仕事がこの瞬間に決まったような感じでサカイ連隊長との会合はお開きとなった。 

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