第175話 再出動に向けての根回し
俺は明日の出発の準備に走るアプリコットを呼び止めた。
「マーリンさん。今回の叙勲やみんなの昇進について中隊全体でお祝いしたいけど流石に今日は無理だよね。お酒だけ大量に用意してジャングル内に作った施設の食堂を借りてお祝いをしようよ」
「そうですね。流石に今日の今日ではパーティーの準備などできませんし、今のこの基地の状態で宴会の申請等を出そうものなら営倉にでもぶち込まれても不思議はありませんしね。でも、あそこは既に私たちのものじゃなくなりましたよ。大丈夫ですかね」
「だから今日中に無線でサカイ連隊長にお願いを出しておこうよ。あのサカイ中佐ならば快く貸してくれるって。一緒に祝ってもくれそうだしね」
「わかりました。一応司令部の許可を得てから無線でお願いをしてみます。それと持ち込む兵糧にお祝い用の酒を入れておきます。もっとも司令部の許可が出てからですけれど」
「それで十分さ。ありがとうな。酒代は俺が出すからけちらずにな。ここに来てもらっている給料を全く使っていなかったから酒代くらいはあるはずだ。足りなきゃ経理に前借りを申請するからそっちの処理も頼む」
「わかりました。全てやっておきます。ただし、全ては司令部の許可が出てからですからね。司令部の許可が出なかったら何もしませんからそこのところはご理解ください」
「わかっているよ。本当によく出来た副官殿だな。いつも感謝していますよ」
去っていくアプリコットに大声でお礼を言ってから、俺はポロンさんが入院している病室に向かった。
「あら、中尉。今日はどんな御用ですか」
衛生建家の中に入ると直ぐにセリーヌ准尉に見つかって、開口一番に言われた。
「随分なご挨拶ですね。ポロンさんのお見舞いと、サリーちゃんとポロンさんにしばらくここを離れることをお知らせに来ただけですよ」
「あらあら、本当にお忙しい人なんですね、帝国の英雄殿は」
「こりゃまた随分ですね。ただ、この基地がいっぱいでしばらくジャングルにでも行っていろと先ほど命令をもらっただけですから。ポロンさんの骨折が治る頃までには戻ってきますよ。彼女を連れてサリーちゃんのお姉さんを訪ねなければなりませんしね」とたわいもないことを話しながら、サリーちゃんが一生懸命介護しているポロンさんの病室に入っていった。
そこで二人に俺ら中隊が明日からしばらくジャングルに向かうことを説明し、今回のサリーちゃんはそのままポロンさんの介護でお留守番させることをお願いした。
少し寂しそうな顔をしたが俺らが戻ってくることを理解してサリーちゃんは納得してくれた。
困ったことがあればサカキのおやっさんを頼ればいいことを説明したら、サリーちゃんも少しは安心したようであった。
何より、今病室にいるポロンさんが見知らぬ人ばかりのところにひとりで置いておけないことを十分に理解しているので、理性ではわかっていたのだ。
ただ今までずっと一緒だった俺らがしばらく離れることが寂しく感じているだけなのだが、こればかりは誰でもありうることなので止むを得ない。
俺はサリーちゃんを説得したらその足で次に説得するべき人の所に向かった。
アンリ外交官殿のところだ。
彼女は帝都からここに来てからずっと俺らと一緒に行動を共にしていた。
一度俺らから離れこの基地に来ていたことがあったが、その時にかなり不満をこぼしていた。
そのせいでもあるのだろう。
その後急に電話の敷設工事がジャングル内に始まったのは。
そのおかげでもあるのだが、あそこが連隊駐屯基地にまで格上げされたのだ。
そんなアンリさんを今回はおいていくことになるのだが、彼女が納得してくれるかどうか心配しながら彼女のところまでやってきた。
「アンリさん、少しいいですか」
「はい、あら~、グラス中尉でしたか、いいですよ。今日はなにかしら」
「はい、我々に新たな命令が出されました。明日からまたジャングルに戻ります」
「あら、それは大変。直ぐに私も準備しますね」
「いえ、今回はアンリさんにお願いがありましたのでお伺いしました」
「お願い?それはなんですの」
「我々は明日からジャングルに向かいますが、ポロンさんがひとり治療のために基地に残ります。彼女を司令部というより情報部でしょうか、彼らから守ってもらえないでしょいうか。情報部は少しの情報でも欲しております。レイラ大佐もポロンさんとお話をしたがっていましたしね。なので、アンリさんにポロンさんを守ってもらえないかと思っております」
「え?それって……」
「はい、今回はアンリさんに基地に残ってもらいたいのですよ。同郷のサリーも基地に残しておきますので彼女のサポートもお願いできませんかね」
「う~~~~~。そうですね。それならばしょうがないですね。いいです。わかりました、私は今回だけは基地に残ります」
「そうしてもらえると大変助かります。できればうちのサリーと一緒にポロンさんを説得して、彼女が所属していた部隊まで骨折が治り次第我々を案内してもらえるように頼んでみてください。サリーを彼女の姉に会わせたいので。その後ならアンリさんが帝国の国益に従って彼女たちと交渉する分には我々は一向に構いませんから。そのときはアンリさんも同行してもらいますね」
「そうですね。わかりました。中尉の思惑は理解しましたので、中尉が戻ってこられるまで彼女と話してみますよ。サリーさんとも個人的に仲良くなりたく思っていましたしね。彼女はこの基地の、特に特殊連隊の皆さんと非常に仲が宜しくて、正直羨ましく思っておりましたのよ」
「そう言って頂けたら私も安心して出かけられます。夕食のあとにでもご一緒にサリーのところまで行きますか。今後のことについても話しておきたかったので」
「是非お願いします」
俺はアンリさんを説得できて安心した。この基地には本当にいないので、この貴重な時間を使って最後に確認しておきたかったことを確認するために、サクラ閣下の秘書官であるクリリン大尉を探しにまた司令部に戻っていった。
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