第176話 陸戦隊の評価

 出発前の慌ただしい中(最も俺は何もしていないのだが……必殺全部丸投げ)最大の難関であったアンリさんの説得にも成功した。

 俺が初めてアンリさんと会った時に彼女からずっと一緒に行動しますと宣言されていたので。今回の居残りにはかなりご不満であった。

 しかし、肝心のローカル兵士であるポロンさんが療養中で動かせないため基地に残るので、現地勢力との交渉担当であるアンリさんには選択肢はなかったのだ。

 そのため、不満の矛先は居残りをお願いした俺ではなく俺に対して再度ジャングル探査を命じた司令部に向けられた。

 数週間に及ぶジャングル探査から戻ってきた部隊に対して再度の長時間の探査を命じられたことに対してあまりのブラック職場ぶりにかなり怒っていた。

 ブラック職場ぶりは俺も賛成するが、仮にここに残っていても楽をできるわけでなくブラックであることには変わらない未来しか見えないので、俺は今回の命令に対して何も感じてはいなかった。

 ちなみに旧山猫さんたちは、今までの彼女たちの処遇がかなりひどかったので、『あ~、またか』と言った感想しかなく彼女たちも気にしてはいなかった。

 俺の副官であるアプリコットも山猫さんたちと同様の反応で、彼女もまた淡々と次の準備をしていった。

 俺たちの隊では昇進もあったがジーナを始め新卒の士官たちグループの面々とひよこさんたちがやな顔をしていた。しかしながら彼女たちが尊敬してやまないサクラ閣下直々の命令であっては文句も言えないようであった。

 同じ不満を持つアンリさんが最後までかなり強い口調で愚痴を俺にぶつけてきたのには俺も少し引いた。

 別れ際まで下を向いてブツブツ言っていたのは少し怖かった。

 これで俺の出発前での仕事はほとんど終わった。

 最大の障害がアンリさんの説得であったのが先ほど終え、残りは別に急ぐ必要のないものだが確認ごとを一つ残すのみだ。

 その確認のために俺は再度司令部に向かった。

 司令部の中は俺たち以上にブラック職場のような雰囲気で幕僚たち全員に疲れが見えている。

 そんな幕僚たちがとにかく忙しく走り回りながら仕事をしていた。

 俺はそんな彼らの邪魔にならないように目的の人を探した。

 俺が探しているのはサクラ閣下の秘書官であるクリリン大尉である。

 彼女は直ぐに見つけることができたのだが、当然彼女も超多忙で俺が声を掛けるのを躊躇していると彼女の方から声をかけてくれた。

「あら、中尉、司令部に何か御用ですか?」

「いえ、司令部にはないのですがクリリン大尉に少々お聞きしたいことがありまして。ですがお忙しそうなので出直してきます」

「大丈夫ですよ。こんなのは日常茶飯事で、いつものことなのですよ。いつこられても同じですから…あ~そうだ、これから少し休憩しますので中尉もお付き合いください」

「それならご一緒させてください」と言ってクリリン大尉について休憩室に向かった。

 俺とクリリン大尉は休憩室に入りコーヒーを入れてもらいながら席に着いた。

「それで、私に何か」

「はい、少々お聞きしたいことがありまして」

「はい?私に何を聞きたいのですか」

 俺は今回の昇進及び叙勲について懸念事項が発生していたのだ。

 今回の昇進と叙勲の対象者の全員が陸軍出身で、昇進と叙勲の管轄が当然だが人事院陸軍人事局扱いなのだ。

 俺の隊には陸軍だけでなく海軍の陸戦隊の小隊があるが、その小隊のメンバーには昇進や叙勲の音沙汰はなかった。

 これも当然なのだが、なにせ彼女たちは海軍出身で、今の我々の扱いが統合作戦本部から独立して皇太子府になっているとは言え、昇進や叙勲関係ではそれぞれ出身母体の扱いとなっているのだ。

 いわば我々はそれぞれの軍(陸軍と海軍)から皇太子府に出向扱いのようになっている。

 そうなると、今回の賞賜からもれた陸戦隊の皆さんにはどうすればよいかがわからない。

 彼女たちの昇進について俺の方から何かしらできないかと……でないと同じ仲間であっても彼女たち陸戦隊が評価されないことが発生してしまうのではないかと心配しての相談なのだ。

 同じ海軍からの出向組であるクリリン大尉ならばその辺について詳しいのではないかと彼女に相談を始めた。

 すると彼女は笑って俺に教えてくれた。

「中尉、ご心配には及びませんよ。今回の昇進や叙勲は主な理由が今まで不当な扱いを受けていた山猫さんたちの再評価であると聞いております。また、新卒組の昇進も今までのご苦労の結果であるとレイラ大佐からはっきり聞いております。それに陸戦隊が中尉の配下になってまだ日も経っておりませんから功績の評価などできませんよ。それに彼女たちの昇進は中尉が昇進なさらないとできませんから」

「はい??それはなぜですか?」

「だって、今の隊長が昇進したら階級が中尉と同じになり指揮命令系統に問題が生じますから、そうなると中尉の隊から出ませんといけなくなりますので、それは彼女も望んではいませんしね」

「は~~?どういうことなのですか?」

「あれ、中尉はご存知無かったのですか。中尉とご一緒に仕事をしたいという者はかなりの数がおりますのよ。いわば彼女は選ばれた存在なのです。そんな彼女が自分から隊を出たいと思いますか。異動が伴うようならば昇進を断るはずですよ。中尉がご心配なさる必要はありませんよ。彼女たちの活動報告は誰も手を加えることなく皇太子府を通して海軍人事局に回っておりますから、きちんと評価されます。大丈夫です」と言って俺の心配事を解決してくれた。

 陸戦隊の昇進は評価の漏れではなくきちんと評価されていることを確認できて俺は安心した。

 おれはクリリン大尉にお礼を言って彼女と別れた。

 そのあとの夕食では約束通りアンリさんと一緒にしていたが、彼女の機嫌はまだ治ってはいなかった。

 しかし彼女は外交官である。

 夕食後に一緒にポロンさんにお見舞いに行った時には機嫌の悪さを微塵も感じさせないにこやかな笑みを浮かべて彼女たちと歓談していた。

 おれはこの時に女性はわからないとつくづく思った。

 サリーもサカキのおやっさんやアンリさんが基地に残るのを知って今ではかなり安心した雰囲気を漂わせていた。

 俺が別れしなに「今度は一緒にお姉さんに会いに行こうというと今までないくらいの良い笑顔で答えてくれた。

 とにかくこれで俺の今日の予定は全て終了した。

 何故だか今日は本当に疲れた。

 明日から頑張ろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る