第169話 セリーヌ准尉の訪問
「とにかく彼女……ポロンと言ったっけ、彼女の仲間がここを襲わないように警戒する必要はあるわね」
「メーリカ准尉、そんな危険な可能性があるんですか?」
「そりゃ~あるわよ。考えてみてご覧よ。この村を襲って根絶やしにした連中と私たち、状況をよく理解していないローカルの連中がどうやって見分けるのよ。同じ穴の
「ハイ、あんな連中と一緒にされては誇りある帝国軍人として我慢ができませんね」
「アプリコットさん、いい子だから少し落ち着こうか。まだそうなるとは決まったわけじゃないから。メーリカさんもアプリコットやアンリさんをからかうのをやめてくれないか」
「え~、私たちからかわれていたんですか」
「そ~じゃないわよ。その可能性があるだけよ。でもローカルの連中が共和国と帝国の区別が付いているかどうかはわからないのは本当よ」
「そうですね。これがゴンドワナ大陸西部だと状況が変わってくるのですが、ここジャングルだとその可能性の方が大きいですね」
「我々の取りうる最良の手段はポロンさんの回復までローカルとの接触がないことと、回復次第彼女にローカル勢力と我々との仲介をお願いして実現させることだね」
「それしかありませんか……中尉がそう言うならそうなのでしょうね。それならば私たちはこのあとどうしましょうか」
「そんなの簡単だよ。メーリカさんの言うとおりこの付近の警戒だけは厳重にするけど、あとは明日まで寝て待つしかないよ。あすになれば師団本部から彼女の治療のための機材を持ってベテランの衛生兵が来るはずだからネ」
「中尉ふざけないでください。私たちは真剣に対応策を話し合っているんですよ」
アプリコットは俺のいつもの調子を嗜めてきた。
しかし、俺はふざけているわけじゃない。
正直それしか方法が思いつかない。
彼女をたたき起こして無理矢理でもローカル勢力の拠点を聞き出すわけにはいかないし、そんなことは俺にはできない。
もしかしたら情報部の連中ならやりかねないが……さすがにレイラ大佐でもそんなことはしないか。
彼女に悪い印象を持たれるのは誰が考えてもいいはずないからね。
唯でさえ共和国のやりようのあまりに酷い仕打ちで外からこの大陸に来ている人間をよく思っていないだろうから、持たれる印象は非常に大切だ。
それこそクレーム処理と似ている。
最初に敵勢力によって持たされた悪い印象を我々が払拭できたならばかなり好印象をもたれるだろう。
そうなれば我々との協力関係も築きやすい。
「とにかく今は、彼女の回復を待つしかないよ。幸いメーリカさんの応急処置のおかげで彼女も落ち着いて寝ていられるし、我々には彼女の幼馴染のサリーちゃんがついているのだから、サリーちゃんに彼女ポロンさんが回復まで任せようよ。大体それしか我々には出来ようもないしね」
「そうですね。それじゃ~私は基地周辺の哨戒についてあいつらに指示してきますよ。さすがに今日は私は寝れそうにないかな」
「え~、やっぱりそうなるか」
「大丈夫ですよ。隊長は寝ててください。やることがないですし、正直起きていると色々とめんどくさいことになりそうなので、私の精神的安定のためにすぐにでも部屋で寝てくださいね。くれぐれも夜に起き出して基地の周りをうろつかないでくださいよ。でないと間違って射殺してしまうかもしれませんからね」
「そうですね。それがいいかもしれませんね。さすがに今日はメーリカ准尉に任せたほうが良さそうですね。お願いします」
なんだか打ち合わせはうやむやのうちに終わったようだ。
最後にはかなりディスられたが、俺の能力から言ってあながち間違えではないのでメーリカさんの言うとおり今日はおとなしくしておくことにした。
翌日それも割と早い時間に師団本部まで行っていたジーナが俺の要求通りベテランの衛生兵と共にやってきた。
なんでも夜が明ける前に基地を出てきたそうだ。
師団長とレイラ大佐から昨夜から早くいけと再三の催促が有り、追い出されるように基地を夜明け前から出てきたとのことだった。
お疲れ様です。
で、駐屯地に来てもらったベテランの衛生兵は……セリーヌ准尉だった。
「え?准尉が来たのですか。基地は大丈夫なのですか」
「基地は心配ないわよ。それよりもサクラ閣下が直に私に行けと命じてきたくらいだから、それより患者はどこにいますか」
するとアプリコットがセリーヌ准尉に「こちらです」と言って彼女を案内して建屋の中に入っていった。
俺は機材下ろしを手伝っているジーナの所に行って、
「ご苦労様でした。素早い対応で助かったよ。俺らとしても彼女に早く治ってもらいたいしね。で、基地の方はどうだった。レイラ大佐は何か言っていなかったか」
すると、俺と目を合わせるのを嫌いながら何やら言いにくそうに答えてきた。
「中佐からは何もありませんでしたが、一緒に行った兵士をひとり置いてきました。多分もうすぐここに戻ることでしょう」
その後聞こえないくらいの小声でこう付け加えた。
「おまけをたくさん連れて」と。
「へ?どういうことだ。おまけってなんだ」
「私のせいじゃありませんから。最初に言いますが私は悪くはありませんよ。私たちが師団本部についた時には決まっていたようですからね」
「だからどういうことだ」
「レイラ大佐が、私にこの基地の様子を聞かなかったのは自分で確かめるためだったようです。ですので、もうじき中佐の一行がここまでやってきます。基地に残った兵士は中佐の案内役です」
「あちゃ~。そりゃそうか。俺が報告してもなかなか理解してもらえそうにないからね。我慢できなくなって自分で確認しに来るか……アンリさんと揉めなきゃいいが。レイラ大佐とアンリさんとでポロンさんの取り合いにならないことを祈ろう」
「ポロン???誰です?」
「だから保護した女性だよ。うちのサリーちゃんの幼馴染だそうだ。この村の出身だそうだ」
「え~~~。そうなんですか。でも偶然ってあるんですね」
「偶然でもないさ。だってサリーちゃんを保護したのは割とこの近くだし、それにこのあたりには他に村はないからね。それにサリーちゃんも言っていただろ。『この村でお世話になっていた』と。だから俺らがここに駐屯しているのもこの村の関係者がこの村にやってくるのを待つ意味もあったことだし。ある意味必然さ。俺らが待っていたお客様だったんだよ彼女は。怪我をしていたのは気の毒だったけれどね。さ~、そこの機材を病室に運ぼうか。セリーヌ准尉が待っているはずだからね」
「ハイ」
俺とジーナは機材を持っている兵士を連れて病室に入っていった。
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