第167話 けが人の保護
俺とメーリカさんは左右に5mばかり離れてジャングルの中を進んだ。
途中に仕掛けられているかもしれない罠を探しながら慎重に……慎重にジャングルの中をゆっくりと進んでいった。
20~30mばかり進んだだろうか、目前に小高い丘のようなものが5~6mくらいの小さな崖を見つけた。
その崖の下に人がひとりうずくまっている。
苦しそうに悶えているのがここからでも分かった。
俺はほかの人が潜んでいるかなどを確認もせずに苦しそうに悶えている人のそばに駆け寄っていった。
俺は倒れている人を介抱するために状況の確認を始めていた。
衣服はかなり破れているし、破れた中には多数の切り傷が見えるが大きな出血は見つけられなかった。
その割にはかなり苦しんでいる。
顔は赤らめ汗をかいて苦しんでいる姿を見ると一瞬病気を疑った。
額に手を当てるとかなりの高熱を発している。
助け起こそうとしたら、酷く苦しんだ顔をした。
足元の方を見て状況を完全に理解できた。
左足を骨折しているようだ。
幸い見た感じでは複雑骨折ではないようだ。
そんな時にメーリカさんが俺に追いついてきた。素早く彼女も倒れている人を確認すると、彼女が持っているエマージェンシーグッズを収めているポーチからモルヒネを出して倒れている人に注射した。
「これでかなりの痛みは抑えられます。骨折による発熱の苦しみからも多少は和らぐでしょう」とメーリカさんは言った。
すぐにメーリカさんは近くに落ちている小枝を見つけ自身のナイフでキレイに小枝をならして、これもエマージェンシーグッズからテープを取り出し、骨折している左足を小枝とテープを使って器用にテーピングしていった。
「添え木はなんでもいいんですよ。綺麗であれば問題はありません。こんなジャングルでの怪我では贅沢なんか言えませんからね」と言いながら本当に器用に応急処置をしていった。
そこまでしていると後ろに控えさせていた兵士も集まってきた。
メーリカさんは旧山猫のひとりを捕まえ付近の探査を入念に行うように指示を出していた。
アプリコットはひよこ兵士を捕まえて棒状の倒木を探させ、担架を作ろうとしていた。
軍隊ではこんな場面を想定して訓練でもしているのかと感心しきりの俺に対して、指示を出し終えたアプリコットは不思議そうに俺を見て言った。
「どうしたんですか。担架でもないと彼女は運べませんからね。それともここに放置するつもりでしたか」
「放置なんか出来るわけないだろ。彼女は連れて……『彼女』???けが人は女性か」
「中尉はそんなことも確認していなかったのですか」
「する訳無いだろ。隊長は倒れている人を見つけたらすぐに駆け寄っていったくらいだ。罠かも知れないのに。何のために警戒しながら進んできたか分かったものじゃなかったよ。あの時はさすがに私でもヒヤッとしたね」
「「は~~~~~~」」
「中尉は敵の罠だったらどうするつもりだったのですか。あのような状況では敵の罠を疑うのは常識じゃないですか」
「敵の罠だったら……そんなの決まっているだろう。両手を挙げて降参だ。尤もその時は俺だけだけれどもな。女性は危ないんだろ……敵の女性に対する扱いは。だから敵に捕まるときは俺だけね」
「何が俺だけですか……ちっとも変わっていないじゃないですか。墜落を経験した時から全然進歩が見られませんね。少しは学習してくださいよ、本当に頼みますからね」
「それにしても、彼女はなんだろう。近くに落ちていた自動小銃は敵が普通に持っているものだろう。でも着ている服は見たこともない」
「あ、でも、なんとなく前に保護した時にサリーちゃんの着ていた服に似ていませんかね」
「あ、そういえばそうだな。となると彼女の所属はローカルの兵士ってとこか。さしずめ斥候と言ったところか」
「そうですね。我々が駐屯している場所も廃墟となっていましたが、敵に壊されるまでは普通にあそこで生活していたわけだから、様子でも探りにきましたかもしれませんね」
「そんなことよりも、すぐに師団本部に連絡を入れて医官の駐屯地への来訪を要求してくれ。駐屯地までは慎重に運ぶとしても師団本部までは運べないぞ。かなり弱っているからね。本格的な治療は駐屯地で行うしかないだろう。幸い建家には余裕が出来てきたし。そこに置いておけばいいからね」
「わかりました。ここからなら駐屯地までは無線で飛ばせるから、駐屯地から無線で要請をかけさせます」
「でも、あいつらだけで駐屯地までたどり着けるかな……」
「迎えを出すにしろ、とにかく全ては戻ってからだ。準備が出来たら担架に乗せて慎重に運び出すぞ」
「準備は出来ているようですね。慎重に彼女を乗せてここから出しますよ」
「「「「ハイ、わかりました」」」」
担架の準備をしていたひよこ達は声を揃えて返事を返してきた。
それにしても器用に周りにあるものだけで担架を作るな。
2本の棒きれを作り上着などを使って寝かせられる部分を作ったところにあり合わせの布を巻いて器用に担架を作っていた。
軍では新人訓練終了間際にサバイバル訓練を行っており、負傷した仲間の救出の訓練もその時に教わるのだそうだ。
しかし俺はそんなの教わっていない。
なんでも俺にはいらないそうなのだ。
そんな俺に軍人としての素養の有無等問わないで欲しいもんだ。
ま~そんなことはどうでもいいか。
「それじゃ~とにかくできるだけ早く駐屯地に戻るぞ」
「隊長、私はちょっとここに残る」
「ん???なんで?」
「さっき付近を探索させて人数を出しただろ。あいつらがもどるまで待っているよ」
「それもそうか。それじゃ~、すまんが、あいつらを待って戻ってきてくれ。途中散らばっているひよこさんたちがいたらそいつらも回収をよろしく。俺らはとにかく急いで戻るから」
「それもそうだね。分かった。ひよこの件は私たちが責任を持って回収していくから気にせず戻ってもいいよ」
「いつもすまんね~~。それじゃ~俺らは急いで帰るぞ。出発」
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