第166話 異変
シバ中尉たちがこっちに来てから2週間が経った。
毎日元気に工事に出ているがなかなか電話工事は進まなかった。
なにせジャングルを切り開いての配線工事だ。
ほとんどの兵士が毎日ジャングル開拓に出ている。
こうなると俺の方は本当に暇なものだ。
すでに俺の中隊員全員がこちらに来ており、手分けして自分たちの営舎を作ってきたが、それもさすがに2週間という時間があれば完成する。
ジャングル探査の訓練を手分けして行っているが、残りはジャングルを切り開いて新たな補給路の建設に当たっている。
こっちの工事は電話線の配線工事のために先行している道を1mから6mに広げる工事と、切り出した木材を使って木道を作る工事を行っている。
とにかく3年くらい持てばいい道を作りたいのだ。
ジャングルの木を切り出しただけではすぐに使えなくなる。
なにせこの道は補給がメインとなる。頻繁にトラックが行き来するので、道の舗装は必須だ。
しかし、勝手に作っている道なのでアスファルト舗装やコンクリート舗装などの贅沢はできない。
幸い木材が有り余っているジャングル内であるので、開拓で切り出した木を使って板材を作りその板材を使って道を舗装するいわゆる木道を作っている。
ジャングルの道を広げるにはかなりの手間がかかるが、それでも200名近い人間をそれに費やせない。
はっきり言って工事の邪魔になる。
自ずとジャングルで木を切り出す人間の数に上限があるので、余った人間で訓練と板材を作るのに回ってもらっている。
幸いこの組み合わせが非常にうまくいっており、はっきり言って俺にやることがなくなっている。
なので適当に余っている人間を捕まえては基地内で使う家具を作ったり、工事の進行状況の視察とひよこさんたちの訓練を兼ねて工事区域周辺の探査をしながら時間を使っている。
シバ中尉が着いてから2週間同じサイクルで作業をしてもらっているが、電話線の工事の方は全体で半分位までジャングルの切り出しが終わった感じだ。
こちらは、途中にある小さな崖や川などは無視していけるから比較的進んでいるが、補給路の方はこういった障害には橋などを作って回避させないければならないので、道の拡幅工事の方は遅々として進んでいない。
そんな中で唯一成果が上がっているのがひよこさんたちの工兵としての技量の向上だ。
彼女たちがここについた時に比べて格段に進歩している。
今では橋の工事でも難しい場所を除けば、俺は現場にも行っていない。
常に俺の横で俺の行動を監視しているアプリコットは、最近ではすっかり呆れて、時々この部隊の兵種がわからなくなるとこぼしているが俺は気にしていない。
何を今更である。
そんなこんなで今日もジャングルの
ひよこの分隊1個と今日は珍しくメーリカさんが付いて来てくれた。
彼女も最近は暇しているようなのだ。
俺とアプリコットはいつものようにではあるが、割と最近は外交官のアンリさんも付いてくることが多くなっている。
ちょっとした大所帯での移動だ。
普段の訓練どおり、我々は全員徒歩で移動だ。
我々とは別に常に哨戒の任にはベテラン兵士たちが交代でバイクを使って広域の探査をしているので、詳細の調査となっているが、どうしても散歩かハイキングのような気持ちになってしまう。
俺らは気楽に隊列を作り、出来たばかりの電話工事用の細い道を歩いて進み、適当に進んだところでジャングル内に散らばって探査ごっこを始める。
これも最近では珍しいことではなく……と言うより最近はこればっかりなのだが、ある程度工事中の道を通り、昼をみんなで食べた後、分かれてジャングル内を散歩する。
俺は適当にひよこさんたち数人を連れてメーリカさんとアプリコット、それにアンリさんのメンバーでジャングル内を探索して歩いた。
小一時間ばかりジャングル内をあてもなく歩いていると、急にメーリカさんの表情が変わった。
ジャングル内の各地に散らばっているひよこさんたちに合図を送り一旦その場にて待機させ、メーリカさんは傍にいたひよこ数人を連れてジャングルの奥に入っていった。
俺らはアプリコットとアンリさんと一緒にその場で待機して30分ばかり待っただろうか……ジャングルの奥に入っていったメンバーのうちひよこの二人が己のところに戻ってきた。
俺の前に着くと、ひよこの一人が「メーリカ准尉から伝言があります。この先に異常を感じられ付近を探索したところ我々以外の人の気配を発見しました。指示を待っています」
「人の気配は多人数か」
「いえ、少数だそうです。多くて二人、多分一人かと思います」
「分かった。俺が現場に行く。案内せよ」
「中尉、私たちはどうしますか」
「少数なら大丈夫だろうが、この場で待機だ。悪いがジャングル探査にあたっている全員をここに集めておいてくれ」
「わかりました……けど、ムリ無茶はしないでくださいね。あと何があったか全て報告ください。でないと後でレイラ大佐の疑問に答えることができませんから。お願いします」
まだ、前の尋問を引きずっているな。
完全にトラウマだな。
俺のせいじゃないけど、二度とそうならないようにしてあげないと可愛そうだし。
「分かったよ。大丈夫だ。後で一緒のひよこと一緒に何があったかきちんと説明するよ」
「気をつけてください」と言われ俺は報告に来たひよこに案内されるままジャングル内に入っていった。
15分ばかり歩いただろうか。
付近を緊張した面持ちで警戒しているメーリカさんと不安そうな顔をして指示を待っているひよこさんたちが集まっている場所に着いた。
「何があった」
「隊長、この先に人の通った跡があるのですが、その先で気配がするのに人が動いていないのです」
「敵じゃないよな。一人でこんなところにいるはずがないものな。となるとローカルか」
「そうですね。でも動いていないのが気になります」
「でも、気配を消していないのだろう。なら、戦闘行為じゃないな。非常事態かも知れない。サリーの時の件もあるしな。俺とメーリカさんで行こう。このままじゃ埒が開かない」
「わかりました。私が気配の変化を知らせますので、その時には逃げてください」
「分かった、進もう」と言ってふたりして腰をかがめながら注意してジャングルの中をゆっくり進んでいった。
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