第165話 電話の工事

 シバ中尉と共に、出来たばかりの司令部建家に入っていった。

 シバ中尉の連れてきた部下たちは既にこの建家に食堂として作っていた広いスペースにとりあえず入ってもらっているので、シバ中尉たちを俺の部屋として割り当てられている隊長室に連れて行った。

「グラス中尉、電話の工事の件ですがうちらは明日からでも取り掛かれますが、電話線を這わす経路はどうしましょうか?

 ウチラが通ってきた経路だと無駄が多いような……経路そのものが長くなり過ぎになってしまうし、グラス中尉に何かアイデアはありませんかね」

「それなんですけれど、あの経路だとシバ中尉の言うとおり遠回りなのが気に入らないのですよ。そこで新たな経路を模索して今測量をしているんですがその経路で這わせましょうか」

「へ~~~、既に次を考えておりましたか……で、その経路とはどんな感じですかね」

「ちょっと待ってください。アプリコットさんや、エレナさんを呼んで今作っている地図を持ってきてもらえないかな」

「あ、はい。そうですね、電話線の工事には必要になりますよね。すぐに呼んできます」と言って、アプリコットがここ隊長室を出ていった。

「それにしても驚きました。このあたりの地図まで作っていたんですね」

「それなんですが、前の小隊時代から、なぜか私の小隊に測量担当のエレナさんが配属されていたんですよ。せっかくなら使わない手はないですからね」

「エレナですか……そう言えばあの時なかりドタバタしていたからわかりませんでしたがグラス中尉のところに配属されていましたか……我々と一緒にあの基地に着いたはずでしたがいつの間にかいなくなっていたのを忘れていました。エレナはシノブ大尉が帝都から連れてきた技師でしたね。ずっとシノブ大尉率いる工兵隊にいたはずでしたが、そうですか中尉のところに行きましたか……一番活躍場所のある配置ですね。誰の思惑ですか。シノブ大尉ではないでしょ」

「あの時の配属にはかなりおやっさんに世話になりましたから多分おやっさんのお考えでは。あの時一緒に整備担当にマキアさんを付けてもらいましたし、衛生兵としてビッショップ准尉のところから秘蔵っ子を二人も出してもらいましたから、今でもとても助かっています。我々が今でも事故なくジャングルで活動できるのも、あの時に強力な助っ人を回してもらえたことが大きいでしょうね。それもこれもおやっさんのおかげかと思いますよ」

「そうだね、あの時にゴタゴタの時にそこまで気が回ったのはおやっさんくらいしかいませんでしたからね。多分、師団司令部は今でも気が付いていないかもしれないかもしれませんよ。最近あのあたりの開発に当たり測量技師がいなくてとても困っているようだから、中尉のところに測量技師がいることを失念していることでしょう。でなければこんなところに中尉を回すはずないし、それどころかエレナを配置替えしたはずですからね」

「そうですね。なぜか私は司令部に良く思われていないようで。シバ中尉にお願いですが、このことは内密にお願いしますよ。ただでさえせっかく育てた兵士を連れて行かれたんだし、ここで更に戦力を抜かれたらニッチもサッチ行かなくなってしまいますからね」

「わかってますよ。どうせおやっさんは分かっているでしょうから、本当に必要にならないとそんな無理はさせませんよ」

 ここまで話し込んでいると大きな紙を持ったエレナさんがアプリコットに連れられてやってきた。

「シバ中尉、お久しぶりですね」

「エレナか、久しぶり」

 エレナさんが持ってきた大きな紙にはおおよその付近の地図が描かれていた。

 精密な測量を広範囲にはできなかったためにかなりラフであるが、経路の選定には十分に使えるレベルのものだ。

 その地図を前にしてエレナさんが我々に新たな補給ルートの候補を指差して説明し始めた。

 それによるとかなり真っ直ぐな経路となりそうで補給ルートとしてもかなり良さそうなので、その場でルートを描きこんでもらいそのルートで先に電話工事をしてもらうようにした。

 補給ルートとして道幅6mの道路を作ることを考えていたのだが、まず、そのルート上に1m幅でジャングルを切り開いてもらい、電柱を立てて電話工事に明日から入ることになった。

 1m幅のジャングルの切り開きはケート少尉のところ部下に工事を任せ、ひよこさんたちには先行している1mの経路を6mまで広げ道にしていくような計画で工事が始まった。

 雑用などをしながらシバ中尉の工事を見守っている。

 さすがにジャングルを切り開きながらの工事なのでそう簡単には電話工事ははかどらないが、それでも毎日一定の距離の工事が進んでいく。

 師団本部との補給も数日おきに行っており、師団本部に残してきたひよこさんたちも訓練の進み具合を見ながら徐々にこっちに呼んでいる。

 次の補給の便で全員がここに揃う予定だ。

 後からやってくるひよこさんたちには自分たちのための営舎作りをさせているし、交代して道路工事にも参加させている。

 それにしても俺のところに配属されてくる兵士たちはみんな器用だな。

 全員が全員上手に工事をこなしてしまうと感心していたのだが、アプリコットたちに言わせると一般の兵士の仕事をさせないで工兵の真似事どころか帝国内で仕事をしている大工以上に工事をさせるので、全員がある一定期間過ぎると工兵並みの技量を持たせてしまうと呆れていた。

 俺にはそんな自覚は無かったのだが、自覚無さ過ぎとまで言われたのには少し凹んでしまった。

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