第164話 新たなトラブルメーカー

 夕方になりここに差し込む日も優しくなる頃になって、一週間前に送り出した者たちが戻ってきた。

 俺の前に案内役に出していたバイクが2台着いてから少し遅れてトラックが1台……2台、3台って、なんで増えているんだ。

 ここから出していたのはバイクが2台とトラックが1台だったはずなのに、今目の前には3台のトラックが俺の前に到着した。

 先頭のトラックからジーナが降りてきて、それに続きアンリさんも降りてきた。

 ジーナが俺の前で敬礼をしたあとおもむろに胸のポケットから手紙のような書類を取り出したかと思うと、それを読み上げてきた。

 これは俺にもわかるぞ、絶対に司令部からの厄介事だ。

 俺が身構えていると、「隊長、聞いています?これはサクラ閣下から直々の命令書ですよ。もう一度言いますから今度はきちんと聞いてくださいね」と言ってサクラ閣下からの命令を伝えてきた。

 ここに恒久的な基地の建設を命じる内容だった。

 それを聞いて俺はホッとした。

 無理難題には慣れているが、どんな無理を言ってくるかわからない連中なのでこういった形での命令には特に気持ちを強く持たないと簡単に心を折れそうな命令を行ってくるので覚悟を決めていたら、俺のやっていることの事後承諾のような命令なので、正直この命令発布後に俺のやることはない。

 その場で脱力している俺に2台目のトラックからシバ中尉が降りてきた。

「グラス中尉、お久しぶりです。これが俺のもらっている命令書です。確認ください」と言って彼も俺に書類を押し付けてきた。

 その命令書にはここから無線でなく電話での連絡ができるように電話線の設置命令が書かれていた。

 その証拠に、2台目、3台目のトラックからどんどん資材が下ろされていく。

 俺はトラックが到着してざわざわしているところでアンリさんと話し込んでいるアプリコットを捕まえて、もらった2通の命令書の事務処理を頼んだ。

 その後にケート少尉を探して、出来たばかりの食堂スペースに、今到着したばかりのシバ中尉のところの兵士たちをとりあえずそこに連れて行ってもらった。

 当面はそこに寝泊りをしてもらいながら工事をしてもらうことになる。

 一通り自身の部下に指示を出し終えたシバ中尉は、再び俺のところに来て会話を続けた。

「グラス中尉のことだから、まともなことはしないとは思っていたのだが、ここまで基地を作り終えていたとは驚いたね。おやっさんの言うとおりだった。おやっさんからいい物を預かってきましたよ」と言って、今3台目のトラックの荷台から苦労して下ろしているポンプを指さした。

「へ~~、いいんですか。あれまだ新しいでしょ。あんないいものを頂いても大丈夫なんですかね」

「な~~に、あれは俺らが来る前まで基地で使っていたやつだから中古もいいところだ。うちの若い者に練習がてら整備させていたやつだから新品に見えるが中古だ。おやっさんが、『あんちゃんのことだからそろそろ水道用のポンプを欲しがる頃だろう』と言って持たせてくれたものだ。遠慮なく使ってくれ。もし邪魔なら持ち帰るが…」

「いいえ、感謝しております。本当に欲しかったんですよ。なので、そろそろまた鎮守府まで行ってゴミ漁りでもしようかと思っていたから本当に感謝しております。それにしてもすごいですね。おやっさんは何でもお見通しですかね。かないませんね……尤も、おやっさんと競うとも思いませんが」

「そりゃそうだ。帝国中探してもおやっさんと競うと思うやつなんかいないよ」

「そりゃそうだ「ワハハハハ」」

「それよりもシバ中尉、忙しいのにこんなところに来ても大丈夫なの」

「あまり大丈夫じゃないけど……資材の手配が遅れていてね。丁度手隙になったものだからお鉢が回ってきたんだよ。『シバ、暇なら電話を引いてこい』っておやっさんから言われてね。そうなると誰も逆らえないからね」

「そりゃそうだ、俺が言うのもなんだけど……お気の毒様」

 そんな俺とシバ中尉との会話しているところにアンリさんがややご機嫌斜めな様子でやってきた。

「聞いてくださいよグラス中尉。本当に軍は融通が利かない組織なんですね。いや軍だけじゃなく、帝都の政府も全く融通が利きやしない。本当にめんどくさいったらありゃしないんですよ」

 こりゃ愚痴のオンパレードが始まりそうだ。

 シバ中尉と顔を見合わせたら、付き合うしかないだろうっていう顔をしていたので、俺と二人で素直にアンリさんの愚痴を拝聴した。

 内容は本当にたわいもないことばかりなのだが、今回基地まで呼び出されたことが不満だったようだ。

 くだらないことで基地まで呼び出しておきながら、内容が全くない話につき合わされたことに怒っているようだった。

 それなら基地の無線でもいいだろうと食ってかかったら、外交機密に当たるから無線では特殊暗号を使えない状況ではダメで、傍受の危険のない電話での会話しか許されないので、電話で話せと言われたそうだ。

 本来ならば、師団本部に拠点でも移してそこでおとなしくしてりゃいいものを、このお嬢様は何を思ったのか、今いる中隊本部に電話を引けばここまでくる手間はなくなるからすぐに電話を引いて欲しいと帝都にある皇太子府とジャングルにある師団司令部に掛け合ったそうだ。

 今の騒ぎの原因があんただったのか……俺は喉まで出かかった叫びをかろうじて押さえ込むのに成功したのだが、あんたは本当にいらんことをしたな~。

 正直今回の一件で俺は確信をしてアプリコットとジーナをやさしい気持ちで見てしまった。

 トラブルメーカーがこの基地にいる限り彼女たちの苦労は絶えないだろうと。

 当のアプリコットやジーナがどういうふうに感じているかはわからないのだが、少なくとも今回の1件ではジーナは少なからず関わっていたので、ある程度は覚悟は出来ているのだろう。

 本当にこの先どうなることになるのだろう。

 平穏に仕事が片付くように唯唯祈るばかりだ。

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