第163話 中隊本部建屋の建設

 翌朝、それも割と早くにマーガレット副官は外交官のアンリさんを伴って師団本部のある基地に帰っていった。

 うちからは帰り道に迷わないようにバイク2台とアンリさんの世話などにジーナをつけて送り出した。

 本当は前からの友人であるアプリコットをつけたかったのだが、ジーナとアプリコットの二人からそれはダメとのご意見を頂いた。

 本来ならばジーナすらここに残りたそうにしていたのだが、うちの中隊付きの外交官を一般のバイク兵士二人だけで動かすのはどうかというのもあり、士官一人を出すことにした。

 となるとどうしても今ここから出せる士官は前述の二人しかおらず、消去法でジーナとなった。

 俺としては別にここでの生活は平和そのもので居住環境の整備が主な仕事となっている状況では二人共付けても問題ないと思っていたのだが、肝心の二人はそれぞれ違う理由でNGを出してきた。

 アプリコットは、『自身は中尉のおよそ軍人としての素養の無さを補うために配属当初から帝都の軍首脳部より言いつかっており、離れるわけには行きません。』と言ってここを離れるつもりはなく、ジーナに至っては『私一人では隊長の暴走を止められません。無理です、無理無理』と言ってきた。では「二人で行ってくればいいんじゃないの。」と俺が言おうものなら、ふたりして声を揃えて『それはダメ~~~。レイラ大佐に隊長(中尉)から目を離すなと厳命されているから』と言ってきた。

 俺の扱いって一体どうなっているんだ……帝都では望まぬ陞爵されるそばから仕事場である師団本部からは要注意人物扱いって、これ酷くね。

 それよりも食事の後は仕事だ。

 今日からはサリーやアンリさんのための指揮所作りだ。

 今回は指揮所に併設して食堂も作るから、建家も大きくならざるを得ない。

 なにせ全員が集まると簡単に200名を超える大所帯だ。

 全員で一度に食事が取れるように大きめの食堂を作らないといけないので、今まで作っていた営舎の2倍の大きさの物を作ることになっている。

 でも、作業する人数も増えたのでしっかり設計できていれば全く問題はない。

 材料である木材の切り出しくらいは昨日着いたばかりのひよこさんたちでもできるようなので、1個分隊全員で規格化された木材の切り出しを朝からやってもらう。

 建築作業はまだまだ熟練とまではいかないがすっかり作業になれたケート少尉率いる小隊にお願いしている。

 本来業務であるバイクでの付近の調査は、半分が師団本部に出張中のために、今は付近の哨戒のみ行っている。

 なので、残っている山猫さんたちだけでも手が余るくらいだ。

 もっとも手隙になったらこっちの建設を手伝ってもらうので暇などないのだが。

 全員で一つの作業を行うので、管理監督が非常に楽であり、またすこぶる効率も上がっていて、建設規模が倍近くになるのにほとんど営舎と同じ勢いで指揮所の建家が出来上がっていく。

 ひよこの分隊さんたちもすっかり作業に慣れ、今では木の切り出しだけでなく板材の制作も行っている、

 もっとも生材なのでたいした物には使えないが、簡単な補強材にはなる。

 一応外交官もここに詰める予定なので、アンリさんの執務室も作りこんで、……そうそう、ジーナやアプリコットたちの事務所も作ろう。

 俺が最も力を注いだのがキッチン関連と食堂スペースである。

 200名一度に中には入れないが、外にテラススペースも作っているので、そこに150~160名くらいの収容スペースを作り、そこと合わせて全員で食事が取れるようにしてある。

 なので、実際に建家内での収容人数は100名くらいにしかないが、これでも満足である。

 なにせ今は外で地面に食器を直置きでの食事だ。

 いい若い娘がお行儀の悪いこと、俺が彼女たちの親御さんから怒られる。

 そんなこんなで作業をしていると、ケートさんとメーリカさんが揃って応接と隊長室の必要性を訴えてきた。

 俺はいらないと答えたのだが、聞いてもらえず、それではということで応接スペースとの共用で作ることにした。

 キッチン横の倉庫として使おうと思っていた場所が、そのまま俺の部屋となってしまった。

 どうせ使うつもりなどないのだが、ローカル勢力との接触の時には応接スペースは必要となるだろうから、主にここもアンリさん用だな。

 作業を始めて1週間もすると家具類を除くほとんどが出来上がった。

 各部屋の扉なども家具同様に間に合ってはいないが、とりあえず建家は完成した。

 あとは家具類をどうするかだが……どうしよう。

 既にここでの使用を始めている通信担当者が俺のところまで来て、アンリさんたちが今日戻ると連絡してきた。

 みんなには自分たちが食事の時に使う椅子を作るようにお願いを出して、俺は次に必要な風呂の建設に準備を始めた。

 井戸はもともとここが村であった為にいくつかあった。

 現在我々が使用している水はすべてこれらの井戸から賄われている。

 しかし、飲料や炊事くらいならば井戸から汲み上げての使用でも問題ないが…風呂となるとちょっとね~~、あ~それからトイレもそろそろきちんとしないと不味くなってきている。

 村では汲み取りでそれらしき場所があったので今はその場所に仮説でテントを張りそこを利用しているが、中隊全員がここに来るとなるといささか容量に不安が残る。


 以前師団本部でも問題になったが、上下水道の整備は初めからきちんとしないと後々禍根を残す。

 既に遅いような気もするが風呂を作るのならば避けては通れないので、その辺について一度師団本部と交渉をしないとまずそうだ。

 そんな話をアプリコットにしたら、こいつは何を考えているのかって顔をされて無視された。

 ちょっと酷くはないですかね。

 一応私はあなたの上司に当たるのですよ。

 ここは一度きちんと話し合わないといけませんね、査定に響かせますよ~~~って言えたのならどんなにスッキリとするのでしょうか。

 ハイ、どうせ何も言えませんよ。

 でもいいです、私は出来る人なのです。

 本部がダメといってもまた鎮守府あたりにお願いして廃棄部品をもらってでもどうにかしますよ。

 ゴミをどう使おうとゴミなら文句は出ないでしょうが……そう言えば以前にそのゴミを使ってひと騒動があったのだが、あれはなんだったのだろう……忘れるくらいだから問題はないだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る