第162話 機密文章の中身

 マーガレット副官から機密文書を受け取ったアンリさんは、そのまま文書を持って自室を構えている部屋の中へ入っていった。

 その中で自身が持ち込んだ書類を使って暗号を解くつもりのようだ。

「マーガレット副官。しばらく時間がかかりそうですね。このあとどうしますか」

「今日はさすがに戻るつもりはありません。できましたら部下も含めて手配を出来ますか。一応野営の用意はしてきてはおりますが……」

「そうですね……ではわたしが使っている部屋をお使いください。私は適当に過ごします」

「いいんですか。私たちはテントでもあれば大丈夫ですが」

「いいですよ。それより、このあとしばらくすると食事になりますが、あいにくまだ食堂の準備が出来ておりませんので屋外での外食となります」

「外食??? 野外での食事ですね。それなら全く問題はありません。私たちは軍人ですので、それも帝国内ではかなりの実績のある部隊に居りましたから慣れております。食事まで用意していただけるのには感謝します。………つかぬことお伺いしますが、食堂って……もしかして食堂まで準備するつもりなのですか」

「はい、今まで作っていた営舎も完成しましたし、外交官のアンリさんの執務室も必要となるだろうから、司令部建家として一つ作る準備をしております。そこに全員で食事もとれる場所も用意するつもりです」

「は~~~、本当にこの場所に基地を造るつもりなのですね。わかりました、そのことも含めて明日戻りましたら報告をしておきます。どうせ私にはあなたの様子を見て来いとも命じられておりますしね。………しかし………あなたは基地にいても問題を起こしますが、一度外に出ると必ず何か仕出かしますね。閣下の言ったとおりでした」

「は?サクラ閣下が何か?」

「あなたがジャングルで何もしていないはずがないのに、1週間何も問題が上がっていないのがかえって不安をかきたてるのだと。せっかく行くのなら、彼が起こそうとしているその問題を、まだ事が小さなうちに見つけてくるように命じられております」

 問題を起こすことが前提になっているよ。

 一体俺のことどう思っているんだ。

 大体俺が関わった問題もその多くは閣下の命令から発した物のはずなのだが、閣下が変なことを命じなければ誰が好き好んで問題なんかに首を突っ込むかって言うんだ。

 ま~今回はめんどくさい任務だけれども、誰かがやらなければならないものだし、変なことを命じられてもいないので問題なんか起こすもんかよ。

 と声には出さなかったが心の中でサクラ師団長に悪態をついて気持ちを落ち着かせた。

 俺は既に社会に出てしっかり勉強をさせてもらっているので、十分に大人の対応が取れるのだ。

 別に上司に良く思われていなくともいじけることなどない。

 くそ~~~。

「ここで立ち話もなんですから、こちらにどうぞ」といって、俺の部屋にマーガレット副官をエスコートしようとしていたら、部屋からアンリさんが出てきた。

 何やら苦労して解いた暗号を持っていたので、俺は思わず聞いてしまった。

「アンリさん。差し支えなければ帝都からは何と言ってきておりますか」

「あ、はい。別に暗号なんかで寄こす必要なんて全く感じないものでしたから別にかまわないわよ。これ『ローカル勢力との接触について作業手順などについて決まりがないので一度きちんと取り決めたい。傍受の危険のない施設から連絡をよこせ』と言っております。どうしましょう」

「あ、それならば師団本部で大丈夫ですよ。あそこなら傍受の危険性のない電話が施設されておりますから、それをご使用ください。明日私たちが基地に戻るときにでもお連れします」

「それがいいですね。では、明日の帰投につきましてはうちからも護衛を出します。帰り道もわかりにくいでしょうから、彼女たちに案内させます」

「そうして頂けるのならお願いします」

「しかし、そんなのならば無線で『一旦基地に戻れ』と連絡でもよこせば済んだようなものを、本当に軍隊ってめんどくさいですね」

「な……なんてことを。私たち誰ひとりとしてこの機密文章の中身を知りませんから規則に基づいてここまで来たんじゃないの。本当にあなたは……は~~……言うだけ無駄よね」

「そろそろ食事の時間になるでしょうから、営舎前の広場までお越し願いますか」と言って俺はマーガレット副官とアンリさんを連れて外に出た。

 外では当番であるグループが数人で全員分の食事の用意をしていた。

「お、いい匂いだな。今日はカレーか。うまそうだな」と言って配膳している組みの前に集まっている兵士たちの後ろに並んだ。

「隊長たちの分は既に別に用意してあります。どこで食事をとりますか。隊長の部屋にでも運びましょうか」

「それには及ばないよ。その空いた場所で取ろうか。いいですよねマーガレット副官」

「え~、構わないわよ。お願いできますか」

「わかりました。直ぐに簡易テーブルと椅子を用意しますね」と言って別の兵士たちがテキパキと資材を置いてあるところから簡易テーブルと人数分の椅子を持ち出してきて、準備を始めた。

 ほかの兵士たちの食事は野営のように食器を直に置いての食事なので、ここでできる精一杯のおもてなしをお客さんであるマーガレット副官にしてくれているようだ。

 今までは俺もアンリさんも一般の兵士たちと同じように食器を直においての食事だったのだから、なんだか今日は特別な気分になった。

 もともと食堂を作ろうと思ったのも、この食事の時の環境をどうにかできないかと思ったのが始まりだったし、サリーも手隙の兵士たちにお茶を振舞うことができなくて寂しそうにしていたのを見たのがその理由だ。

 明日からは、マーガレット副官を送り出した後に俺も建設に参加することにしている。

 今までの営舎のように慣れた作業になっている訳でなく、一品物を作るので細かな指示が必要となる。

 既に図面はできている。

 明日からは監督に当たるつもりだ。

 しかし……こればかりにかかりきりになりそうだけれど、そうなるとアプリコットやジーナあたりから文句が出るんだよな~。

 やはり良いものを作りたいので、彼女たちには我慢してもらうことにしよう。 

 出てくる文句も俺が甘んじて受けることで彼女たちの不満も少しはなくなるだろう。

 なくなるかな~

 なくなって欲しいものだな~~

 ま~明日のことは明日考えよう。

 俺はカレーをほおばりながら考えを巡らせていた。

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