第161話 マーガレット副官の絶叫

 夕方になってアプリコットたちがジャングルの視察付近の散歩から戻ってきた。

 彼女たちが戻るとほぼ同じ時間に、物見台に詰めていた兵士より声をかけられた。

「隊長~、トラックが戻ってきました。まもなくバイクが到着します」

「お~~、分かった。ありがとう~」

 そんなやりとりをしているうちにバイクが俺の前で止まり、報告をくれた。

「ただいま戻りました」

「ご苦労さん」

「あの~、今回ですが………」

「ん??どうした?」

「おまけが付いてきました」

「おまけ? なんのこと?」

「あのですね……外交官殿宛の機密文書を持って司令部から人が我々に同行してきました」

 報告しづらそうにトラックにおまけが付いてきたことを報告してきたのを聞いていると、トラックがひよこたち1個分隊を連れて到着した。

 トラックが完全に止まるとトラックの中から声がかかった。

「総員、降車。整列して待機」

 一斉にあのひよこたちがトラックから飛び出てきて2列横隊に並んだ。

 俺を見つけると、また声がかかった。

「隊長に向け敬礼」

「あ~~、帰ったのね。俺も敬礼っと」

 やや遅れて俺も敬礼をして、「おかえりなさいでいいのかな。おかえり。後は明日からみんなにはここで仕事だからね。………ということで、とりあえず彼女たちを宿舎にでも入れておいて」と言って傍にいた山猫の人にお願いをしておいた。

「で、どこにいるのかな~。おまけの人は」

「あの~、もうすぐ着くかと…あ、見えました。あの指揮車に乗っております」

 そう言ってトラックが入ってきた方向を指差して教えてくれた。

 その指揮車もトラックのすぐ後に止まるやいなや、車内からこれも声が聞こえた。

「なんなのよ~~~。ここはどういうことなの~~」

 なんだか非常にめんどくさいことになりそうなのだが、戻ってきているはずのアプリコットたちはどこかに逃げて見当たらない。

 俺が相手をするしかないか…クソ~~逃げ遅れた。

 指揮車の中で声を上げていた人は落ち着いたのか、車から出てきた。

 出て直ぐに俺を見つけると俺の前まで早足で近づいてきて、問い詰めるかのように俺に聞いてきた。

「ここはどういうことなの。司令部には報告が上がっていなかったわよ。基地の建設なんかこの時期に許可されるはずないじゃないの。あなたは軍令を無視するのね」

 えらい剣幕で問い詰められているはずなのだが、続けざまなので俺が答えようになく、ただただ黙っていると、さらに怒り出して、「黙っていても分からないじゃないの。きちんと答えなさいよ」

 え~~~、あれでいつ答えればいいんだよ。

「マーガレット中尉、少し落ち着いてください。きちんと説明をしますから」といってサクラ閣下の副官、花園連隊の頃から勤めていたマーガレット中尉をなだめた。

 彼女が落ち着いてからきちんと説明を始めた。

「先週あたりに司令部に無線で、この場所に指令所を設営してここを中心にジャングル内の探査及び哨戒任務に当たることは報告を入れ、許可も貰っていたはずですが、聞いていませんでしたか」

「ジャングル内で、廃墟となった村の跡に指令所を設営する話は聞いていましたよ。え~~え~~許可も出してあったのも覚えておりますよ」

「なら問題はないのでは…」

「ここのどこが指令所なのですか、どこが」

「どこかといっても、ここの全てでしょうか。兵士の寝る場所と、簡単な無線所などですかね」

「どこからどう見ても基地じゃないですか。ほとんど師団の基地と同じじゃないですか。師団基地を小さくしただけじゃないですか」

「え~、レンガの師団本部のような物は作ってはいませんよ。それにどこにも基地建設用の資材も要求は出していないし、やはり前線に応急に設けた指令所じゃないですかね」

「そんな訳ないじゃないの。営舎なんて全く同じようなものじゃないかしらね」

「そりゃ~同じになりますよ。だってあれは最初に俺らがに作った物ですしね。師団の基地の方はそのうちみんなレンガ作りに置き換わるんじゃないですかね。シノブさんところの若いのなんかえらく張り切っていたしね」

「そんなこと言っているんじゃないわよ。え~~いいわ。あなたが指令所と言い張るのならばそうしていればいいのよ。しかし、このことはきちんと閣下には報告しますからね」

 だから嫌だったんだよな~、この人も融通がきかなそうで……絶対に問題なんかあるはずないよな。

 だって俺は応急的に住む場所を用意して、少しでも住みやすい環境になるようにちょっとだけ工夫しただけだし、それに、このことも無線で報告は上がっているはずなんだよな。

 『ジャングルの探査に加え指令所の環境をよくするように作業をしている』とこれも3~4日前に無線で報告したと俺は聞いたのだけれどもな~。

 ま~いいか。

 それよりもこの人ここに何しに来たのかな~。

「中尉殿、それよりもここに来た目的はなんですか。まさか散歩ってわけじゃないですよね。あ、散歩じゃないかドライブか」

「あなたじゃあるまいし、そんな訳あるはずないじゃないですか。私だってこんなジャングルの奥まで来たくてきた訳じゃないのよ」

 あ~~あ~~、そんなこと言っちゃダメでしょ。

 ここで仕事をしている人全員がそうなのだから、上の人が現場のやる気を無くす発言はまずいでしょ。

「コホン(ちょっと赤面して)、それよりアンリ2等外交官殿はどこにいますか。彼女あてに帝都より機密文書を持参してきたのですから」

 マーガレット副官もまずい発言と気づいたようで、慌てて体裁を整えるように要件を言ってきた。

「彼女は先ほどジャングル内の視察から戻られて、今彼女の私室に当てている部屋にいるかと思います。ご案内します」といって、アンリさんの部屋に案内した。

 こんな広場で大声で対応していたのだから、アンリさんを含むアプリコットたちは物陰から俺らの様子を伺っていたので、俺が彼女を連れて向かおうとしたところで物陰から出てきた。

 アプリコットとジーナは以前のレイラ大佐の尋問がトラウマとなっており、司令部の人たちの取り乱した様子に恐怖して声も出ない様子だったが、アンリさんについては全くそんなこともないので、ごく普通にマーガレット副官に声をかけた。

「マーガレット中尉殿でよろしかったでしょうか、私が2等外交官のアンリです」といって彼女の胸ポケットから身分証を出しマーガレット副官に提示した。

 マーガレット副官は身分証を確認して、「私はサクラ師団でサクラ閣下の副官を努めておりますマーガレットと申します。階級は中尉です。規則ですので、失礼かと思いますが身分証のコード番号を控え取ってもよろしいでしょうか」

「構いませんよ」と身分の確認の正式な手順を踏んで身分の確認を始めた。

 無事身分の確認が終わり、やっと要件に入れる。

「帝都の皇太子府より外交官殿宛に機密文書を預かっております。受け取りをお願いします」

 ほんとうにめんどくさい。

 こんな騒ぎになるくらいならば、アンリさんを基地に呼び出せば済む話じゃないかと俺は思うのだが、なんとなく帝国軍は肝心なところで抜けているんじゃないかと思ってしまった。

 どうせこのあと厄介事になるんだよな。

 なんかお決まりのような……

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