第159話 職場はジャングルの中

 俺らは予定していた廃墟に無事に着くことができた。

 今後のことも考え、ここに拠点を置き、バイクを中心にジャングル内の探索をしていくことにしていた。

 着いた時にはすでに日が傾いており、今からテントなどの野営の準備をするには遅すぎた。

 今回のメンバーは俺を除きすこぶる優秀なものしかいないので、とりあえずそのまま焚き火をしながらの野営とした。

 明日からここの拠点化を図り、少しでも環境を整えていくことにした。

 野営の警戒などは全てケート少尉に任せておけば大丈夫だし、それになんといっても山猫のメンバーのうちの半分もいるのだから安心できる。

 翌朝早くからバイクを付近に出して周りを警戒してもらいながら、全員でここの拠点化を急いだ。

 まず、テントを中央広場になっている場所に張り、眠る場所を作った後に通信担当のふたりが無線の準備をしていた。

 衛生兵やマキアさんなどがジーナの指示のもと、付近の木の中で一番背の高い木にアンテナを取り付けていた。

 このアンテナのメリットは指向性の強さなので、付近の敵に傍受される危険性は小さくなる。

 当然デメリットもある。

 それは指向性の問題できちんと向きを合わせないと基地とは繋がらないので、準備するのが非常にめんどくさいのだ。

 今回のように応急恒久を問わず拠点を構築する以外には使わないものだが、なんでそんなものが入っていたのだろう。

 しかし、当分はここを動かず、ここからジャングル内の探査と現地のローカル勢力とのファーストコンタクトを試みることにした。

 理由はいくつかあるが、我々のメンバー内に素人がいるのがその理由の主なものになっている。

 軍人でもない外交官をいつまでもジャングル内を彷徨わせるわけにはいかない。

 体力が持たない……というのは表向きの理由で、一番の理由が素人のおじさんこと俺が持たないのだ。

 ま~二人も素人がいて、このあと更に200名の素人が来るのだし、それになんといってもここは最近まで現地の勢力の拠点の一つだったのだから、動かずに彼らからの接触を待つのも合理的な判断といえよう。

 これには基地の了解も取れているからあとでイヤミも言われないだろうと思われる……ホントかな?

 昼前にはとりあえずの準備も出来落ち着いたところで、士官を集めて今後について相談を始めた。

 ケート少尉の率いる陸戦隊は優秀な兵士なのだが、今までの勤務地が帝都であり、ジャングルについては経験の不足が致命的になっている。

 そこで、経験不足を補う意味も兼ねて山猫さんたちと組んでバイクで付近の探索を行ってもらえるようにローテーションを組んでもらった。

 残りの人員はとにかく全員でここでの生活をよりよくするために周りの木を使ってログハウスを作ることにした。

 また、測量担当のエレナに護衛をつけて付近の地図を作らせ、補給路の策定にも取り掛かった。

 軍属のサリーは常に中隊司令部をおいているここにいてもらい、もし、ここの村の出身者やこの村の関係者がここを訪ねてきた時に仲を取り持ってもらえるように待機してもらっている。

 彼女の姉と会えることができたらそれに越したことがないのだけれども……こればかりは運次第だ。

 尤もサリーが生きて俺らと一緒に居ることが、俺らにとってもサリーにとっても幸運だと思いたい。

 以前サリーに聞いたのだが、彼女の姉は現地ローカル勢力内で女性ばかりの戦士のリーダーをしているそうだ。

 もし彼女と友好的に話ができるようになれば、彼女の伝で現地勢力の有力者とのコンタクトもできるだろう。

 それこそが我々に託されている任務なので、ここにいるだけでも意味も出てくる。

 ここは廃墟とは言えつい最近まで人間が生活をしていた場所なのだから、十分に生活できる環境があるはずだ。

 しかし……敵に廃墟にされているのでその影響を調べないとそのまま使うことができない。

 そう、ここには井戸があるのだが、今現在誰にも使わせていない。

 井戸の放り込まれた遺体などは以前来た時に丁寧に引き上げきちんと埋葬していたが、今回は井戸の清掃を行うことにしている。

 つい最近まで使っていたのでそんなには荒れてはいなかったのだが、毒などを放り込まれていたのでは使えない。

 そのためにもきちんと清掃をした後に水質の検査も行ってからしかここの井戸が使えない。

 井戸の清掃は衛生兵の指示のもと山猫さんたちが行ってくれた。

 明日以降じゃないと使えるかどうかの判断がつかないので、今日のところは不便でも基地から持ってきている水を少しずつ使っている。

 もし井戸が使えないとなると毎日のようにここから基地にトラックを出して補給を受けないとここが使えなくなる。

 そうならないことを祈りながら今日は出来る作業をみんなで協力しながら行っていった。

 こういった土木作業は全員が素人だが、軍人ならば少なくとも少しは似た作業の経験があるので慣れないながらもやっているのだが、完全に事務職の外交官ではやはり不向きなのだろう。

 途中何度も手伝おうとしていたのだが、かえって邪魔になるので、今は離れて見学してもらっている。

 拠点の設営作業中でははっきり言って外交官の出る幕はない。

 本当に暇そうにしていて気の毒なくらいだ。

 アプリコットやジーナに手隙の時に彼女を連れて付近の探索に出てもらった。

 正直、付近の探索は済んでおり安全が確保されている状況でだ。

 彼女の暇つぶしが目的なのだが、現地勢力とのファーストコンタクトのためにもジャングルを実際に体験して理解してもらうのもその理由にある。

 エレナさんが測量に行くときにでも一緒に出ているようだ。

 後で聞いたら測量を手伝っているようで、仕事をしているのが嬉しかったのか戻ってきた時にはかなり嬉しそうにしていた。

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