第153話 ルーキーたちの実力

 翌朝、昨日の話し合い通りに計画を進めようと旧詰所前に俺の中隊員全員を集めた。

 と同時に、営舎建築のためにシノブ大尉から借りている元俺の部下と新兵の80名も集まってもらったから、詰所前がとんでもないことになっていた。

 俺の中隊員だけでも200名の新兵を含むルーキーに30名の陸戦隊、それに元から俺の部下だった元山猫さんたちにジーナたち同期組と俺とアプリコットだから250名以上が今俺の指揮する人員だ。

 集まってもらったのを見たら少々びびったがやることは変わらない。

 すぐに整列をしてもらう。

 そこで俺は先行きに非常に暗いものを感じた。

 まず当然だが、俺のとこにいた部下と元部下に陸戦隊の皆さんは綺麗に整列をして、待機状態になったが、やや遅れて、シノブさんとこから預かっている新兵たちものろのろと整列を始めた。

 が…しかし…あれどうにかならないかな~

 新たに配属されてきたルーキー達はただ集まるだけで私語も止まずにダラダラしている。

 どうなっているんだ

 俺は思わずアプリコットを見てしまった。

 アプリコットはやっぱりねっといった感じでどうしましょうかという目で俺の方を見返す。

 陸戦隊のケート少尉は非常に驚いたような顔をしている。

 唯一、非常に困った顔をしているのがメリル少尉だ。

 俺は近くにいたジーナに思わず聞いてしまった。

「ルーキーって聞いていたけれども、まともに訓練されていないのが来たのか。あいつら今まで何をやっていたのだ」

「あ~、ルーキー達ですね。帝国内で配属前での訓練はしっかりされていたはずですが、前線でまともに訓練をしていなかったんではないでしょうか」

「え??前線で訓練しないの。四六時中戦闘していたわけじゃないよね。戦闘以外ではなにしていたんだ」

 アプリコットが俺に説明をしてくれた。

 なんでも彼女らは、帝国内の第一作戦軍の後方で予備兵力としていた連隊にいたのが、例のゴンドワナ大陸主要補給港での捕物で増員という名の実績と軍功稼ぎの為にしゃしゃり出てきた急進攻勢派の貴族が率いていた者たちだったのだ。

 知ってのとおり港では考えられないくらいの失態をこれでもかというくらいしでかし、連隊長は流石に責任を取られて連隊を解散させ帝都に戻されたそうだが、即戦力になりそうもないのが我々に押し付けられた。

 で、問題の連隊だが、連隊長以下幹部連中が日頃から『我々こそが帝国の精鋭だ。花園連隊は華やかさに騙されているだけで、本当の精鋭は我々だ。』と連隊戦隊にすり込んでいたようなので、無用にプライドだけは高いのだが実力が全く追いついていない使い物にならない部隊だったそうなのだ。

 そんな連中にも軍功を稼がせて出世させないといけなかった急進攻勢派としては簡単に軍功を稼げると踏んだ港に侵入した敵の殲滅に加えたそうなのだ。

 どちらにしても西部正面軍の補強をしなければならなかった事情もあり、彼らが呼ばれたそうだ。

 なので、プライドだけはしっかり教育されてはいるが、まともに使えるレベルにはなさそうだと資料を見た時に感じていたそうだが、まさかこれほどひどい状況だとは思ってもみなかったというのだ。

 やっぱりいらないぞ……返品するわけには……行かないですか、そうですかでも……でもも何もないのだが……俺はひとつ学んだ、軍にはクーリングオフ制度はないそうだ。

 諦めよう。

 でも、どうするんだあいつら、まともに使えないぞ。

 それよりもよくジャングルを抜けてこられたな、それが不思議だ。

 そのカラクリもメリル少尉が本当に申し訳なさそうに話してくれた。

 自分も彼女たちとはジャングル方面軍司令部のあるローリングストリングスで合流したのだが、そこからここまではシバ中尉たちの補給部隊についてトラックに分乗してきたのだとか。

 西部方面軍からローリングストリングスまでは誰でも行き来できるくらい便がいくらでもあり、それこそ『初めてのお使い』じゃないのだが、行き先表示に従っていれば乗り換えさえ間違わなければ来れるのだそうだ。

 当然彼女たちはジャングルまで無事に来れた事も誇りに思っているのだそうだ。

 どうしようもない連中だ。

 俺らの最初の作業が決まった瞬間だ。

 新兵はともかくルーキーの鼻柱を早急に折る必要があるのだ。

 とりあえず彼女たちに整列を教えた。

 その上で、最初に例の訓練施設で彼女たちの実力を測ることにした。

「君たちは西部方面きっての精鋭の出身と聞いている。この基地には幸いに帝国の精鋭が集まっているので力を測るのにはちょうど良い。君たちの元の連隊長が華やかさに騙されていると言っていた花園連隊を始め、帝国海軍きっての精鋭である第一陸戦大隊の部隊もある。この基地で、君たちの実力を発揮してもらい、その実力を私に見せて欲しい」と挨拶をした後、最初に作ったアスレチックスに向かった。

 既にそこにはアザミ大隊の皆さんがガチ装備で訓練に臨んでいた。

 流石に精鋭の名をほしいままにしてきた帝国きっての精鋭部隊だ。

 なんでも今日は一番きつい渡河中の射撃訓練をするらしい。

 あの冷たい水に浸かりながらの中距離の射撃訓練だ。

 当然彼女たちは撃つだけじゃなく的に当てないとペナルティーを課せられるそうだから真剣さが違う。

 今の我々のような緩みきった空気が全くない。

 そんな精鋭部隊を見ても全く何も感じないような、ここまで来ると立派と言いたくなる連中を早速訓練施設に向かわせた。

 当然何も持たせずにだ。

 結果は予想するまでもなく最初の壁をまともに乗り越えたのが200名中でたったの二人、それもルーキーじゃなく新兵なのだから本当にお粗末だ。

 当然完走者は誰もいないお粗末な結果だ。

「精鋭の諸君。君たちの言う精鋭とはどういうものを指すのかわからないが、今のままじゃまともに作戦行動は取れない。せめて私のところにいた新兵と同じくらいにはなってもらう。なので、新兵の訓練の様子を見ていて欲しい。彼女たちは君たちの元の連隊長から言わせると落ちこぼれだそうだったから、ちょうど君たちとは真反対のレベルだが、その訓練を見学して感想を聞かせて欲しい」と彼女たちに向かって訓示??をたれた後、元の新兵たちに訓練をさせてみた。

 彼女たちにとってかなり不満のあった訓練(なにせ自分たちのことを真剣に工兵と勘違いしていたくらいなので)だが、それでもガチ装備で最初の施設は簡単にクリアしてみせた。

 ついでにシノブ大尉から預かっている40名の新兵にもやってもらった。

 尤もこちらは何も持たせずに初心者コースなのだがそれでも、40名中でコースを完走できなかったのが奇しくも二人あった、できなかった者がだ。

 流石におやっさんのところに来ただけのことはある。

 基礎訓練はしっかりされている。

 ということはこの連中は何を今までしてきたかということになるが、とにかく鍛え直す必要が緊急の課題として浮かび上がってきた。

 営舎の建築はシノブ大尉から借りている80名と陸戦隊とでやることにして、山猫さんたちにはつきっきりでの訓練をお願いした。

 このままだと本当に置いて行くしかないかも知れない。

 メリル少尉には貧乏くじを引かせることになってしまったが、最悪は、彼女にルーキーたちの訓練を任せて陸戦小隊と山猫さんたちだけで出発もありそうだ。

 その時にはジーナたち同期組だけでも残していこう。

 本当にトホホの発進だ。

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