第152話 中隊の編成作業

 とりあえず話し合いがひと段落してお茶をしていると、外の方が騒がしくなってきた。

 窓から外の様子を伺うと、テントを借りてきた一行が戻り、テントの設営に入っているようだ。

「ちょうど良かった。メリル少尉とメーリカさんを呼んで来てくれ。ここで中隊の編成を決めたい」

「分かりました」と言って、アプリコットが外に出ていった。

「隊長、本当に200名からなる小隊を作るつもりなんですか」

「それしか方法がないのならしょうがないよね」

「でも……小隊の編成には制限があったような気がしますし、無理なんじゃないですかね~」

「それなら方法があるから大丈夫だよ」

「小隊の編成は確かに60名を上限にするようなことを言われたような気がするしね。ほら~、俺が小隊長に命じられて編成するときにサクラ閣下が悔しそうに俺に新兵を押し付けてきた時があっただろう。覚えていないかな~。あの時60名の上限であれしか俺のところに新兵が回されてこなかったけれど、あの上限がなかったら、あの時の新兵の全員を回すことも仕出かしかねない様子だったしね。だから、さっきいったように小隊2つの編成はできないよね。でも、規則にはほとんどのところ逃げ道があるのだよ。小隊の編成は60名が上限だが、分隊には人数の上限がない。なので、俺の中隊の編成は1個小隊4個分隊の編成で行くつもりだ。その4個分隊の面倒をメリル少尉に見てもらうつもりだから、これならどこの規則にも抵触しないだろう」

「それ~、なんかずるくはありませんか。このような時には、殆どの場合に中隊だけの編成でそれ以下の隊を作らないのが普通ですよ。シノブ大尉のところなんかがそうですよね」

「俺に200名以上の面倒なんか見られないよ。できる人たちにみんなで仲良く苦労は分かち合うのが俺の方針。ほら~、アプリコットたちが戻ってきたから、この続きは相談しながら話そう」

 部屋にはアプリコットがメリル少尉とメーリカ准尉を連れて入ってきた。

「中尉、お呼びだと聞いてまいりました」

「メリル少尉、硬いよ、硬い。もう少し肩の力抜いていいから。空いている席に座って。メーリカさんのようにね。あと、何を飲むかのかな。といっても、ここでは紅茶かコーヒーしかないけれどね。でも、ここのビスケットは美味しいよ」

「は~~、ではコーヒーをお願いします」

「だって、サリーちゃん、コーヒーをこちらの少尉さんにお願いね」

「は~い、わかりました。メーリカさんもコーヒーでいいんですよね」

「お~、それで頼むわ」

「で、お茶でも飲みながらみんなに相談なんだけれどもね」と言って、俺は中隊の編成に関しての相談を始めた。

 おおよその方向性は既に話し合わせてあることも伝えた上で、現状の問題点を説明して意見を求めた。

「え~~、それじゃ~、ここの中隊は小隊を造らない編成しかできませんよ。しかし、ベテランならばいざ知らず、新兵と2年未満のルーキーだけでも200名いる中隊なんて教育中隊くらいしかありません。サクラ閣下は、この基地で教育中隊でも作るおつもりなんですかね」

「いや、確実に近日中の出動命令が出されるね。それもかなり無理なミッションでね」

「は~、どういうことですか」

 メーリカさんはメリル少尉に今までの俺の小隊の扱いについて説明しながら、今後の見通しなどを話して聞かせていた。

 俺とほとんど同じ見通しだ。

 それしかないよな~。

 ジャングル内の捜索と遭遇する敵の殲滅。

 は~~~~、考えただけで気が重くなる。

 準備時間なんかほとんどもらえそうにないしな。

 大体この基地に新たな配属組がたくさん来るまでに俺ら邪魔者をジャングルに追いやりたいよな。

「中尉はどのようにお考えなのですか」とかなり力を入れてメリル少尉が俺に聞いてきた。

 俺が先ほどジーナに聞かせたことを丁寧に話して聞かせ、意見を求めた。

 メリル少尉は「それは無理です」と拒絶の反応を示してきたが、それじゃ~どうするのがいいかと聞くと黙ってしまった。

 あまり強権を振りかざしたくはないのだけれど、それしかないしね。

 それに、メーリカさんは大体のところを予測していたようだ。

 あの新兵たちは分けて面倒を見るしかないし、前にあった分隊に均等に分けて鍛えるつもりだったようだ。

 なので、俺の意見にいの一番に賛成をしてくれた。

 でないと、ジャングルに連れていけない。

 すぐにでもジャングルに行けと命じられそうなのに、のんびりとはできない。

 少なくとも分隊長たちの命令を間違いなく理解でき、ゆっくりでもいいから体が動けるようにしないと、本当に命令初日に200名からなる新兵たちはジャングルで迷子になる。

 本当に渋々ながら、メリル少尉も納得したようだ。

 理不尽な命令など今に始まったわけじゃないのに、あまり経験がなかったのだろう。

 しかし、俺のところにいればすぐに理不尽な命令の対処方法を学ぶことが出来る。

 山猫さんたちも今まで理不尽な命令をたくさんこなしてきたので、今回のような場合にでも現実的な解決策を探そうとしていた。

 アプリコットもだいぶ慣れたようだ。

 俺の所に来る命令は全て理不尽なものばかりだから、俺の副官をしていたらいやでも慣れるだろう。

 彼女は何事もなかったように淡々と師団本部に提出する書類の準備を始めていた。

 俺の中隊の構成は陸戦小隊1個と4個の分隊からなり、1個分隊は50名で構成されることが決まった。

 各分隊のメンバーはこれからの訓練の様子からメーリカさんと各分隊長とで話し合って決めていくことにした。

 なので、明日からの予定についても話し合われた。

「明日の午前中は例の訓練施設を使って新兵たちを訓練していく。そこで、資質など見極め分隊を分けていく」

「あの~、中隊長。我々海軍陸戦小隊はどうしましょうか」

「悪いけれど、明日の午前中だけは付き合ってくれ。そのあとは、家作りの協力をお願いしたい。こっちも新兵の教育があるので。最もこっちは慣れたのが半数もいるからだいぶ楽だけれどもね」

「隊長、明日からまたあれをやるのですか」

「そうだ、それしかないだろう。でないと誰も俺らの住む家を作ってくれないぞ」

「わかりました、明日からは、また、基礎訓練と工兵の設営訓練を兼ねた建築作業を手分けして行っていきます。期限はどうしますか」

「それはあちらさん次第かな。師団本部がいつまで俺らに時間をくれるかな~。とりあえず、全員分の営舎の建設とそれを終えたら俺らの詰所の建設までかな」

「隊長はどれくらい考えておられますか」

「詰所までは、3週間かかるかな。営舎だけでは1週間と見ているよ。それ以上かかるようならば旧花園連隊の隊長さんあたりに応援を頼むつもりだ。どうせ、あちらも同じことをしないといけないようなのだからね」

 すると今まで横で聞いていたシノブ大尉が、「私たちも時間の許す限り精一杯協力させてもらうわね。だから、あの子達の教育もお願いね」

「だそうだ。明日から忙しくなるがみんなで苦労は分かち合おうよ。俺だけでは絶対に無理だからね。お願いだよ」

「中尉~~~~。分かりましたから、それどうにかなりませんかね。一応私たちも軍人なのですから、軍の秩序を乱す発言だけは控えてください。こちらもお願いします」と、いつものアプリコットのお小言で中隊編成の作業は終えた。

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