第144話 新生サクラ師団の行方

 立派だが、調度品が情けなくて残念な会議室に続々と人が集まる。

 会議室が人で埋まるようになると、先程まで残念な会議室が、立派に見えてくるのが不思議だ。

 なんのことはない。

 残念な調度品が人で隠れたので立派な部分しか目立たなくなっただけなのだが、それなりに形にはなる。

 今、ここの会議室には、この基地に所属している士官が全員集まったような感じだが、実は各部隊長とその副官が呼ばれたようだ。

 なので、会議の正式な参加者は佐官とその副官となる。

 ……ちょっと待て、その条件では、俺はいらないはずだ。

 俺はしがない尉官でしかない。

 それも先日の昇進でやっと中尉、例外的にその場で中隊長などを仰せつかったが、この場での参加資格が無くならないか?

 そうか、それでは、何かあればお知らせください。

 帰るぞ……と言ったら、その場で怒られた。

 いいからそこで静かに座っていろと、レイラ中佐に怒鳴られた。

 隣にいたサカキのおやっさんは、『何をやっているんだ』って顔をしていたな。

 当然のようにアプリコットとジーナにはその場にてお小言をもらった。

 ほぼ会議室が埋まった頃合で、レイラ中佐が会議を仕切り始めた。

「忙しい中、集まってもらって感謝している。また、色々と噂を聞いて不安になっているものもいることだろう。本来ならば、師団長のサクラ閣下が皆に説明をするところではあるが、昨今の帝国を取り巻く情勢で、それもできない。閣下は、今、帝都で戦略会議中だ。なので、私が閣下の命令を受け、状況の説明と、閣下からの内命を伝える……」という感じで、その会議は始まった。

 俺か、俺は大人だから、きちんと話しを聞いていたよ、レイラ中佐の説明を。

 で、彼女が説明してくれたことは、俺が帝都で見聞きした内容から始まって、この旅団が師団に変わる理由と、今後の展開の見通しについてだ。

 まず、我々が所属していた旅団が第3作戦軍から切り離され、皇太子府直属の軍団に組み入れられるということだ。

 この時、同時に海軍からも切り離され、この軍団に組み入れられる部隊がある。

 その部隊と共同して、作戦に当たることの説明を受けた。

 この軍団は、かなり特殊で、今までの帝国の歴史上あり得なかった構成をしており、いや、敵である共和国にもない形の軍団である。

 その大きな特徴が、いわゆる軍部から独立して活動していくということだ。

 直接の指揮命令形態は、皇太子府から行われ、軍団司令部の本部も皇太子府に置かれる。

 今まで実現できなかった、陸海軍の完全な共同作戦を今後期待されており、部隊も陸海軍の混成があちこちで行われる。

 我々は、その軍団の陸上作戦における中核部隊として位置づけられているために、旅団が発展的解消され、師団として生まれ変わると説明を受けた。

 ここまで説明をしていたレイラ中佐に対して、花園連隊に所属しているアザミ大隊長のアート少佐が質問してきた。

「中佐、質問をしてもよろしいでしょうか」と、言うと、レイラ中佐はアート少佐の質問に快く応じた。

「何かあるの、アート少佐」

「ハイ、師団に格上げの件は分かりましたが、今の人数では、当然、師団を形成することはできないのは理解しています。で、中佐の説明で我々が特に気になる点があえて説明されていないことが気になりました。我々は、どこの師団に合流、いや、吸収されるのですか。それとも、どこぞの旅団と合流ですか。急に我々以上の勢力との合流となると、気になって仕方がありません。嫌な部隊と合わさるのなんてあまり気持ちの良いものではありませんからね。で、どこの部隊がここに来るのでしょうか」

「そうね。まず、合流する部隊はあります。先に説明した通りに海軍との混成部隊が発生すること。まず、帝都の海軍第一陸戦大隊が、我々と合流して師団を作ります。大きな部隊の合流は、聞かされている限りでは、それだけです」

「そんなはずはないでしょう。今の我々は、旅団、それも帝国の基準ではギリギリで、正直、規格を満たしているか怪しい人数でしかないのに、大隊1つ合わさったくらいでは、師団には成りようがありませんよ。いくら軍から離れた独立部隊だろうが、その人数で師団の働きを要求されたのでは堪りません」と、アート少佐の言い分も最もだ。

 ただでさえ、この旅団は今までの仕事ぶりのブラックさは、誰もが認識している。

 今の説明では、今の仕事の倍以上は働かされそうだということがありありと分かる。

 流石に現場の責任者であるアート少佐はその辺をきちんと分かっておきたかったのだろう。

 彼女はとても優秀だ。

 彼女に限らず、花園連隊の隊員は皆優秀だ。

 ブラックなら、そのブラックぶりをあらかじめ理解しておき、覚悟を聞けておきたかったのだろう。

 彼女の横で話を聞いていた彼女の同僚のサカイ少佐も頷いていた。

 しかし、レイラ中佐は、この質問の類はあらかじめ予測していたのだろう。

 にこやかに頷いてから、説明を始めた。

「アート少佐もサカイ少佐も今までかなり無理をお願いしていたから、今の正直な気持ちは理解できるわ。で、これから説明することに関係してくるので、先に説明をする。サクラ旅団の構成はアート、サカイ両少佐が率いる花園連隊とサカキ中佐率いる特殊大隊、それにヤールセン少佐率いる新兵ばかりの大隊の1連隊2個大隊で構成されていた。なので、人員の規模も帝国の基準ギリギリで旅団を作っていた。と言うか、新兵で人数合わせをして無理矢理に旅団にしていたと言ったほうがいいかしらね。今回の組織の改変も同じ手口よ。今回も増員で、師団に改変していく。でも、今回は前回と違って、朗報があるのよ。朗報とは、新兵ばかりでの増員ではないわ。半分以上は入隊配属から2年未満のルーキーが回されるそうよ。今度中隊を作るグラス中隊の増員兵は既にこちらに向かっているわ。内訳は新兵が100、2年目のルーキーが100の200名の増員が決まっているわ。他もほぼ同じようなものね」と、ここまでレイラ中佐が説明したら、会議室にいた全員の顔が曇った。

 各所に配属されている新兵は、ここ最近はかなりの成長が見られてはいたが、それでも、使い物になるかというと、どこも怪しい限りだ

 まともに実戦で使えそうにまで成長を遂げたのはグラス少尉の率いていた小隊くらいなのだが、その実践というのが、兵科が違う工兵としてなのが、う~~むといったところか。

 どこも、まだまだ苦労して新兵を育てている最中なのだ。

 最も半年ばかりしか時間が無かったのを考えると、とても優秀の部類に入る成長ぶりなのだが、面倒を見る方は堪らない。

 それが、今まであったことのない兵士ばかりで倍以上の増員となると、部隊を預かる人たちになるとそれは、地獄でしかない。

 何より頭が痛いのが、中途半端なルーキーの存在だ。

 かえってルーキーの存在は新兵以上に厄介になりかねない。

 みんなが自分たちの部隊の心配をし始めていたところにレイラ中佐が爆弾を落としてきた。

 今までの説明が既に彼らにとって十分に威力のある爆弾発言であったが、それ以上の発言が続く。

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