グラス中隊、始動す

第143話 グラス中隊、始動する

 いったい誰が言ったんだよ、あとは寝ていけばいいだけだからと。

 ゆっくり寝ていけば、明日の朝には基地の近くに有る飛行場に着くはずだったのに、全然寝れていない。

 何故かって……それは、輸送機に乗り込んですぐに、レイラ中佐から申し送り事項と諸注意という名のお小言をそれも延々と聞かされている。

 既に2巡目だ。

 いよいよエンドレスモードに入った。

 結局俺が解放されたのは、その日も終わり翌日に入ってからだ、着陸まであと5時間もない。

 あまり時間もないが、寝ておかないと明日じゃなかった今日1日が辛くなるので、すぐに寝ることにした。

 あとで俺のことを見捨てて、さっさと寝てしまったサカキのおやっさん文句の一言でも言っておこうかとしたら、逆におやっさんから諭された。

おやっさんが言うには、お嬢もレイラの嬢ちゃんも、まだ若いが、あの年で、そこいらの将官の何倍もの責任と仕事を背負わされていると。

 心にゆとりが持てないので、愚痴の一つも出ようというものだ。

 で、仕事の量に関しては、あんちゃんにも十分に責任があるのだと。

 お前さんが、やたらとしでかすもんだから、ただでさえまともでない量の仕事をこなしていた司令部の幕僚たちが、俺のせいでパンクしたことが一度や二度ではなかったのだと。

 なので、愚痴の1つや2つを嫌な顔をせずに聞いてやるのも男の甲斐性っていうものだと……

 え~~~~~、仕事に関しては、被害者は俺の方じゃないの?

 だって、無理な仕事を次から次に回してくるのは、司令部の連中でしょ。

 俺は、文句の一つも言わずに黙ってこなしていただけなのに、ものすごい理不尽な扱いを受けているように感じるのは俺だけだろうか。

 ま~、今更理不尽な扱いを受けるのには慣れているから別にいいけれども、もう少しどうにかならないものかと考えてしまう。

 あまり寝られずに俺らを乗せた輸送機『北斗』は場外……じゃなくて、名前が変わったんだよな、え~と、あ~そうだ、ゴンドワナジャングル飛行場だったっけ、たしかそんな名前に変わったはずだよね。

 で、その飛行場に着いてしまった。

 結局あまり寝られなかったので、俺は今、非常に眠い。

 しかし、ここであくびの一つでも出ようものなら、周りからなんと言われるものか簡単に予想がつくので、しっかり我慢した。

 輸送機が飛行場に着くと、飛行場にはシバ中尉が部下を連れて迎えに来ていた。

 俺らは、そのまま迎えに来ていたシバ中尉に連れられて、基地に戻っていった。

 基地の門をくぐると、すぐにレンガ作りの立派な建物が目に入ってくる。

 「ほ~、完成したのですね。

 でも、ちょっと立派すぎませんかこれ」

 と、俺の純粋な感想を受け、シバ中尉が、俺に言ってきた。

 「あんたがそれを言ったらダメでしょうが……

 もともとの設計の段階で、『どうせなら大きく作りましょう』って言いだしたのはグラス少尉じゃなかった中尉でしょうが。

 俺は、あの時は反対しませんでしたが、シノブ大尉なんか最後まで反対していたのを覚えていますよ」

 「え~、そんなこと言ったっけ。

 確かに設計には加わっていましたが、そんなこと言ったけかな~。

 でも、実際にできてしまうと、ジャングルには合いませんよね。

 なんか立派すぎましたね。

 ログハウスあたりがジャングルに一番合いそうな気がしてきたな」

 「確かに、そうだね。

 この建家の存在が周りに知られた瞬間から、各方面からクレームが入ったらしいよ。

 どこの世界に作戦軍本部より立派な建物をつくる旅団があるんだ~って。

 現に、第3作戦軍の入っている本部建家なんかこの新築された建家に比べると、かなりみすぼらしく感じたしな。

 うちらの司令部も新築させろと、ここにかなりの圧力がかかったって聞いているよ。

 最も圧力の方は、おやっさんの怒鳴り声一つで収まったようなのだが、あの時のうちの司令部の連中が、かなり右往左往していたのを覚えている。

 ちょうど、中尉がジャングル探査から帰る3日くらい前のことだったような。

 なので、中尉は司令部の連中から、ちょっとした恨みを買っているかもしれないね。

 あの司令部を作らせたのが中尉だって誰もが知っているからね」

 「あ~、そんなことがあったんだ。

 それで、昨日のお小言に繋がってくるんだ。

 始め何のこと言われているか分からなかったのだが……でも、司令部の新築は、計画が出たときに、司令部の幕僚たちは喜んでいたって言ってなかったっけ?」

 「確かに、あの時には、そんなことを言ってたね。

 でもしょうがないんじゃないかな。

 だって、あのおんぼろ司令部の入っていた建家なんか、いつ壊れても不思議のないくらいに酷かったからね。

 実際に、いくつかの部屋は、雨漏りもしていたしね。

 でも、ものには限度ってもんがあるでしょって言うのが司令部の言い分だそうだ」

 「へ~~~~」

 気のない返事をしながら、俺らは新築された司令部建家の中にある、やたら立派な会議室に連れてこられた。

 ひどくアンバランスな感じのする会議室だ。

 部屋は窓を広く取られてあり、立派な造りなのだが、なかにある机や椅子などは今にも壊れそうなくらい古くてボロい。

 この会議室は覚えている。

 俺が今まで経験したことのあるうちで一番立派な部屋にしようと俺が設計した部屋だ。

 部屋だけが立派でも調度品はあるものしか使えないので、こうなる訳だよな。

 うん、ものには限度ってものがあることは理解した。

 司令部の連中の言うことには一理ある。

 すると、昨日から俺らと一緒に行動しているアンリ外交官が感想を口にした。

 「これは、ないんじゃないかな。

 この建物も、この会議室も、ものすごく立派なものなのに、机や椅子があれはないでしょ。

 なんで、ここまでするのならば調度品もどうにかしなかったのかな~」

 それを聞いたアプリコットは頭を抱えた。

 彼女は、この建家の建築の経緯をすぐそばで見聞きして詳細に知っている。

 なにせ、設計事務所が俺たちの詰所の中で、同じ部屋だったのだから。

 そして、この会議室を設計したのも誰だかを知っている。 

 彼女へは俺の方から説明してくださいねって言った感じの目つきで俺のことを睨んできた。

 へ~い、分かりました、後で、俺の方からこの基地の成り立ちなどを説明していくよ。

 どうせ、新人さんたちの受け入れの準備をしなければならないんでしょ。

 すぐそばで見ていたら、嫌でも理解するよ。

 俺らは椅子に座って、ちょっと待っていると、さほどの時間を置かずに部屋には、メーリカさんとジーナが入ってきた。

 俺のところの実質指揮官の3人が揃った格好だ。

 そのあとから、うん、あの制服は帝都でも見た。

 海軍の陸戦隊の制服だ。

 てことは、彼女……て、また女性だよ。俺の所に来るのは……彼女も俺の中隊に加わるのかな。

 陸戦隊の1個小隊と一緒に行動することになっているしね。

 他にも偉そうな人が入ってきたぞ。

 俺は、あの人の顔は見たことがあるのだが、名前までは知らないぞ。

 サクラ閣下はまだ帝都だが、朝から会議でもするのかな。

 ヤレヤレご苦労なことで…

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