第145話 無茶苦茶な内命

 ざわついている会議室でレイラ中佐は、気にせずに話を続けた。

「で、みんなには、師団長閣下から内命をあずかってきております。まず、先の改変で、花園連隊が正式に解散されます」

「「「「「え~~~~~~」」」」」

 一斉に驚いたみんなは声を上げた。

 帝国のある意味象徴的である連隊の解散が伝えられたのだ。

 所属している両少佐の驚きはものすごいものだろう。

 しかも、これが内命で正式でないのにも関わらず、基地内では公になったようなものだ。

 おおよそ組織人においては考えられない措置である。

 が、そのあとに続く言葉がそれ以上のインパクトを持っていた。

「先に話したとおり、閣下が戻られたら正式に発令されますが、我々には時間がありません。なので、事前に準備をするために、閣下より、正式と同じ効力を持ったものと考えて動いて欲しいと、私が内命を伝えるように命じられました。なので、続けます。アート少佐は、中佐に昇進後速やかに連隊を組織すること。また、同様にサカイ少佐も中佐に昇進後に連隊を組織して、連隊発足後に両連隊を合わせて旅団を形成します。さしずめ、『花園旅団』とでも言われるようになるかしらね。まだ、旅団長の人事は未定ですが、旅団発足までは皇太子府からの命令です」

 ここまで、話されると、今度は、雰囲気が一変して会議室には静寂が訪れた。

 あまりの驚きと、考えられないくらいのムチャぶりに対して、その場にいる全員が、どうして良いのかわからない反応を示していた。

 そもそも、人事の内命など発令までは本人だけの秘事されるのが普通なのだが、公にされたら、発令と変わらない。

 今までの発言は議事録にも残るのだから、レイラ中佐もいい加減なことは言えない。

 その状況での発言なのだから、みんなもその異常さに気がついている。

 そんな会議室の雰囲気の変化に気がつかないようにレイラ中佐は話を続けた。

「彼女たち花園連隊だけじゃないわよ。サカキ中佐は可及的速やかに自身の大隊に大幅な増員を行い、特別支援連隊を立ち上げてもらいます。ジャングル内のインフラや家屋関連を一手に引き受けてもらいます」

 この話は既にサカキのおやっさんは帝都で命じられていたのであろう。

 表情を変えずに聞いていた。

 ここまで来ると、会議室には諦めの空気が流れてくる。

 最初に海軍の陸戦隊が1個大隊の規模で合流される話からして、旅団規模のところに総人員の25%にあたる部隊との合流、それも色々と遺恨を残す海軍との合流の一つだけでも大事件なところに、次から次にと、出てくる話は、彼らにとっては皆非常識な内容ばかりなのだ。

 陸軍人としての生活が長かった者たちにとっては、恐怖すら感じさせられるものばかりなのだが、それだけでは終わらなかった。

 最後の爆弾は、ここにはいない陸戦隊の大隊を中核に陸軍人を補充して、ひとつの連隊を構築してもらう話だった。

 で、アート少佐の最初の質問の答えに戻り、以上、新たに新設される連隊4個と勅命中隊1個で師団を構築されることが、ここにいる全員に伝えられた。

 なお、今回この会議室で話された内容は、部隊員に公開しても構わない、むしろ、事前に混乱を起こさないために事前に公開を推奨された。

 俺には、軍人としての常識に欠けるためにさほどのインパクトはなかった。

 人事の内命が事前に漏れるのには驚いたくらいだったのだが、周りの雰囲気を感じていると、すごいことが行われようとしているのだけは分かった。

 サクラ閣下もあまりのことばかりなので、事前に情報を明かしておいて、現場での混乱を最小限に抑える目的で、今回のように事前に情報を公開したのではないかと勘ぐったりもしたが、今の様子から、この勘ぐりはほぼ真実であろう。

 そのあとも、連隊の設立後の運用面などが軽く触れられたが、こればかりは、連隊が出来てみないとわからないのが現状のようだ。

 ほとんどの連隊は、先の説明では半数以上がルーキーや新兵ばかりで、何より深刻なのが、士官の不足が挙げられる。

 先の説明では士官の増員については全くと言って触れられていなかった。

 ここで、聞いてみても良かったのだが、俺の予測では、ひどい現実しか見えてこない回答しか得られそうにない。

 藪をつついても蛇しか出てきそうになかったので、疑問は俺の中で封印した。

 大きな混乱もなく……そんな訳などなく、無事大混乱のうちに会議は終了した。

 各自解散となったので、俺らは、さっさとここから立ち去ろうと部屋を出たところで、閣下の秘書官であるクリリン大尉に出口で捕まった。

 彼女にそのまま連行されて、また会議室に戻された。

「あなたは、何を考えているのよ。あなたの用はこれからよ」とレイラ中佐に開口一番で言われた。

 彼女は持っていたブリーフィングケースから書類を出して、俺に寄越してきた。

「これは、あなたの部下の転属命令書よ。あなたから、今日中に彼女たちに伝えてちょうだい。明日から、サカキ中佐の部下となるからね。どうせ、引継ぎなどいらないわよね」

「ハイ、今回は新兵だけでの移動ですので、引き継ぎはいりません」とすかさず、アプリコットはレイラ中佐に答えた。

「で、これは、口頭での命令になるから命じます。あなたの詰所を明け渡し、別のところに移っていただくことになりました。で、今まで使っていた詰所は、サカキ中佐率いる連隊のプロジェクトチームの詰所となります。これから、サカキ連隊はジャングル内の各所に、色々とこさえなければならないので、立ち上げるプロジェクトチームの詰所がある程度の格を持って必要となるのよ。軍以外からのお客様も多数出入りすることになるからね。今ある施設では外部の人を通せるのは、ここを除くとあそこしかないしね。それにあなたなら、自分たちで勝手に作るでしょ」と、レイラ中佐はすごい理屈を言ってきたが、確かに、他から来る人に対して、まともに人を通せるのは、ここ司令部建家とあそこしかないのはうなずける話だ。

「と言われることは、我々の詰所は自分たちで作れということですか」

 俺は、思わず聞いてしまった。

 サカキのおやっさんは、「別に、俺はどこでも良いといったんだが、お嬢が聞かずにな、すまんな、あんちゃん」と言って詫びてきた。

 俺にとって、別に愛着などないし、ほとんど使っていなかったのだから、構わない話なのだが、アプリコットとジーナは微妙な顔をしていた。

 あ、そうか、サリーが悲しむかも知れないか。

 それなら、サリーはあのままでとも思ったが、それならいっそ『サリーのおうち』も出世させるか。

 今度はログハウスで作ってみるか、広めのテラスなんかも作るのも面白いかも知れないしね。


「今度の改変で、更にここに詰める人が増えることが決定していますから、新たな建家を更に作っていかなければならなくなったのよ。当然、サカキ連隊の仕事だけれど、あなたなら自分たちの分くらいは自分たちで作れるわよね」

「は~~~」

「悪いな、あんちゃん。こっちも、今までのように協力するから、頼まれてくれ」

「おやっさんが、そこまで言われるのならば別にかまわないのですが、新兵を取り上げられての建築となると、ちょっとね~~」

「それなら、そのときは、こっちからも人を出すよ。シバでもいいから使ってくれ。シノブやシバには俺の方から言っておく」

「そこまでしていただけるのなら、俺に異存などありません。分かりました。でも私物などは、新たなものができるまで置かせておいてください」

「その件は了解したが、しかし、私物なんてあったかな~」

「俺らのは、ほとんどないのですが……サリーのお茶の道具などが少しありますし」

「あ~、それな、それは了解した。しかし、サリーちゃんのはそのままでもいいぞ」

「中佐、あ、私と一緒に昇進して今は大佐でしたっけ、大佐、そうはいきませんよ。あそこには、これから外からのお客様がみえられますから。例え軍属だといえどもあの形はまずいです」

「あ~、分かったよ。あとは、俺とあんちゃんの方で決めておくから、引越の件はこれでいいな」

 そのあと二三打ち合わせをした後に俺らは解放された。

「アプリコット、それじゃ~言われた仕事だけは済ませようか。みんなを詰所前に集めてくれ。辞令を伝えて、そのままシノブ大尉に預けるから」

 と、俺の依頼を聞いて、アプリコットとジーナは早足で俺の下から去っていった。

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