第139話 俺が中隊長だって
翌朝、俺ら二人はロイヤルスイートのリビングで、これまた信じられないくらい豪華な朝食を摂っていた。
食事が終わり頃になると、リビングに昨日から我々のサポートをしてくれている皇太子府の職員が入ってきた。
「本日の殿下との公式な対面で男爵の帝都での公的行事は終わります。食事が済みましたら準備して移動を願います」と言ってきた。
俺は思わず聞いてしまった。
「殿下との対面の時に、叙勲についてのお礼を述べた方が良いですか」
「男爵の叙勲についてのゴタゴタは一応オフレコとなっております。尤もほとんどの方はご存知ですが……ですので、その件は触れずにお願いします」と言ってきた。
「分かりました、すぐに準備を整えます」と言って、ホテルを出ていく準備にかかった。
もちろん、こんな堅苦しいことから早く解放されたいので、さっさと行事を終わらせたい俺らは直ぐにここを発つ準備を終えた。
準備を終えてリビングでくつろいでいると、皇太子府の職員がホテルの支配人を連れてリビングに入ってきた。
「男爵、昨日はおくつろぎいただけたでしょうか。本日はこれでホテルを発たれるとのことで、ご挨拶に伺いました。また、帝都にお立ち寄りの際には、当ホテルをご利用いただけますよう、従業員一同お待ちしております。また、帝国の勝利のためにさらなるご活躍をお祈り申し上げます。本日もホテル周辺には報道陣の方が多数いらっしゃっておりますので、混乱を避けるためにも、本日はホテル裏口の従業員専用出口にご案内いたします。ですので、ここでのご挨拶が最後となりますがご了承ください」
「いえ、最高のおもてなしをして頂き感動すら覚えております。またご縁があればと、私どものためにホテルにも迷惑をおかけしましたこと深くお詫びいたします。では、これにて」と言って、支配人が連れてきたホテルの従業員について行き、人気の無い出入り口からこれといって特徴のない車で皇太子府に向かった。
皇太子府では、正面玄関の立派な車寄せに付けられ、侍従たちに出迎えられた。
直ぐに殿下との対面となるようだ。
皇太子府の大広間に案内されたが、そこには、多数の政府高官たちが詰めていた。
見知った顔も多数ある。
なぜだ、なぜレイラ、サカキ両中佐までここにいるのだ。
レイラ中佐たちがサクラ閣下のそばで俺らの到着を見ていた。
レイラ中佐の姿を確認したアプリコットは、思わず「ヒ!」っと可愛い悲鳴を小声で上げてしまったくらいだ。
よほどレイラ中佐が怖いのだろう。
昨日恐ろしい記者たちに囲まれても毅然と対応していたのに、これは完全にトラウマとなっているな。
やはり、俺のせいかな……
職員に促され、正面の殿下の前に連れてこられた。
俺は、陛下との対面で学んだ所作を行うべくその場で片膝をついて敬意を示そうとしたのだが、殿下の隣に控えていた侍従頭のフェルマン氏に止められた。
「公式の対面といってもそこまでかしこまる必要は、ここ皇太子府内においては無い。そのままで。貴殿の活躍により、帝国は幾多の危機的状況より脱することができた。陛下に代わり私からも礼を申す」
「恐れ多いことです」
「我々は、今度の作戦大綱の効力発効により、昨日新たな軍団を陸海軍に独立して立ち上げた。ここに集まっている者たちは、その中心となって軍団を率いていく者達だ。全員を個別に、改めて紹介するわけにはいかぬが知り合いも多くいることだろう。この軍団において、貴殿には今まで以上の働きを期待している」
「お言葉ありがとうございます。殿下の命、しっかり受け止めました。自分の出来うる限りの物を出し切って、殿下のご期待に応えていきます」
流石にお偉いさんとの対応も2日目ともなれば慣れたもんだよ。
受け答えの問答集を昨日アプリコットに作ってもらって良かった。
俺が恥をかく分にはかまわないのだが、不敬罪などで各方面にご迷惑をかけるわけにもいかないし、何より、一緒にいるアプリコットにこれ以上迷惑をかけるのは可愛そうだ。
まあどうにか今回はうまく切り抜けたようだ。
殿下はその場から離れたが、まだこの部屋の中にいる。
俺も、この場から離れようとしていたら、サクラ閣下がマーガレット副官を連れて俺の前までやってきた。
「これより、グラス中尉に辞令を交付します。
『辞令。本日付を持って前職の小隊長職を解き、新たに発足した軍団内師団において特命中隊長職を命じる。』
なお、この中隊は陸海軍との融和のための試験部隊とし、海軍から出向されてくる精鋭の呼び声高い第一陸戦隊の中の小隊が加わる。また、先ほど殿下より要請のあった特命をグラス中尉に命じる。
『特命。貴殿は速やかに中隊を発足させ、ゴンドワナ大陸内のジャングルにいる現地ローカル勢力との融和的な接触を命じる。なお、この命令執行のために帝国外交執行部より、外交官1名を中隊と行動を共にし、可及的速やかに目的を達することを命じる。』
以上だ」
俺は何をこの人が言っているのかが分からなかった。
今言われたことを頭の中で理解しようと必死になって自分の頭をフル回転させていたが、横からアプリコットが俺のことを肘で突いてきて、
「中尉、拝命してください」
あ、これも様式美なのだ。
きちんと拝命しないと後でみんなに迷惑をかける。
俺は慌ててサクラ閣下に拝命の旨を伝えた。
僅かに微妙な間が生じたが、とりあえずこの場での様式美は守られた。
助かったよ、アプリコットに心の中で拝むように感謝した。
今この場でそれをやったら、守った様式美が音を立てて崩れていってしまうからね。
その後、当然のようにアプリコットに俺の副官を命じる辞令が彼女に手渡されていた。
こちらの方は、絵に書いたかのような綺麗な様式美を守り、ある種の儀式が進行された。
どうやら、以上で、俺らの帝都での公式な行事は全て終えたようだった。
俺は疲れて、うなだれるようにしてこの場から出て行った。
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