第138話  軟禁と尋問

 帝都の騒ぎはそう簡単に収まらない。

 グラスと彼の副官であるアプリコットは、いまだにホテルのコンベンションホールに軟禁状態だ。

 帝都にある報道機関に身柄を拘束され、取材という名の尋問を受けている。

 俺は、アプリコットが持っているトラウマが暴走しないかと心配していたが、彼女は割と平気な顔をして記者たちをあしらっていた。

 俺は彼女の取材陣に対してのあしらいのうまさに驚き、改めて彼女のスペックの高さに脱帽した。

 完璧超人は伊達じゃなかった、今日は使い物にならなかったのは偶々たまたま調子が悪かったのだろう。

 きのう何か悪いもんでも食べたのかな?

 ま~、今日のところは、珍しい彼女が見れて得したと考えよう。

 取材攻勢にひと段落がつくと、彼女は俺に、

「割と取材には慣れているのですよ。子供の頃から、それもかなりしつこい取材に何度も会いましたから、私は大丈夫です。それよりも、中尉が取材に対して余裕がないのが驚きです。あのレイラ中佐の尋問を平気な顔をして乗り切る中尉なのに、こんな程度の取材で余裕がなくなるのが不思議です。レイラ中佐の尋問だって、私たちの時以上に厳しかったと聞いておりますのに、不思議ですね」だと、レイラ中佐の尋問の時は、モンスターのクレーマーの対応をしている時の態度で望んだから、慣れていたのかな、あの時は割と平気だったよな。

 でも、さすがに帝国一流の記者さんにそんな態度で望んだら、その後の人生がどうなるのか予想もつかない。

 出来るわけないよな。

 なので、俺が出来る範囲で出来るだけ真摯に質問には答えていたのだが、それにしても、返ってくる反応はレイラさんの時とあまり変わらないな。

 『何言っているのだ、コイツは』って顔をしているけど、大丈夫なのかな……

 適時にアプリコットのフォローがあるから未だに炎上はしていないのだが、そろそろ限界かな、そんなことを考えていると、ホテルの支配人らしき人がホールに入ってきて、「皆様にご用意しておりましたお時間はとうに過ぎております。帝国の新たな英雄であるヘルツモドキ男爵も直ぐに軍務に付かなければなりませんので、今後の活躍を皆さんと一緒に期待しましょう。男爵との記者会見はこのあたりで終わりとします。本日はお集まりいただきありがとうございました」と言って、いつまでも終わらないかと思われた記者会見は突然に終了した。

 正直助かったという感想しかない。

 俺らは、先ほどホールに入り、記者会見を終了させた支配人に連れられて、ホテル最上階のロイヤルスイートと呼ばれている部屋に案内された。

 ちょっと待て、俺の貰っている俸給ではこんな部屋になんか泊まれないぞ。

 1年分の俸給全部出しても足りるかどうか心配だ。

「本日はこの部屋でお休みください」

「あの~~、突然で失礼ですが、質問をさせていただきたいのですが……」とここまで切り出すと、支配人は大丈夫です心得ておりますといった顔をして、笑みを浮かべながら答えてくれた。

「この部屋の支払いは帝国の貴族院の方でということになっております。ご予約から、記者会見などの手配など一切を貴族院からわたくし共に任されておりますので、あすの朝、男爵がここをお立ちになるまで全てをお任せ下さい。遅くはなりましたが、直ぐに夕食をお部屋にお持ち致します。それまで今しばらくここでおくつろぎ下さい」とここまで言ってから深々とお辞儀をして部屋を後にした。

「部屋で食事だって。ルームサービスって言うのかな。俺は初めての経験でちょっと興奮しているのかもしれないな」

「え、中尉はルームサービスの経験はなかったのですか?失礼ですけれど、中尉のお年を考えればちょっと……」

「あ~、構わないよ。俺は孤児院の出身だ。それに、俺はたいして教育も受けずに社会に出されたので、こういった上流階級っていうのかな、全く経験がなかったのだよ、高級な食事というやつが。あの記者会見も初めての経験で、今日は初めてづくしで興奮して眠れないかも」

「え、確かに記者会見での中尉は私も初めて見ました。あんなに余裕のない中尉の姿を見て驚きました。だって、今までどんなにすごいことになっても、全く動揺ひとつ見せなかった中尉が、あんなにオドオドしている姿は、多分ジーナたちには信じられませんよ」

「え、そんなに俺っていつもは毅然としていたのかな。格好良かった?」

「え~~~と、毅然というよりも…言ってもいいのかな……」

「え、何なに、怒らないから正直に教えて」

「え~、では本当に怒らないでくださいよ。毅然というよりも、飄々としているというか、何も考えていないというかといった態度でした。なので、我々配下は、安心してついていけるというよりも、大丈夫かなと言った感想を持っておりました。私やジーナなどは、サクラ閣下やレイラ中佐と同じように時々ですけれど、正直イライラさせられることもありましたよ」

「え~~~~~、それって酷くないですかね。確かに俺は軍人なんかに向いておりませんよ。ジーナに再会した時なんか、『まだ生きておられたのですか』だよ。皆んな酷くないかな~」

「だって、中尉が正直にとおっしゃったじゃないですか。だから正直にお答えしたのに」

「ごめんゴメン。怒っていないから。ちょっとだけ凹んだだけだから。でもそんなもんかな。でも周りをイライラさせているのは問題だな。改めたいけれど、どこでイライラさせているのかが分からないんだよね~~」

「そのままでよろしいじゃないですか。サカキ中佐などは中尉のことを高く評価しているみたいだし、なぜか工兵隊の皆さんからも評価はいいんですからね」

「わからないけれど、あのおやっさんとは仲良くさせてもらっているな。よく『喫茶サリーのおうち』にも来てくださるしね。あ、食事が来たみたいだ。冷めないうちに食べよう」

 ちょうどホテル従業員がルームサービスで豪華な食事を運んでくれた。

 広いリビングで仲良くアプリコットと食事を楽しんだ。

 明日はどうなるのかな……

 帝都で仕事はしていたのだが、やはり俺には帝都は合わないかも、早くジャングルに帰りたいな。

 あっちのほうがなんだか落ち着くようになってきたよ。

 そんな感想を持ちながら帝都での夜は暮れていった。

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