第135話 新軍団の発足
手続きを終えた俺らは、人事院の建物から出た。
外は既に日は沈んでおり、ここ官庁街も人通りは少なくなっていた。
外で待機していたリムジンにこれもほぼ無理やり乗せられ、いい加減どうとでもしてくれといった投げやりな感想を持ったが、俺にはどうすることもできずに成り行きに任せている。
俺らを乗せた車はすぐにここ官庁街に隣接する高級商業地区の一角にある見るからに高級なホテルに車を着けた。
俺らは促されるままホテルに入った。
「ヤレヤレ、今日の仕事はこれで終わりですね」と俺はやや皮肉を込めて、付き添いの皇太子府の職員に言ったら、彼は『え!!』って顔をして、「聞いていなかったのですか、最後にもう一仕事が残っておりますよ」と、本当に聞いていないのかという顔で答えてきた。
俺も、アプリコットもそりゃないだろうという顔をして抗議でもしようかと彼に話しかけるよりも早くホテルの従業員が俺らに近づいてきて、
「ヘルツモドキ男爵、お待ちしておりました。今日の宿泊のチェックインは既に済んでおります。それよりも皆様がお待ちしておりますので、こちらに」と言って、有無を言わさずにホテル奥の大集会場の部屋に案内という名の連行をされた。
どうもこれから帝都のマスコミに俺の叙勲と男爵授爵に関しての記者会見が行われるらしい。
既にこの広間には帝都にあるマスコミ各社が集まり準備が済んで、俺の到着を待つばかりとなっていたのだとか。
この記者会見は、そもそも、陛下よりの勲章を授与された後の騒ぎにマスコミがサクラ閣下を捕まえて色々と取材をしようとしていたのだが、彼女も組織の変更などで時間がないので、俺自身に関してだからと勝手にマスコミに約束をした結果だそうだ。
本当にあの人はロクなことをしない。
俺は完全にあの人に嫌われているな。
俺に関する扱いが酷すぎる、と思っている。
しかし、この扱いに全く堪えていないのは、記憶にあるお客様サービス部での自分の置かれていた状況に比べれば全く大したことがないとも思っているので、サクラ閣下を恨むまでは行っていない。
その原因たるサクラ閣下の方だが、こちらも先ほど苦し紛れにマスコミに答えていたように全くの時間が無い様子だ。
あの騒動が続く鳳凰の間から侍従たちに守られながら逃げるようにして、帝都郊外の皇太子府まで、関係する海軍軍人たちと一緒にやってきていた。
皇太子府の大広間に全員が集められ、殿下を頂点とする新たな軍団の首脳陣だけの発足式が厳かに行われようとしていた。
正式な発足式は、ゴンドワナ大陸のジャングルにそれなりの拠点を構築後に行われることなので、今日のところは首脳陣の顔合わせの意味合いが強い。
ここには驚いたことにレイラ中佐とサカキ中佐も出席していた。
なんでも先ほどすぐ傍にある飛行場に着いたばかりだそうだ。
彼らを見かけたサクラは、「あなたたち、基地はどうしたの?」と、至極当たり前のことを聞いてきた。
なんでも、サクラたちが基地をたった後、すぐ時間をおかずに海軍鎮守府から陸戦隊の1個中隊が帝都からの勅命を持って基地を訪れたそうだ。
勅命の内容は「基地の首脳陣を帝都に集めたいので、すぐに帝都に向かえ」というすごく簡素のなものだが、最前線にある基地の首脳陣の大半の不在はいくらジャングルに有り、敵の襲撃の危険性が少ないとは言え、あまりに不用心のことで、そこはこの命令を出した側も心得ており、先行してゴンドワナ大陸に来ていた陸戦隊を視察の名目で、応援に出してきた。
それに現在は、サクラたちが赴任した時と状況は異なり、精鋭の花園連隊がそのまま詰めているので、少々の時間ならば問題など起こりようがない。
そこまで考えて、基地側はレイラ中佐とサカキ中佐というサクラ閣下が最も信頼している二人を帝都に送り出してきた。
第27場外発着場には海軍の誇る新型輸送機が既に待機しており、付近の警戒のために海軍の基地防衛隊の1個小隊までが詰めているそうだ。
ここまでしていただけたので、二人は安心して帝都まで向かったとの事で、ほんの今しがた帝都に着いたばかりだ。
二人はここに向かい途中の機内でおおよその事は聞かされていた。
特にグラス小委改めヘルツモドキ男爵の叙勲については初めて聞いたようで、本当に驚いていたようだが、その驚き方にレイラとサカキで違いがあった。
レイラ中佐はまた、あいつは何かしでかしたのかといった、さも胡散臭いものを見るような感じでこの報告を聞いていたようだが、サカキ中佐は「あのあんちゃんはやるものだな」としきりに感心していた。
サクラが二人に色々と話していると、侍従が殿下の入場を伝えてきた。
その場にて全員が敬礼姿勢をとり殿下を迎えた。
殿下は開口一番に新軍団の発足の宣言をし、その後、殿下とその仲間たちが画策していた計画が殿下たちが以前に作った日程よりも格段に早く、かつ、これ以上にないくらいの良好な状況で進んでいることを話し始めた。
首脳陣だけの新軍団の結団式は殿下のこの話から始まったのだ。
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