第134話 その2

 まず俺が最初に貰った勲7等だが、これは前にも説明されていたのだが、例の共和国の士官2人を捕虜として帝都まで連れてきたので、ほぼ自動的に決められたとか、……それでも一部には反対する動きもあったのだが、信賞必罰の原理を無視するわけにはいかず、感情論は退けられた。

 ちょっと、今出てきた感情論って、俺はどこでそんなに嫌われているのかと心配になってきたのだが、この感情論がすべての始まりらしい。


 そもそも、勲1等まで評価が上がった始まりが皇太子府が俺に対して『勲3等 帝室功労者賞』の授与に動いていたのが始まりだそうだ。

 ではなぜこの功労賞かと言うと、始まりがあのジャングルの基地にその理由があった。

 そもそも、急進攻勢派としては中立派に属し、帝国内で絶対的な支持を集めている花園連隊とその連隊長であるサクラ大佐が目障りだったので、つぶれることを見越して旅団設立に動いていた。

 皇太子とその協力者たちは急進攻勢派の動きと敵のゴンドワ大陸での動きに危機感を感じており、この急進攻勢派のたくらみに乗って、秘密裏に行動を起こした。

 しかし、現地での状況は、殿下の予想をはるかに超えて酷い状態だった。

 急進攻勢派のあまりに露骨で、最悪の対応で、基地は使い物にならず、サクラ大佐がいくら優秀だといっても持ってせいぜい2週間が限界のようなありさまだったのだ。

 殿下が現地の状況を知りえた時には時すでに遅く、殿下の目論見が破綻する寸前だったのだ。

 殿下の目論見が破綻してサクラ大佐たちがジャングルから帝国に逃げ帰るようになれば帝国は最悪の形で危機を迎えるという恐怖が帝室全体を覆った。

 それだけ、急進攻勢派が準備している作戦は成功すれば大きなアドバンテージを得られるが、失敗はそのまま帝国の破滅までの危機をはらんでいた。 

 それも、成功の可能性は殿下が睨んでいた所ではほぼないと見ていた。

 実際に、ゴンドワナ大陸に準備していた主要補給港は簡単に破壊され、急進攻勢派が進めていた帝国作戦大綱は既に破綻しているのである。

 もし、あの時に殿下の目論見が潰えていれば、今の帝国はなすすべもなくすべての軍を引き上げ、帝国の防衛に全力で当たらないと本当に滅亡してしまう状況になっていたのだろう。

 それを最初に防いだのがどうも俺になっているのだ。

 あのジャングル内で作った「喫茶サリーのお家」やログハウスが基地の生活状況を一変させ、基地の存続ばかりか発展に寄与したことを殿下と皇太子府の全員が高く評価して、叙勲の準備を始めていたのだそうだ。

 そこにきて、帝国の作戦大綱が破綻した後もいつまでたっても作戦大綱の改定案を出せないでいる統合作戦本部の連中に嫌気が差したのが海軍省の一部有志で、改訂版の作戦大綱の草案まで持って元老院をはじめ関係各所にネゴを始め、先ごろ草案に一部修正を加えて新作戦大綱の制定に持って行けた。

 その最大の功労者である海軍鎮守府の参謀に叙勲の運びなったのだが、そこで新たな事実が判明したのだ。

 その初めの草案の作成で中心的にかかわっていたのが俺となっているのだ。

 帝国内の主に海軍連中が、俺に「勲5等 帝国最優秀参謀賞」を授与すべきと騒ぎだしてきたのだが、当然統合作戦本部は自分たちの面目を潰された上に、栄誉まで持っていかれてはたまらないと猛反対し、破綻の切っ掛けを作った第三作戦軍も軍を上げての反対を始めた。

 この動きとは別にゴンドワナ大陸にある鎮守府から俺に「勲8等 海軍栄誉賞」を授与したいと帝都の海軍省を通して陸軍省に打診が入ってきたのだ。

 これにはさすがの陸軍省も了承しかねる。

 自分たち陸軍でもまだ、俺に勲章を渡していないのにもかかわらず、海軍が叙勲するとなると、失敗続きの陸軍としても受け入れがたく、猛反対してきた。

 俺自身に全く覚えが無いのだが、俺がしたことになっている功績を一々上げられ信賞必罰の原則を守れと大騒ぎになってきたのだ。

 公爵閣下が、あの時はそれはとても大変だったと当時を振り返りながら、このまま騒ぎを続けさせるといつぞやの帝都での騒乱に繋がりかねないとの懸念から、閣下ご自身が音頭を取り関係者を一堂に集めて協議を始めたのだとか……俺のあずかり知らないところですが、ご面倒をおかけしました……っと頭を下げておいた。

 それでも会議はまとまる筈はなかったのだ。

 それぞれの部署のメンツが掛かっているのだ。

 それも、彼らからしたら、たかが平民の、それも最低の士官である少尉のしたことで、今まで培ってきた名誉とかメンツとかが潰されるのが我慢ならないのだとか。

 それもよりによって、自分たちの所属兵士で、それも、わざわざ20年ぶりに復活させてまで入隊させたあの駄目兵士となればなおのことだろう。

 会議も3日となってきたときにある侍従が一言漏らしたのが始まりになった。

「それぞれのメンツを汚される勲章以外ならばいいんですよね」と言ってきたのだ。

 会議に参加していたメンバーは、最初は何のことかわからずに、それでもメンツが汚されなければ反対する理由が無いので、渋々ながら全員が了解をしたのだ。

 すると、先の侍従はとんでもない事を言ってきた。

「メンツを守るならば、彼の功績をまとめて一つにして叙勲すればどうでしょう」と言ってきたのだ。

 では、どうするかと言うと、軍に関係のない勲章、例えば殿下が用意しているような帝室が独自に出す勲章なれば問題はないはずだと。

 しかし、帝室が独自に出す勲章は勲3等より下はない。

 それに、すでに殿下は勲3等の叙勲を決めているのだ。

 なれば、功績を合わせると勲3等では割が合わなくなるので、色々と協議した結果、基地造営やら鎮守府での働きや海軍の新基地造営の援助やらを鑑み、また、新作戦大綱の中心にある補給港に関する提言も合わせて最もふさわしいと思われるのが今回の叙勲に繋がった「勲1等 帝国マイスター十字勲章」だったのだ。

 勲1等の叙勲を得るくらいの働きをしたのだから当然それに報いるくらいの職責にとの話もあったのだが、これほどの功績なれば一挙に少佐位にまで昇進させるとの声も一部にはあったが、これはさすがに軍部全体の反対もあり1階級の昇進に留まったわけだ。

 なので、今回の男爵位の授与で我慢してくれと優しく言ってきたので、俺は一も二もなく頷き、本当に今回はご面倒をおかけして申し訳ないと土下座をする勢いで頭を下げた。

 さすがに公爵閣下は笑っておられたが、本当にどうなっているんだか……

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