第132話 勲章の持つ意味

 ザワザワ…ザワザワ

 俺の叙勲を伝えたとたんに鳳凰の間がざわついた。

 陛下のいる前でのこのざわつきはさすがにまずいのだが、それでも収まらない。

「勲一等だと…」

「誰だ、あいつは…」

「平民の叙勲などありえない…」

 等々、色々と聞こえてくるが全て俺にとってはあずかり知らない内容なのだが、俺に悪意を向けるのは勘弁してくれ。

 助けを求めようにも、アプリコットは顔面蒼白して固まっており、今日は使い物になりそうにない。

 されば上司にと、将軍に昇進したばかりのサクラ閣下を見たが、ハトが豆鉄砲を食らった様な、それもこれ以上にないくらいの完璧さを持って、呆然としている。

 サクラ閣下付きの副官の連中も推して知るべしといった状態だ。

 さすがに陛下を前にしてのこの失態には、侍従長も我慢できずに大声で叱責の言葉を吐いた。

「お静かに。仮にも帝国を代表される方々の在り方ではありません。陛下の御前であることを忘れずに願います」とかなりのお怒りのご様子だが、陛下も殿下もこの騒ぎは予想されていたのか平然としておられた。

 俺か、俺はただ単に勲章のありがたみが分からずにいただけだ。

 既に陛下の御前に呼ばれた段階で驚きは終わっていたので、なぜか平常心に戻っていたので、冷静でいられた。

 もっとも後で勲章の持つ意味を丁寧に教わったときに俺一人固まったのだが、これは別の話だ。

 その後、ざわつきが小さくなったところで叙勲の運びとなった。

 あれほど侍従長に叱られたのにもかかわらずに静寂にならないくらいのインパクトが俺の叙勲にあった。

 陛下より勲章を賜った後にこの場の集まりは解散となった。

 多分今日一杯は使い物にならないアプリコットは健気にも俺の副官として俺についてきた。

 で、俺はと言うと、今朝から面倒を見て貰っている皇太子府の職員に連れられて、人事院の貴族人事局に連れられて行った。

 そこの向かう途中で、俺の疑問に府の職員が丁寧に答えてくれた。

 そもそも帝国における勲章とは勲9等から勲1等までの9段階に分かれており、通常ではどんなに頑張ってもせいぜい勲7等までの叙勲で一生を終えるのだそうだ。

 ほとんどの人は勲章には縁のない生活で最低の9等でも貰えればすごいの一言なのだが、そんな貴重な叙勲対象者になるには、ほとんどすべてと言って良いくらいに軍関係での英雄的な働きによるものだそうだ。

 それ以外にはまず考えられない事で、もらえても最低の勲9等どまりがやっとのことだそうだ。

 サクラ閣下のように帝国の英雄ともなれば、上のランクの叙勲はあり得るが、それでも勲7等でも貰えればものすごい快挙だそうだ。

 ちなみに勲7等の快挙がどのような事で評価されるかと言うと、敵である共和国の士官それも佐官以上の著名な人物をおおよそ考えられる最低の人数で捕虜にでもしないと評価はされないそうで、まずそんなことはありえないことだそうだ。

 だいたい今まで敵を捕虜にできたときでも戦闘で敵の降伏があってのことで、その場合には戦闘の指揮官は一定の評価はされるが、叙勲にまでは至らない。

 職責の範囲での結果でしかないので、ある程度の昇進には評価対象となるが、まず叙勲はされない。

 しかし、俺らがつい先ほど方面軍総局の局長室で貰った勲章は、上記の事が評価されてのことだと後で説明があった。

 本来ならば、捕虜を引き渡したときにでも叙勲されなければならないところではあったが、俺の時にはなされていない。

 その理由が、その場に勲章を授ける資格のある人が居なかったためで、その資格とは将軍以上の者しか勲章の授与の資格はないのだそうで、所属の一番偉いさんが大佐であった為に俺が叙勲されなかったのだという。

 なので、俺がいかなる理由があれども帝都に戻った際には自動的に叙勲されなければならなかったのだ。

 しかし、その後の陛下よりの叙勲は意味が異なるのだそうだ。

 貰った勲章が問題で、勲1等はまず平民たる俺はそう簡単にはもらえない物だそうだ。

 帝国建国以来でも勲1等の勲章の数は出ていない。

 平民が貰ったことはない事は無かったのだが、そのほとんどは建国時の功績によるもので、勲3等以上に対象を広げても、ここ十数年は出ていない。

 平民の授与となると建国のころまでさかのぼらないと記録が無いとかで、なので、叙勲の際の騒ぎになったのだ。

 では、勲3等以上がなぜ特別かと言うと、叙勲とともに与えられる副賞に身分の変化があるからなのだとか。

 勲3等では、平民は名誉騎士爵となり、責任と恩給は無いのだが、帝国内に置いて騎士爵と同等に遇されるのだそうだ。

 一代貴族や、伯爵以下の貴族の場合でもその爵位を一つ進められるので、貴族の方がこの叙勲を強く望んでいる。

 で、勲2等は、平民は名誉が取れて騎士爵に叙せられ、名実ともに貴族となる。

 で、俺の貰った勲1等は準男爵に叙せられるのだそうなのだ。

 建国時には領地も貰い男爵に叙せられていたそうなのだが、色々とあって今は領地を持たない法衣貴族の準男爵となるそうなのだ。

 しかし、他に叙勲されるような栄誉に浴しているのならば、その爵位を一つ進め、法衣男爵となる。

 え、もう一つの勲章って、俺はさっき貰ったのだが、どういうことなのかな???

「なので、グラス様は、男爵に叙せられることになります。そのため、これから向かう人事院の貴族人事局で、貴族になられるための手続きを取ってもらう」との説明を受けた。

 さすがにこれを聞いた時には、今度は俺が固まった。

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