第129話 帝都での朝食

 今回の帝都への召喚は異例の連続だ………そうだ?。

 なぜ疑問形。

 それは、俺がこの世界に紛れ込んでから始めて飛行機での移動となるため、何が異例かどうかが分からないためだ。

 最初に乗ったのも飛行機だったのではないかと異論を挿む人がいるようだが、あれを飛行機での移動とするならば世の中の航空会社の方に謝らないといけない。

 なぜならば、そもそもこの世界で飛行機に乗った記憶があるのがあの墜落寸前の飛行機の中だけで、いわばあれが初飛行となるが、あれを飛行機での移動とするには、俺は断固として反対する。

 そもそも、俺があの飛行機に乗り込んだ記憶がない。

 気がついたら機長の非常事態を告げる声だ。

 それで、地上に降りるのがジャングル内に不時着だなんて、だれがどう見ても飛行機で移動したなんて言えないだろう。

 飛行機で事故にあったと言うならば分かるが、移動とは言えない、いや、言いたくはない。

 なので、今回の帝都への召喚で、輸送機に乗っての移動が俺の初飛行となる訳なので、最初に言った異例がどんなものかは全く見当がつかない。

 では、なぜ異例と分かるかと言うと、隣にいるアプリコットが、出発前の待合室から非難がましく俺に言ってくる。

「なぜ、旅団長と一緒の移動なのか」と、俺の感覚からすると現場主任クラスが本社に呼び出され、支社長と飛行機のファーストクラスに乗せられての移動と同じくらいの違和感があった。

 でだ、最大の違和感はと言うと、帝都について最初に訪れた。

 輸送機が駐機場に着いたら、そこには黒塗りのリムジンが待機しており、それらしき人が扉を開けて歓迎していてくれた。

 大佐であるサクラ旅団長の迎えならば俺は関係無いとばかりに飛行場建屋の中に入ろうとしたら、空港職員に呼び止められ、そのリムジンにサクラ大佐と一緒に、飛行場傍にある皇太子府にまで連れていかれた。

 ちょっと待て、なぜ皇太子府なのだ。

 俺は、自覚はないが軍人だ。

 少なくとも、政府役人になった覚えはない。

 それがリムジンに乗せられて、皇太子府にまで連れてこられる理由が分からない。

 これにはサクラ大佐も驚いていたようだ。

 で、俺はとても居心地の悪い状態を我慢しながらサクラ大佐に続いて、皇太子府の中にあるダイニングルームにまでやってきた。

 ここで朝食をごちそうになるそうだ。

 隣のアプリコットは青い顔をして動かない。

 お~~い大丈夫か?生きているか?

 お~し、生きているようだ。

 それにしてもサクラ大佐はさすがに毅然としているし、マーガレット副官にも余裕がある。

 こういったケースに慣れているのかな。軍人として仕官したならばこういったケースは稀にあるのかもしれないが、まだ新任と言って良いくらいのアプリコットには、緊張を強いられるのだと勝手に思っている。

 この二人は以前に同様の歓迎を受けていたので、2回目の余裕なだけで、最初はアプリコットと同じ反応を示していたのだ。

 後で分かったことだが、マーガレット副官はアプリコットの緊張した姿にかつての自分を見ているようで暖かな気持ちで見ていたそうだ。

 俺たちの緊張はまだまだ続き、なんと、ごく普通の下級士官に皇太子殿下が接見してくれ、一緒に会食する栄誉まで与えられたのだ。

 アプリコットはまだいい、貴族出身で、流石に殿下とはいかないまでも、こういった形での会食は教育されているのだろう。

 でも、バリバリの庶民たる俺には礼儀作法など全く知らない。

 この世界の俺は孤児院出身の下級市民で、会食その物に縁がない。

 辛うじてもう一方の記憶がある大卒の俺は、卒業前にテーブルマナーの講座を受けており、知識はあるが、そのマナーがここでも通じるとは限らない。

 あの日本では、貴族はおらず、皇室がおられるだけだ。

 同じ皇室だからいいじゃないかだって……ふざけるなよ。

 皇室との会食の経験がある人なんてどれだけいるんだよ。

 多くの方を招かれるケースなどでは園遊会として、テーブルマナーの必要が無いようになっているし、その園遊会にもほとんどの日本人は出席できない。

 がちがちに緊張している俺ら二人に対して、なんと殿下がお声を掛けて下された。

「そんなに緊張しなくともいいぞ。そもそも、プライベートな会食だ。普通にしてくれ」

「ありがとうございます。慣れない席で、粗相をしないよう致します」と俺が辛うじて返答を返した。

 いつもは俺の欠点をフォローしてくれる超完璧人間のアプリコットは、今日は使いものになりそうにない。

「粗相など気にするな。帝国の新たな英雄に対して、何も取って食おうなどとは思ってはいない」と殿下が何やら気になる言葉を残しながら気さくに声を掛けてくれた。

「アプリコット准尉ももう少し自信を持ってもいいんですよ。あなたも英雄のお仲間の一人なのですから、力を抜いて、せっかくの朝食を楽しみましょう」と殿下付きの侍従頭であるフェルマン氏がアプリコットを気遣うように声を掛けてきた。

 さすがに帝都にある皇太子府だ。

 周りを見れば大物ばかりで、明らかに俺は場違いなのだが、先ほどから出てくる俺には全くの縁のないセリフである『英雄』って何の事だろう。

 どうせ、気にしても解らないのだから、今目の前にある豪勢な朝食を楽しもう。

 この先、絶対にお目にかかることなど無いのだから、せめてこの瞬間だけでも楽しもうと、アプリコットに声を掛けみんなと朝食を楽しんだ。

 緊張だけはとれなかったけれど、朝食はとてもおいしかった。

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