第128話 機内の様子
新型の輸送機『北斗』の中はかつて乗ったこともある『ゴルドバ』とは違い乗り心地においては申し分ないくらいに快適にできている。
先の『ゴルドバ』では考えられないことにこの新型輸送機の中では飲み物だけではなく軽食が、それも暖かな軽食が食べられる。
信じられますか、軍配給の携帯非常食じゃなく、きちんとした料理の軽食がそれも椅子についている机に置いて、まるで帝都のレストランでの食事のように食べられるのだ。
それに、椅子をリクライニングすることで体を横にして仮眠すら取れる、まさに至れり尽くせりの機内である。
本来ならば、快適極まりない空の旅で帝都まで数時間過ごせるはずだったのだ。
しかし、通信機関士の言う通りに快適な空の旅かと言うと、いささか事情が異なってくる。
これは、輸送機の問題ではなく、俺個人?に起因する問題であるためにどこにも苦情を言えるものではない。
なので、俺に苦情を言うのをやめてくれないかと俺のかわいい副官であるアプリコットを見直してしまう。
さっきからしきりにこの場の空気をどうにかしてくれとせがんでくる。
俺にどうせいと言うのだ。
確かに俺はサクラ旅団長に嫌われているようだ。
しかし、何故嫌われているのかが分からないから始末に負えない。
俺は立派な?社会人だ。
いくら上司に嫌われているようだとしても仕事は手を抜かない。
今までだって、手を抜かず、旅団長たちの無理難題すら片してきたと自負している。
それも愚痴一つ言わずにだ。
どうだ立派なものだろう。
だから睨むなよ、俺にしたってどうすることもできないのだから。
そう、今この狭い機内の中で、俺たちは固まって座っている。
サクラ旅団長の両隣は彼女の副官たちが詰めているが、そのすぐそばに俺とアプリコットが座っていて、サクラ旅団長の醸し出す不機嫌光線を全身に浴びているのだ。
だからなのか、マーガレット副官なんかあからさまに俺をにらんでくる。
唯一の救いは海軍出身のクリリン大尉は理由が分からないようで困惑しているようだ。
俺だって理由を知りたいよ。
そんな状況の中、輸送機クルーのクランシー機長とオーレン機関通信士の二人が客室?にまで入ってきて待合室での口約束通り挨拶にやってきた。
「少尉はこの輸送機は初めてでしたね。どうですか、快適でしょう」
「クランシー機長、先ほどお聞きした以上の内装の充実ぶりには驚いております。もっともあの『ゴルドバ』と比べる方がどうかしていますが、あいにく私はあれが飛行機に乗った初めての機会なので、本日がまだ2回目なのです。なので、他の一般的な旅客機の中がどうなっているか知らないので、機長の求めるような感想を持てるか心配なのですが」
「え、少尉のような優秀な軍人さんが、飛行機に乗ったのがまだ2回目だというのが驚きです」とクランシー機長の発した優秀と言う言葉にサクラ旅団長とマーガレット副官が反応を示し、顔をひきつらせた。
それを見たのか俺の副官も苦笑いを浮かべた。
「優秀だなんてとんでもない。知っての通り、俺は素人軍人なので軍の常識からちょくちょくはずれて周りから顰蹙を買ってばかりなのです。それに、軍に入る前はしがない修理工だったので、値の張る飛行機は乗れなかったので、軍に入ってからあの輸送機が初めてだったのです。でも、この輸送機がとんでもなくすごいことは分かりました」
「あら、この輸送機は内装だけがすごいのではなく、輸送機の飛行機としての性能がぴか一ですのよ。なので、今も敵戦闘機すら上がれることもできない高高度を、多分、今の世界では一番の速度で飛んでいますので、あの『ゴルドバ』からは考えられないくらいの短い時間で帝都に到着しますのよ。なので、短い機内の旅を楽しんでくださいね、少尉殿」
「少尉、長く話し込んで申し訳ありませんでした。さすがに危険がほとんどない水平飛行中ですが、そろそろ機長も私も持ち場に戻りませんとまずいので、これくらいで失礼します。あと4時間ほどで帝都に着きますので、それまでごゆっくり」と言ってクルーは持ち場に戻っていった。
彼女たちの訪問で、少しは周りの空気が改善したが、それにしても優秀と言う言葉であそこまであからさまに反応を示さなくても良さそうなもの、たかが社交辞令に反応しすぎです。
俺だって分かっているのですから。
そこまで嫌っているのなら、いっそのこと俺を帝都に置いて行ってほしいのだが、何でも人事権は旅団長には無いそうで、それは期待薄だそうだ。
でも、空気が改善したことで俺は一つの成果を得た。
機内の空気の原因が俺だというのは変わらないが、その本質が見えてきた。
何でも旅団上層部では、今回の俺の帝都召喚の理由が全く見えないためにかなり不安視しているのだとか、それもあってサクラ旅団長がまた俺が何か仕出かさないか、もしくは自分たちが知らないところで既に何か仕出かしたのを帝都では掴んでその対応かもしれないと、心配しているのだそうだ。
で、何をしでかしたのかと、ここまで親切に教えてくれたクリリン大尉が聞いてきた。
そんなの俺が知るかって大声で主張したかったのだが、大人の俺は静かに全く心当たりがありませんとだけ答えておいた。
全く信じては貰えなかったが。
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