第127話 懐かしい人たちとの再会
俺は、ほとんどゆっくりする暇も与えられずに第27場外発着場に連れてこられた。
本当に、この基地にいる連中には計画性というものがないのか。
いつもいつも思いつきのように仕事を与えてくる。
それも、決まって時間的猶予を与えられずにだ。
仕事というのは、段取り八分と言って…ブツブツ
と影で愚痴をこぼしているのを聞こえているはずのアプリコットはいつのもように簡単にスルーして、「少尉、お客様です。以前ご一緒した機長ですよ」
「お久しぶりです、少尉殿。その節は大変にお世話になりました」
「あ、確かクランシー機長ですよね。お久しぶりです。お元気そうでなによりですね。でも、まだここのルートを飛んでいたとは驚きです。あれほど酷い目にあったのに、私と違ってあなたならどこでも引っ張りだこではないですか」
「少尉、それは買いかぶりですよ。確かにあの後色々と面倒事に会いましたが、それでも、素晴らしい出会いにも恵まれまして、今では皇太子府直属の飛行クルーとして、チーム全員を召抱えてもらっております。あの時の関係者の方には今でも感謝してもしきれない気持ちでいっぱいなのです。その中に、少尉のチームの皆様も入っております。あの事件は私たちにとって幸運へのターニングポイントなのです。そのおかげで、今では帝国一番の輸送機の機長をしているのですから。これから直ぐに帝都に向かいますね。前のゴルドバとは雲泥の違いですよ、あ、ゴルドバというのはあの墜落した輸送機の種類なのですが、それとは性能面で格段に違いますよ、これから乗る北斗は、多分、今の段階ではこの世界で一番の性能を誇っているものだと思っております。乗り心地も下手な旅客機よりも格段に良いですが、何より、その高速性は、敵の戦闘機ですら追いつけないくらいなのですから。期待していてください」
あんたは旅行会社の営業かというくらいのセールストークをしてくる機長を後からやってきたオウレイ機関通信士に嗜められた。
「少尉、その節はお世話になりました。ゆっくりお話したいところではありますが、仕事が立て込んでおりますので失礼して、そこで調子こいている機長をお借りします。旅団長閣下がそろそろお怒りになりそうなので、輸送機を発進させる準備に入らないといけませんので、上空に上がればいくらでも時間が取れますから、その時にでも改めてご挨拶に伺います。で、機長、他の者は準備が終わりましたよ。後はあなただけです。なので、さっさと仕事をしてください」と言って、機関通信士が機長の手を無理やり取って輸送機の方に引きずるように連れて行った。
その様子を見ていた俺とアプリコットが顔を見合わせ、呆れていたら、アプリコットが独り言のように呟いた。
「どこにでもいるのですね、報われない補佐役って…」
それ、もしかしなくとも俺に対する当てつけか。
確かにあのテンションの機長はどうかとは思うけど、でも、あの時のクルーは全員が一流のプロの仕事をしていたことは覚えている。
特にあの機関通信士はしっかりしていたことを思い出した。
「割れ鍋に綴じ蓋ではないが、うまい具合にハマリ役の性格の人がいるもんだ。なので、あのクルーは一流の仕事をしてこれたのだろう。機長の性格は色々と残念なところがあるようだが、それでも超が付く位の優秀さを持っている。俺にはないものだがな。は~~~~、今回の帝都行で、お役御免にならないかな~。本当に軍において俺なんて使い物にはならないはずなんだけれどもな。で、アプリコットは何か聞いているのか、今回の帝都行きについては?」
「レイラ中佐の言われるとおり少尉の叙勲だけじゃないですかね。少なくとも、少尉のお役御免はありませんね。法律が許しませんから」
「それもそうか、帝都にある軍の学校で聞かされたな。ま~なるようにしかならないから諦めている処もあるからいいけれどもな。そうなるとアプリコットもとんだ貧乏くじだな。少なくとも俺とつるんでいる限り、戦闘での活躍はありえないから、出世が遅くなりそうだしな。悪いが諦めてくれ。どうなるかわからないけれども、しばらくは付き合ってもらうしかないからな。よろしく頼むわ」
機長のあの軽いノリに釣られたのか、俺もアプリコットに軽口を叩いていたら、また、彼女が小声で呟くのが聞こえた。
「とっくに諦めておりますわ。出世どころか私にも叙勲って、少尉についていると私の常識がおかしくなりますのが心配なだけですから」
彼女のつぶやきにはコメントのしようがないので黙っていたが、俺から言わせると軍の常識の方がおかしいとは思うのだけれど、これを口にすると、周りから叩かれるので大人の俺は空気を読んでいつも黙っている。
そうこうしているうちに輸送機の準備が出来たようで、クルーが迎えに来た。
彼女は確か航法担当していたキャロットさんだったけかな。
本当にあの時のクルーがまるまる移動したようだ。
帝都まで素直にお世話になろうと、俺は彼女に連れられるまま、輸送機北斗に入っていった。
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