帝都の争乱再び
第126話 帝都への召喚
俺らは、理由の判らない帰還命令を受け、2週間ぶりに基地に帰ってきた。
基地は出発前と大きく印象を別にしていた。
俺はそれを見て、「ん??、なんか変わったね」なんて感想を漏らしていたら、メーリカさんがボソッと
「ほとんど完成したみたいですね。サカキ中佐のところが頑張っていた新司令部は。いつ頃引っ越すのでしょうかね。引っ越しには私たちも駆り出されそうですね」
何てタイムリーな独り言なのでしょう。
俺の疑問が一発で解けました。
煉瓦で作っていた新司令部がほぼ外観上は完成していたので、基地の印象がほとんど廃墟から重みのある風格が出てきていたので、印象ががらりと変わってしまったと理解した。
「何でも屋の俺らの仕事だろうな、引っ越し作業は。せいぜい、怪我のないようにな。呼び戻されたのも、案外それかもしれないしな」
「え~~~、わざわざ外に出ている部隊を戻さなくても引っ越し位できるでしょうに。隊長は本当に司令部からどう思われているか心配になりますよ」と、運転をしていた旧山猫の兵士は軽口を叩いてきた。
「分かっているだろう、俺はしょせん何でも屋なのさ。でも俺は外でドンパチするより引っ越しの方が断然好きだけれどもな。古い司令部につけてくれ、引っ越しの業務を受注してくるからな。さ、営業に行こうかね、マーリンさん」と話をアプリコットに振ってみたが、まじめで優秀な俺の副官はそっけなく答えてきた。
「わざわざ引っ越しのためになんか呼ばれませんよ。遊んでないで、しっかり報告しに行きますからね。もう、余計なことで絞られるのは隊長だけにしてくださいね」と言うのを聞いていたジーナも『うんうん』と大きく頷いてきた。
この二人は、俺の事で酷い目にあったとまだ恨んでいるのか。
絶対に前の尋問は俺のせいじゃないはずだ。
あれはレイラ中佐が勝手に暴走しただけだからな。
と心の中で叫んでみたが、絶対にこの二人には受け入れて貰えそうになく、かえって拗らせそうだから、俺は黙っていたよ。
俺は優しい中間管理職だからな。
そうこうしているうちに車は司令部前に到着した。
「マーリンさんとジーナさんは付いてきてくれ。後は片して解散だ。なので、後のことを頼みます、メーリカさん」
「はい、判りました。ほら、車を倉庫前まで持っていくよ。それじゃ~、隊長も頑張ってください」と言い残して車を片しに行ってしまった。
俺は、渋い顔をしている二人を連れて、司令部に出頭した。
俺の顔を見たサクラ旅団長はすかさず顔をしかめて憎まれ口を叩いてきた。
「やっと帰って来たのね。帰還命令を出してからどれくらい待たせるのよ」と、ちょっと待ってくれ。
決して急いで帰れとは命じられていなかったよな。
それでも、命令から2日で帰って来たのに、どういうつもりなんだか。
俺は後ろに控えているアプリコットに「急いで帰れとは命じられていなかったよな?」と小声で聞いてみたが、私に聞かないでと睨まれた。
「ブル、軽口叩いているほど時間は無いわよ。本題に入ってくれないかしら」と、レイラ中佐が無理やり本題に戻してきたが、何だか嫌な予感しかない。
雰囲気的に絶対に引っ越しなどではないな。
またぞろ厄介ごとだな。
どうしようとアプリコットに救いを求めて顔を向けたが目をそらされた。
隣のジーナにも顔を向けたが、こちらは厄介ごとの予感に顔を青くしていた。
サクラ旅団長はレイラ中佐の諫言を聞いてと言うよりも、時計を見て時間が迫っているのを理解してすぐさま仕事モードで俺に命じてきた。
「グラス少尉、貴官には帝都より一時の召喚命令が出されております。本日の夕刻の便で私と一緒に帝都まで行ってもらいます」
「へ??召喚命令…ですか?ひょっとして俺は首ですか。やっと軍から解放されるとか…」
レイラ中佐があきれ顔して言ってきた。
「そんな訳あるはずないでしょ。あなたを簡単に首にできるくらいならブルや私がとっくにしているわよ。どうやら叙勲らしいわよ。なぜだか詳細は伝わってきていないから解らないけれど、渡す勲章で揉めているそうよ」
「叙勲??いったいなぜ?」
俺の発言にここにいた全員が呆れて、レイラ中佐がヤレヤレと云った顔をしながら説明してくれた。
「あなた、以前に捕虜を連れてきたわよね。それも佐官クラスで、通常ならばそれだけでも叙勲対象になるわよ。それが、共和国の若き英雄ともなればなおの事よ。本来ならば所属長の将官から叙勲されるほどなの。だけれど、あいにくここには勲章を出す資格を有する将官がいなかったでしょ。それに、あなたを連れて、どこか将官の元に行ける状態じゃなかったのよね、ここは。それ以外にも色々とあなたは仕出かしてくれるから、それらが叙勲対象理由になったのかしらね。どちらにしても、私たちには詳細が分からず、帝都の軍上層部からの命令しか聞かされていないわよ。明日にはわかるからそれまで我慢しなさい」
すると今度はサクラ旅団長が教えてくた。
「そうそう、アプリコット准尉、あなたにも勲章が出されているわ。帝国軍人8等級栄誉章が出されるそうよ」
「なぜ私までが叙勲の対象なのですか?」と思わずアプリコットは声に出して聞いてしまった。
サクラ旅団長が続けて話を始めた。
「本当は少尉の叙勲関係は全く情報が無いのよ。だけれど、アプリコット准尉の叙勲理由が少尉を補佐し、偉業を助けたことに出されるそうだから、当然少尉も叙勲対象だと我々は睨んでいたのよ。なので、もしかしたら少尉の叙勲は無いかもしれないからね。叙勲はアプリコット准尉の理由からの推測だから、でも、たぶん外れないわよ」と言われ、驚いてアプリコットを見たら、彼女は泡食った顔をして慌てて意見を言い出した。
日頃の彼女からは信じられない行為だが、それほどびっくりしていたのだろう。
「旅団長閣下、お聞きしても構わないでしょうか?」と、まだ納得ができないアプリコットは旅団長に聞いていた。
「閣下は止めて頂戴、で、何が聞きたいの」
「失礼しました。で、叙勲の件ですが、任官して1年もたたない准尉が叙勲されるなんて聞いたことがありません。それに、叙勲理由も変です。確かに少尉は色々仕出かしましたが、それの共犯としての叙勲なんて聞いたことがありませんし、8等級と言うのも信じられません。仮に、叙勲対象だとしても最低の9等級でも有り得ないのに、何故なのですか」
ちょっと待とうか、マーリンさん。
落ち着いてみよう。
君、いくら驚いているからと言って、ちょっと酷くはないですか。
どこの世界に共犯に対して叙勲する国があるんだよ。
そもそも共犯って何、少なくとも俺は犯罪者じゃないからね。
ほれ見ろ、サクラ旅団長もレイラ中佐も呆れているぞ、これはさすがに叱られるだろう。
いつも君が俺に言っている軍秩序だとか何だかで。
「准尉の言わんとしていることは分かっています。私たちも納得がいかないのだけれど、グラス少尉はなぜだか、他の部署からはすこぶる評判が良いみたいなのよ。特に海軍関係者からの評判は群を抜いているそうよ。先の帝都での騒乱で、海軍関係者が矛を収めた遠因の一つに彼の名前があったくらいだからね。それに安心していいわよ。私たちはあなたたちが共犯者だとは思ってはいませんから。もう少ししっかり手綱を持ってもらえると嬉しいのだけれど、少なくともあなた達の苦労は分かるつもりだからね」と優しくアプリコットをサクラ旅団長が慰撫し始めた。
アプリコットは目に涙を浮かべ、やっと苦労を分かち合える上司に巡り合えたかのような表情を浮かべ感激していた。
オイオイ、そこまで俺の扱いは酷いのか。
俺はきちんと言われた仕事はしていたぞ。
解ってはいたけれどもね。
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