第125話 帰還命令
「隊長、調査はほぼ終了しました」と後からここにやってきたジーナが報告をしてきた。
「なにか分かったことはありか?」
するとメーリカさんが答えてくれた。
「なに、大したことは分からなかったよ。調査前の予想通りの結果が証明されただけだった。部隊規模も絞り込めなかったが、多くとも中隊規模までだね。それ以上は此処に駐屯していなかった。もっとも、移動だけなら連隊だった可能性は否定できなかったけれど、それはまずないね」
「ん??、なんでそう言い切れるの?」
「隊長、私がここにきて最初に言った言葉を覚えていますか?」
「ん?、残酷な仕打ちができる部隊の仕業っていうこと?それが何か?」
「それそれ、これほど残酷なことができるのは、帝国では精神がいかれた犯罪者位だね。それは、多分、共和国も一緒だよ。でも、唯一例外があって、これほどの事も平然と行えるというより、楽しみにすらしている部隊があるんだよ」
「それ、メーリカさんが前に言っていた大統領直轄の…え~となんだっけ?」
「『特別巡回督戦隊』ですよ。それも、その中でも最悪の部隊だったという証拠が出てきました」
「何か見つかったの?」
「折れたナイフが一つ見つかった。それが、問題でね、このナイフは共和国大統領が自ら配下の特別巡回督戦隊に渡すものだけれど、そこに記されているマークが最悪だった。『コルセア』の者だったんだ。正直会いたくない連中だよ。もし鉢合わせなってなったら、間違えなく奴らを殲滅しなければ、自分たちが最悪の形で命を落とす事に成る、そんな連中だ」
「『コルセア』???、海賊って事?確かコルセアって国に認められた海賊だったよね。……そ~か、大統領に身分保障がされているってことなの?」
久しぶりに俺の無知をさらしてしまったが、アプリコットはさすがに慣れた様子で、やさしく解説してくれた。
「少尉、この共和国の『コルセア』と言う部隊は、共和国最悪の部隊と言われ、もしかしたら共和国大統領すら持て余しているのかもしれません」
「どういうことなの?」
「共和国は、独裁を長く続けてきておりますが、その権力基盤は恐怖政治にあり、その恐怖政治を直接指導しているのが大統領直属の政治部で、その手足として働いているのが、先ほど出ました『特別巡回督戦隊』なのです。彼らは、ほぼ全ての機関に入り、行動を監視しております。その恐怖で」
「ん???」
「つまり、拷問だとか残忍な形での殺人などで、恐怖を与えてきております。四六時中そんな仕事ばかりをしていれば、精神が完全に壊れる連中も出てきます。下手をすると暴走しかねない連中を大統領は一つの部隊にまとめて、前線に送り出してきます。連中に好きな殺人を楽しんで来いと。なので、共和国としては彼らに戦果は期待してはおりません。彼らが、共和国に牙を向けないように好きなことをしても問題の出にくい前線などで好きに殺人をさせております。中でも、その上からの指示が効きにくい連中が『コルセア』と言われております。多分、彼らの存在そのものが共和国内でも問題になり始めてきているのでしょう。なので、前線からも遠いジャングルに送られたのだと思います。だから、彼らは、ほかの共和国の部隊とは一緒に行動は取りません、というか取れません。自分たち以外の人間は殺人の対象ですから、同じ共和国軍人といえども彼らにとっては獲物でしかないのです。彼らにとっては、我々帝国軍人よりも共和国軍人の方が獲物としての価値があるのかもしれません。彼らの存在意義が共和国に恐怖を与えることなのだから。どちらにしても、メーリカ准尉がおっしゃったように彼らに遭遇したら、迷わず殲滅します。これは帝国軍人として常識の範疇です」
「ありがたくない連中ってことね。あ~そうか。だから、多くても中隊規模だと言えるのか。共和国の正規軍とは行動を共にできないのだから。納得したよ。ありがとう、メーリカさん、マーリンさん」
今までの俺とマーリンさんメーリカさんとの会話を聞いていたジーナが俺に、指示を求めてきた。
「隊長、ここでの調査報告を基地に上げたいのですが。『コルセア』の形跡の発見も合わせて報告を出します」
「あ、分かった。今は少しでも情報が欲しい時期だ。確実な情報があれば余さず上に報告する。うん、サラリーマンの鉄則だな。ジーナさん、本部のレイラさん宛てに報告を上げておいてくれ。それ以外は此処で小休止を取ろう。メーリカさん、頼むわ」
「「分かりました」」
と言って二人はそれぞれに散っていった。
その後は、各分隊単位でまとまって小休止を取っていた。
本部組もサリーが休んでいる隊員にお茶を入れてくれた。
そのサリーが入れてくれたお茶をゆっくり楽しんでいると、先ほどまで基地を交信をしていたジーナが俺の元に戻ってきて、報告を入れた。
「隊長、直接レイラ中佐に報告を入れました。その際に、新たな司令を受けましたので報告します。我々に対して、現地ローカルの調査を一時中断し、可及的速やかに帰還を命じます。ということです。どうしますか」
「そんなの決まっている。上からの指示は逆らえないよ。休憩が終わったらここを片してすぐにおうちに帰るよ。マーリンさん、ジーナさん宜しく」
アプリコットが俺のやる気のない対応にいつものように呆れて、返事を返してきた。
本当にまじめな子だね。
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