第124話 ご遺体の埋葬
「メーリカさん、悪いけど証拠となる写真をすぐに撮ってくれ。できればベテランに任せて」
「ハイ、分かりました」と言って、メーリカさんは昔の仲間数人にカメラを持たせ写真を撮りに行かせた。
「お~い、新兵は集まってくれ」
俺はその場で呆然としている新兵を集めた。
「君たちがきついのは良く分かる。こんな場面に出くわしたら誰だって同じようになるだろう。帝国で一番優秀と思われていた山猫のベテラン兵士たちだってきついのは変わらない。しかし、これの処理は誰かがやらなければならないのだ。その誰かとは、この場にいる我々だ。きついからといって逃げ出すわけにはいかないのだ。我々にできることは、二度とこのような悲劇の起こらないように元凶を叩くことだ。多分、これの犯人は共和国のある特殊な部隊だろう。共和国民全員がこのような残忍なことができるわけではないのだ。このような残忍な行為ができるのは、共和国に所属するごく一部の部隊だけだそうだ。なので我々は、今後徹底的にこれらの行為をした部隊を殲滅していく。まずは、目の前の犠牲になられた人たちの処理を行う。丁寧に村はずれに穴を掘って埋葬していく。後は各々、分隊長の指示に従ってくれ。メーリカさん、後を頼む」
すぐにメーリカさんは連れてきたふたりの分隊長を呼び指示を出していった。
新兵はやっとその目に生気を取り戻し、分隊長の指示に従って散らばっていった。
俺の周りには無線を抱えた兵士とメーリカさんだけになった。
「隊長、素敵でしたよ。さっきの演説」
「よしてくれ、さっきのは、新兵に託けて《かこつけて》俺自身に言い聞かせていたのだから。でないと、一目散に逃げ出していたよ。それにしても酷いものだ。同じ人間の所業だとは思えない」
「そうですね、以前隊長が服をひん剥いた共和国の士官からは考えられませんよ。彼女たちには全く狂気を感じませんでしたから。多分、多くの共和国の人民は自分たちの兵士たちの行った狂気の所業は知らされていないのでしょうね。一応、名目とは言え選挙がまだあるそうですから。あまりの無茶は知らされたくはないのでしょうし」
「あの時にも苦手な遺体はあったが、俺でも処理はできた。もっとも、多くを君たちにお願いをしていたが……今回は、偉そうな演説のあとで申し訳ないが、俺にはできないよ。つくづく俺の階級が一番上だったのを感謝したよ。もっとも、俺は軍人にはなりたくはなかったし、その素養も全く無いのだが……情けない限りだ。新兵を含め君たちには尊敬の念すら覚えるよ。……でも、服をひん剥いたなんて人聞きの悪い。正当な行為だったんだから、もう勘弁してくれ」
「はいはい、分かりました。どうやら、写真の撮影だけは終わったようですね。ご遺体の処理も、さほど時間はかからなそうですよ」
「では、残りを呼ぶとするか。無線で呼び出してもここの場所が分かりにくいか……どうしよう。バイクを一台、迎えに行かせるか。手配を頼む」
「はい、分かりました隊長。すぐに向かわせます」と言って、メーリカさんはここを離れ、兵士たちが溜まっている方へ歩いて行った。
もともとの大きな村ではなかったのと、村人全員が犠牲になったわけじゃなさそうだったので、ご遺体の埋葬は1時間もかからずに終わった。
兵士たちが休んでいると、バイクが迎えに行った残りの部隊が到着した。
車が止まるとすぐにサリーが車から降りてきて、俺の方へ走ってきた。
顔は諦めたようななんだか悲しそうな顔をしていた。
「私が最後にいたのはこの村でした。でも、私の生まれた村ではありません」
「どういうことだ」
「姉が所属している兵士たちが連絡と調査のためにここに来ました。ここに着くとすぐに少し離れた村で戦闘が始まったと連絡を受け、姉は私をこの村の長に預けて部隊と一緒にここを離れました。姉はその部隊のリーダーをしています」
「なんでサリーは付いてきたの?」
「私は、姉の部隊の世話係りとして仲間数人と一緒に移動していました。仲間はここが襲われた時に、黒い制服の兵士たちに拐われました。私もその時に拐われましたが、川の氾濫した時に私だけ川に落ち流されて、その後のことはあまり覚えていません。気がついたときには隊長に助けられましたから」
最近、サリーもだいぶ落ち着いてきたのか、徐々にではあるが自身の生い立ちなどをこのように何かのきっかけがあれば話してくれるようになってきた。
でも、彼女たちを襲ったのが黒い制服の軍人とは……どういった部隊だろうか。
通常の軍人は俺が保護した彼女たちのようなジャングル迷彩服を着ているはずなのだが。
「あ~、それは多分、大統領直属の部隊です。奴らは、色々と特権を持っており、やたらとエリート風をふかして一般兵士たちと揉めているそうですよ。なので、我々が戦う時に彼らを対象にしています。連携など取れませんから、だいたい、そこから戦線が乱れます」
俺の会話を聞いていたメーリカさんが教えてくれた。
車が着いて簡単に村の見聞をしていたアプリコットが、やっと俺の前に来て、話を始めた。
「どうやら、この村が襲われたのが我々が墜落する少し前のようですね。付近にこびりついている血痕が完全に乾き、匂いすらなくなっています。先ほどのサリーの会話に出ていた特殊な部隊がここを襲ったのでしょう」
「できる限り調査をしてくれ。襲った部隊の特定と規模が知りたい。あと、直ぐに基地に連絡を入れてくれ。報告だけはしとかないとな」
「第一報は隊長が離れた時に入れておきました。あとは調査に進展があれば続報を入れましょう。なければ定時連絡まで不要かと思います」
「わかった、良い様にしておいてくれ。連絡不足で怒られるのだけは勘弁な」
「それは、私たちも一緒です。レイラ中佐との話し合いだけはしたくはありませんから」
どうやら、以前受けた尋問が完全にトラウマになってしまったようだ。
中佐も罪なことをしたものだな。
そのほかの兵士たちによって淡々と調査は続けられていった。
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