第122話 ジャングル探査に出発
以前に迷子を期待され夜間訓練に出された時のように、えらく中途半端な時間に、それも、追い出されるように基地を出発してから1週間が経った。
今回の我々に課された任務は目的地までのルート探索とは違って、エリア調査で、現地勢力とのファーストコンタクトである。
なので、丁寧にエリアを調査し、早急に現地勢力を見つける必要があった。
その為に、小隊本体の進むスピードは遅々たるもので、ほとんど動けていない。
しかし、その代わりにバイクは全台フル活動で、休みなく動き回っている。
また、各分隊長は配下の分隊を率いてジャングル内を歩兵にて調査に出ている。
これは、調査という名を借りた新兵の訓練である。
我々の小隊は、小隊としては異常に構成人数が多く、そのほとんどが新兵で構成されている。
しかし侮るなかれ、我々の新兵たちは、その技量はすでにそこらの工兵隊の技量を遥かに凌駕して、あのサカキ中佐すらも唸らせるレベルに達していた。
それもその筈で、配属されてからほぼ毎日何かしらの工事に駆り出されていたのだから、技量が上がるのは頷ける。
でも、我々は、工兵隊ではない。
本来は、攻撃を主体とする一般の兵士なのだ。
帝国一優秀といっても過言のないくらいであった『山猫』分隊の充分なる指導を毎日、それも、基地にあるアスレチックス……もとい、訓練施設で受けていたので、基礎体力と基本動作においては充分に兵士としてのレベルに達しているのだが、経験という観点では明らかに不足しており、いざ実践任務となると新兵の顔を見せてしまうのはやむを得ないことだろう。
そこも今回の任務でかなりの経験を積ませることが出来そうだ。
各分隊長たちも経験の習得にかなり貪欲で、機会があれば逃さずに分隊をジャングル内に投入させていた。
今も、経験豊富な第一分隊長のスティア軍曹が自身の分隊を率いて、新任のカリン准尉率いる第三分隊を連れてジャングル内を探索に出ている。
なので、俺の周りはかなり忙しく動き回っているが、俺とサリーだけが取り残された状態のように暇だったのだ。
最もサリーは隊の給食を担当しているのでそれなりに仕事がある。
なので、完全に暇人は目下のところ俺だけだ。
かれこれ一週間になるが今のところこれといった成果は出せていない。
なのに定時連絡で旅団司令部に連絡をいれると、なぜか一様にホッとした雰囲気が伝わってくる。
成果が出ていない事を叱責されるのも嬉しいことではないが、成果が出ていない事でなぜ司令部が安心するのだろう、そこのところが疑問になってアプリコットやジーナに聞いてみたのだが、なぜか苦笑いを浮かべ誤魔化されるのだ。
今のところ深く考えてはいけないことのようだ。
今までの成果としては、かなり前に通ったと思われる車列の跡が一つだった。
それも、途中のぬかるみなどで途切れ、車列の出発地点や目的地を特定するまでには至らなかった。
唯一言えることは、敵である共和国軍が一度はこのあたりまできたことがあるということだけだった。
そんなことはかつてサリーを保護した時に確認していることなので、成果になっていない。
今日も虚しくバイク隊からの成果なしの無線が入る。
俺は、アプリコットに、合図を送った。
「ここも、成果無しだ。そろそろ次に移動しよう」
「分かりました。分隊を呼び戻します。食事のあとに本隊を移動させます」
「敵との遭遇は避けたいが、徐々にではあるが敵勢力下に入ってくるので、充分に偵察をしないとな。俺は、敵と戦いたくはないからな。命令にも戦えと指示はなかったし、敵に遭遇しそうならば逃げるからな」
「少尉のお気持ちは理解しておりますが、簡単に『逃げる』などと口にしないで下さい。隊の士気に関わります」
また、俺がアプリコットに怒られた。
周囲の連中は顔を逸らして見なかったことにしているのがなんだか癪に障る。
お前ら全員に、いつかは仕返しをしてやるからな。
「隊長、仕返しなんか考えないでくださいよ。そうでなくともここの連中は全員隊長のせいで何度も酷い目に合っているのだから。私だって査問なんかは何度も経験してましたが、軍に入って初めての経験でしたよ、仲間からの尋問なんて、なんの冗談かと思いましたから。あれは酷かったですね。なので、隊長はみんなに優しくしないといけないのですからね」と、メーリカ准尉がフォローを入れてきた。
あの件は俺のせいではないと文句を入れそうになったが我慢した。
唯でさえこの隊は男性が少なく、ましてこの指揮車内には俺しか男がいない状態で簡単に孤立する。
集中砲火に会う前に逃げ出すのが懸命だと経験から学ばせてもらっていたのだ。
成果を出さないと、あと3週間くらいはジャングル内にいないと不味そうだ。
あまりに暇なので、次に移動したら、俺もバイクを借りて付近をツーリングでもしようと考えているのであった。
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