第119話 上下水道問題

 俺らは、新たに作られる潜水艦補給基地の建設の応援に入っている。

 俺はすでに港の傍の丘の中腹に兵士用の営舎を10棟作った辺りで、あることが気になって仕方がなかった。

 傍で作業を指揮していたメーリカさんに聞いてみた。

「メーリカさん、ちょっといいか」

「え、隊長、なんですか」

「俺は気になって仕方がないのだが、営舎をかれこれ10棟作ったが、水道関係の工事をしていない。メーリカさんのところでやっているのかな」

「え、隊長がやっていたのでは」

「俺はやっていないし、だれかやっているところを見ていないのだけれど。てっきり、メーリカさんか、海軍さんの誰かがしているものと思っていたが、それらしい人を見ていないのだけれど。メーリカさんじゃなかったら、だれか工事している人見なかった?」

「え、私、てっきり隊長がパパっとやっているのものだと思っていました。だって、隊長、建屋の工事よりも水道関係の方が得意じゃないですか」

「それじゃ~、だれがやっているんだ。もしかしてだけれど、だれも工事していないのか。どうするんだろう」とちょっと心配になり、海軍の偉いさん辺りに聞いてみようかなと思っていたところ、丘の上の方、正確には第27場外発着場へ繋がる開拓したルートの方から、自動車の走行音が聞こえてきた。

「誰か基地の連中が来そうだな。ここへの応援かな」

「誰でしょうかね。大方サカキ中佐のところの特殊大隊の人たちだとは思うのだけれど、まさかサカキ中佐自らはないでしょうしね」

「わからんぞ、あの人ならばやりかねないからな。でも、順当に考えればシバ中尉辺りかな。シノブ大尉と交代かもしれないしな。お、見えてきた。やっぱりうちの基地の車だ。かなりの人数がいるな。なんだろう」

 そんなこんなとメーリカさんと話していると、俺らの前に1台の指揮車が止まり、中からシバ中尉が顔を出してきた。

「当たったな、シバ中尉だ」

「そうですね」

「お久しぶりです。中尉」

「お~、グラス少尉、悪いが司令部まで案内してもらえるかな」

「どうしました、緊急事態ですか」

「いや、ただの挨拶だ。ちょうど、この辺りまで道の整備が終わってな。それで、旅団長から基地の補給を始めてもらえないかとの親書を預かってきただけだ」

「判りました。ご一緒しましょう。悪いけどメーリカさん。これが完成したら作業は中断させといてくれ。水道の確認しとかないとやり直しになりかねない」

「判りました」といって、俺はシバ中尉の乗ってきた指揮車に乗り込んで、仮の基地司令部まで車を進めた。

「中尉、まだ全然整備が進んでいないので、ここに仮の司令部がおかれています」

「ここか、うちもそうだが、僻地だとまともな司令部を持たせてくれないな」

「これでもましになったのですよ。今まで、仮設埠頭に停泊させていた駆逐艦の倉庫を司令部にしていたのですから、窓があるだけよくなったのです」

「そりゃ~ひどいな。陸軍も海軍も現場の兵士に対する扱いは変わらないな。ま~、愚痴を言っても埒も明かないので、行きますか」

「ご案内いたします」

 俺らは、仮設の司令部に入っていった。

 中で忙しく仕事をしていた幕僚たちが俺らを見つけ声をかけてきた。

「少尉、どうしましたか」

「失礼いたします。旅団基地より、旅団長からの親書を持ってきた士官をお連れしました」

「そうか、では私が預かろう。で、内容については聞いていますか」

「旅団基地までの道の整備が一段落しましたので、かねてからの約束である補給をお願いしたいと」

「判った、早速内容を確かめて鎮守府の補給担当参謀に連絡しておきます」

 シバ中尉は、とりあえずの仕事を終わらせ、やれやれといった感じだったが、俺は、先ほど抱いた疑問が気になり、ついでに聞いてみた。

「あの~、ちょっといいですか」

「何か、まだありましたか、少尉」

「はい、ちょっと気になったことがありまして、確認したいのですが、基地の建設についてお聞きしますがよろしいでしょうか」

「え、構わないが、問題でも発生しましたか」

「問題かどうかはお聞きした回答次第ですが、今作っている建屋なんですが、上下水道についてはどうなっておりますか」 

「え、水の補給は補給艦から補給されることになっているが、何か問題でもあるのか」

「え~~、それじゃ、水道関係の工事はやらないのですか。それ、まずくありませんかね。トイレだって基地には作れませんよ。1~2泊の野営ならばともかく、地上基地では問題ですよ。それに飲み水だけじゃなく、シャワーや生活用水まで補給に頼るとなると、水だけでもかなりの量になりますよ。応急的ならばそれで間に合わせても、恒久的な施設では無理ですよ」

「え、そうか?俺は、何も聞いていないのだが、ちょっと待ってもらえるかな。すぐに問い合わせてみるよ」と言って、対応していた海軍の士官が無線のために仮設埠頭に停泊している駆逐艦まで走っていった。

 俺らの会話を聞いていたシバ中尉が心配そうに聞いてきた。

「そんな状況じゃ、今どうしているの」

「宿泊は駆逐艦で、生活に関することはその駆逐艦で済ませており、これと言って困ってはいませんでした。なので、気が付くのが遅れました」

 俺は、シバ中尉と雑談して回答を待っていると、先ほどの士官が駆逐艦で作業をしていたシノブ大尉を伴って速足でこちらに向かってきた。

「どうやら、答えが出たようですね」

「大尉の顔から見て、あまり良い答えではなさそうですよ、少尉。雑用が増えそうですね」

「中尉も一緒ですよ。ここに来たのだから、逃がしませんよ」

「諦めていますよ。大尉がこっちに向かってきた段階で諦めましたと。おやっさん程じゃないですが、あのシノブ大尉も大概ですよ。なんたって、あのおやっさんの愛弟子ですから。それもかなり優秀な」

 二人で顔を見合わせやれやれといった諦めが周りを支配していた。

 どうなることかな。

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