第117話 港湾建設の件で土木部長との打ち合わせ
「嬢ちゃん、邪魔するぜ」
「いらっしゃいませ、サカキ様。いつもので、よろしかったでしょうか?」
「あ~頼む」
「あ、隊長様たちもいらっしゃったんですね」と、サリーがいつものようにここに来たお客様を出迎えていた。
サクラ旅団長を捕まえて隊長と呼んでいたので、アプリコットが慌ててサリーに注意した。
「サクラ旅団長は、隊長よりも偉いんですよ。失礼になるから、きちんと旅団長と呼ばないと駄目だよ」
「え~、そうなんですか。すみませんでした。え~っと、旅団長。こちらにどうぞ、お飲み物を準備しますが、何がよろしいでしょうか」
とぎこちなく訂正を入れて、サクラたちを部屋の中に迎い入れた。
「隊長でも構わないわ。現に今でも近衛の連隊長を兼務しているんだから」
「ブル、いいから座りましょう。で、サリー、私たちにもコーヒーをお願いね」
「判りました、すぐにお持ちします。クッキーを召し上がってお待ちください」と、サリーは部屋の隣にあるキッチンスペースの中に入っていった。
「ここは、相変わらず、マイペースね。本当にうらやましいわ。で、グラス少尉、港湾建設の件で土木部長と、どこまで話がついていますか」
「え、はい、今までのところ、具体的な話は何も。先ほどより、部長殿から、司令部での会議の様子などをお聞きしておりました」
「え!あなたは何を。あの案件について、何を聞いているのですか。今回の話し合いは、私レベルでも関わることを躊躇する案件だったのに、そんなことを調べて何をする気なのか。ことと次第によっては、機密違反で帝都に送らなければならなくなりますよ」と、すごい剣幕でサクラはグラスをまくしたてた。
部屋の中にいた人間はサクラのあまりの剣幕に驚き、慌てた。
同席して、先ほどまでグラス少尉と話し込んでいた、土木部長は、すごい剣幕のサクラをとりなした。
「サクラ大佐、彼は、私から報を聞き出すことはしておりません。むしろ、これ以上関わらないように、情報が少尉に来ることを拒んでおりましたが、私の責任において説明させてもらっております」
「は?なぜそのようなことを」
「はい、彼には、大綱原案作成の初期からかかわってもらっておりました。というより、ほとんど彼のアイデアを大綱の形式に落とし込んだようなものです。なので、これから、作戦に組み込んでいく際に、彼にはまだ、色々とアドバイスをもらいたくて、鎮守府長官もそのお心づもりで、また、ゴードン閣下からも彼を逃がすなと私に指示をして基地に帰還されました。なので、会議の趨勢を話し、今後の見通しを立てて、できる範囲で前倒しで進めていきたく、情報を共有していたところです。大佐からも彼に命じてくれませんかね。いい加減諦めて、我々に全面的に協力するように。彼は、ややもすると、すぐに関りを避けようとしているのですよ。彼の部下が彼にこれ以上関わるなとも言っているようですし、お願いします」
「は、何?どういうこと?」
今まで、サクラの横で、サクラを宥めていたレイラが、サクラに説明を始めた。
「ブル、落ち着いて聞いて頂戴。あの会議の時に、私は見てしまったのよ」
「レイラ、あなた何を言っているの。何を見たというのよ」
「だから、ブル、少し落ち着いて。あの会議の最後で、ゴードン閣下から大綱原案のメモを受け取り、特使に渡すときに、暫く固まった時があったでしょ。サクラは、私に注意をしたわよね」
「え~、覚えていますよ。珍しく、レイラらしくない不手際だったわよね」
「え~、あんなのを見たらあなただって固まるわよ。あの大綱原案のメモの表紙に作成者と承認者の名前があり、サインがあったのよ」
「そんなの、例えメモ書きだったとしても、ほかの人に渡ることを前提としていたら、当然じゃないかしら」
「そうよね、問題は、作成者の上段。作成の中心となった者の名が入る辺りのところにグラス少尉のサインがあったのよ。信じられる」
「見間違えじゃないの」
「私もそう思って、何度も確認したから間違えはないわ。何度も彼の始末書……じゃなかった報告書で見たサインだったから、そうよね、少尉」
「中佐が何を見たかは存じませんが、徹夜明けで鎮守府の参謀の方たちの書いた書類の束に言われるままサインした覚えは辛うじてあります。一応海軍の作った書類だったので、門外漢の私は断ったのですが、先方がどうしても必要と譲らなくて、しまいにはゴードン閣下が自ら私にペンを渡しサインを求めたので、諦めてサインしました」
「え、私は聞いていないわよ。そんな重要な案件を」
「ですから、今私の後ろでアプリコットたちが報告書をまとめております。彼女たちは、重要だと言って、今日中に報告書を上げると言っておりましたので、で、どうなった」と言って、俺はアプリコットに状況の確認を行った。
彼女たちは、かなり青い顔をして震えていたが、か細い声で、
「旅団長、先ほど、レイラ中佐宛てに報告書を上げております。今回は前回の鎮守府騒動の時のように解らないことが無いように常に少尉の脇に控えておりましたら、かなり詳細にまとめております」
「だそうです。で、書類のサインの件はよろしかったでしょうか」
レイラは、サクラに今までの経緯をまとめるように話しかけた。
「ブル、私はまだ彼女たちの報告書を見ていないから解らないけど、私が見た事実は変わらないわ。多分、鎮守府の長官が持っているであろう正式な書式で書かれた原案にも彼の名前があると考えた方がいいわね」
「ちょっと待ってよ、計画大綱関係の書類でしょ。私たち佐官でさえ、ほとんど見ることのないものよ。まして、その関係書類に名前……ちょっと待ってよ、さっき発案者って言ってなかった?それどういうことよ。計画大綱の発案なんて、それこそ帝都の統合参謀本部の将官たちが作るものでしょ。今回の場合には発案が鎮守府だったから、それでも、鎮守府の参謀、それも佐官の仕事でしょうに、どこの世界で最低の士官である少尉がそれも帝国の今後を左右しかねない作戦大綱の発案なんかするのよ」
「だから、私も驚いたのよ。でも、発案者に少尉が入っていますわよね、部長」
「あ~、中佐の言う通りだ。今鎮守府で進めている計画も、その根幹は大綱原案に則って、できるものを前倒しで進めている。海軍全体でもすでに準備に入っているそうだ。なので、どうしても彼を逃がすわけにはいかないので、先ほどより詳細に説明をしていたのだよ。なので、大佐からも、少尉にもう少し我々に協力してもらえるように命じてくれんかね」
「当初の潜水艦補給基地設営に関して、まだ命じてはおりませんでしたが、彼に命じるつもりでした。なので、ここで、詳細を詰めたら、その旨の命令を出します。これでよろしいでしょうか」
「それで構わん。ご協力を感謝する」
今案でのやり取りを聞いていたサカキ中佐がおもむろに、
「それじゃ~、さっさと、設営の計画とやらを作ってしまおう」と言って、仕切り直した。
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