第116話 困るんですけど、ここでの打ち合わせは

 ゴードン閣下と帝都から来ていた殿下の特使の方達は、とりあえず、当初の目的を達したのか、ホッとした表情で基地を後にしていった。

 サクラとレイラは、特使達を送り出すために第27場外発着場にクリリンと共に来ていた。

 ゴードン閣下を鎮守府まで送るために、待機していた輸送機『北斗』は一旦鎮守府のあるタッツーの海軍航空隊の基地まで飛び、そこから帝都まで行く経路となった。

 特使達には、ここから護衛機を付けて貰えると云う事で、快くこの寄り道を了解して頂いたのだ。

 海軍の特に鎮守府と特使達は、事の流れの急激な変化に合わせるため、とにかく急いでいた。

 一刻も早く拠点に戻り、次のステップに入りたがっていたのだ。

 今回の海軍からの提案は、皇太子府にとって渡りに船であるために、特使は全面的な協力を約束していた。

 補給が困難な状況により、一時は殿下の計画が頓挫する寸前まで追い込まれていたが、今回の海軍の提案で、自分たちの計画が頓挫せずに済み、かつ、計画大綱にまで盛り込ませることが可能になってきたのだ。

 これには、特使も前のめりになろうというものだ。

 今までは、あの急進攻勢派に隠れて計画を進めて来たのだが、そろそろ隠蔽したまま計画を推進することが難しくなってきていたので、そういう意味でも助かったのだ。

 現在の状況化では、あの連中も暫くは殿下の計画に異議を唱えることはできない。

 とにかく今のうちに既成事実を作ってしまいたいのだ。

 焦りにも似た感情が、サクラたち現場メンバーを除く関係者全員の共通した心境だった。

 サクラは輸送機に乗り込もうとしている使節団に向かって、

「もう少しゆっくり歓待をしたかったのですが、生憎の辺境で、かつ、老朽化した施設である為、卿に十分な対応ができずに申し訳ありませんでした。また、急な海軍との打ち合わせにも快く応じて頂き、大変に感謝しております」

「いや、今回は我々の都合だ。サクラ大佐、本当に短い時間だったが、とても有意義に過ごせたことを感謝する。すぐに殿下より新たな指示が出ると思うが、その時も是非協力をお願いする」

「ゴードン閣下もお気をつけて」

「なに、これからは色々と大佐との会合も増えるだろう。今後共良き隣人として、力強い仲間として、期待している。それに、直ぐに協力して貰わなければならない事もあることだし、直ぐに再会をすることになる。その時にもよろしく頼む。本当に今日はありがとう、大変感謝している。それじゃ」と言ってゴードン閣下が最後に輸送機の中に入っていった。

 直ぐに飛び立つ輸送機を見送ったサクラは大きくため息をついて、

「は~~~~~、本当に疲れたわ。どうしてこうなるのかしらね」

「ブル、まだ終わっていないわよ。基地には鎮守府総司令部 港湾建設土木部の部長が残って、彼らと打ち合わせをしているはずよ。それを片付けないとね」

「は~~~~、そうでした。それでは、行きますか」と言ってクリリン達を促して基地に戻っていった。

 その頃基地では、その鎮守府総司令部 港湾建設土木部 部長がグラス少尉の元を訪ねて、『喫茶サリーのおうち』の前に来ていた。

 彼は、その看板を見て驚いていたが、マーガレットに促されて中に入っていった。

 サリーが、元気よく彼らを歓迎しながら中に受け入れた。

「いらっしゃいませ~」

「サリー、少尉のお客様をお連れしたわ」

「ハイ、今少尉を呼んできます。お座りになってお待ちください」と言って、中央にある大きなテーブルに案内をし、外に少尉を探しにい行った。

 部屋の奥のひときわ立派な席で仕事をしているアプリコットとジーナが彼を見て、又しても固まった。

 ”なぜ、彼がここに来るのよ。

 旅団長たち首脳陣との打ち合わせの最中でしょ。

 なぜ……。”

 中でお茶をしながら、基地の整備についてあれこれ打ち合わせをしていたシノブ大尉の所の工兵たちも、慌てて直立し、敬礼の姿勢を取った。

 この中で一番まともな対応を取ったのが彼らだけであったのに、マーガレットが頭を抱えた。

 ”優秀なはずの彼女たちが、なぜ固まったままなのよ、早く敬礼をして彼を受け入れなさい。”と心の中で呟いているのだった。

 遅れて、窓際にいた彼女たちもその場にて直立姿勢を取り、敬礼をした。

 鎮守府総司令部 港湾建設土木部 部長は海軍形式の返礼をし、サリーに促された席に着いた。

「少尉は直ぐにきますので、お茶でも飲みながらお待ちください。あと、このクッキーは手作りですがとても美味しいですよ。良かったらお試し下さい」

 サリーは直ぐに戻ってきて、彼にお茶を入れながら、出来たてのクッキーを進めた。

 席に着いた彼は隣にいるマーガレットに雑談を始めた。

「この基地には驚かされることばかりだ。こんな事を言っては失礼かもしれないが、こんな僻地に、こんなに立派な建家がたくさんあるのには驚いた。それも、小隊詰所?と言っていいのかな、ここは。ここは、この基地で一番立派な造りだし、逆に司令部建家が一番の年季が入っているようだし、普通の基地の感覚ではありえないことばかりだ。自分達を最後に回し、基地の隊員の環境を先に整えるとは立派な考えだな」

「恐縮しています」と言って、マーガレットは苦笑いを浮かべた。

 どう答えて良いか解らないのだ。

 あのグラス少尉が勝手に暴走して造りまわった結果なのだが、そのまま報告して良いものかどうか……

 そうこうしているうちにグラス少尉がシノブ大尉と共に戻ってきた。

 新司令部建設現場を見に行っていたようだった。

 中に入り、港湾建設土木部長の姿を確認すると、敬礼を取って、そのあとに彼に問いかけた。

「部長殿、本日は如何様な《いかような》ご用件でここに…」

「いや、なに、実際に手を貸してもらうに当たり、少し打ち合わせをしたいと思って、マーガレット中尉にご無理を言ったのだよ。暫く時間をもらっても良いかね」

「私は別に構いません。ですが、ここで大丈夫ですか?副官にお願いをして会議室の手配をしましょうか?」

「いや、ここで構わんよ。それに、ここはなぜか居心地がいいしね」

 直ぐにグラスも席に着き雑談から始めた。

 しばらくして、また、ここにお客様が現れた。

 いつも変わらないサカキ中佐を先頭に、今日に限ってなぜかサクラ旅団長とレイラ中佐、それに秘書官のクリリンまで入ってきた。

 彼女たちの姿を確認した工兵たちは理由をつけてこの場から逃げ出していった。

 それを部屋の奥で見ていたアプリコットとジーナは、「あいつらは~~、自分たちだけ逃げ出しやがって、私も直ぐに逃げたいのに、覚えていろ」と誰にも聞こえないように小声で呪いの言葉を掛けていた。

 ”本当に困るんですけれど、ここで偉い人たちの打ち合わせをしてもらっては、私たちにどうしろと……。”

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