第115話 ゴードン閣下との会議
サクラは皇太子府からのお客様を引き連れて、隣の会議室に入っていった。
そこで、サクラは固まった。
会議室でお待ち頂いているゴードン閣下が、サクラたちを会議室の入口近くまで赴き出迎えていたのであった。
組織こそ違えどゴードン閣下は、おおよそこんな僻地にある基地にまで直接出向いて来るようなクラスの方ではない。
従来の帝国の常識の範囲であれば、ゴードン閣下はサクラを鎮守府まで呼びつけられるくらいの力はあるはずだ。
最も海軍と陸軍の関係もあり、なんだかんだと理由をつけて伺わなくなるのが普通だが、間違ってもご本人がわざわざ出向いてくることはありえず、俄には信じられない。
だからこそ、朝の通信でこのことを知ったサクラを含めた幕僚たちは慌てたのである。
なので、会議室にあっても、着座のまま無言での出迎えくらいは覚悟をしていたのであった。
それが、下位のものが上位者を出迎えるがごとく直立で入り口付近での出迎えには、サクラを含め基地関係者全員が固まった。
唯一の例外はゴードン閣下をここまで案内していたサカキ中佐だけであった。
それでも、彼は苦笑いを浮かべ、サクラたちに次の行動を促していた。
「あまりに急な申し出に快く応じて頂きありがとうございます。しかし、この場に殿下の特使の方がみえられていると聞いて、どうしても報告とご相談をしたく、会合のお願いを無理強いした限りです。立ち話でできることではないので、早速に話し合いを持ちたいのですが、サクラ大佐に、ご異存がなければ、現在の我々の考え方を先に説明させていただきます」 と、早速ゴードン閣下がその場にいたみんなに声をかけた。
「解りました。皆様もご着席ください。あまりに急な申し出で、準備が全く出来ていないので、着座位置はご随意にと、やや礼儀に反しますが、ご理解ください」と言って、みんなを席に付かせた。
全員が着席したのも見計らって、サクラはクリリンに合図を送り、人数分のお茶を席に配り、会議室の扉を閉めた。
それを確認して、「では、ゴードン閣下。本日のご訪問の趣旨の説明をお願いします」と言って、ゴードン閣下に説明を求めた。
「本日は、あまりに急な申し出に応じて貰い、感謝します。まず、私が本日ここに参上した理由からご説明させて頂きます」と始まり、現在の補給が破綻寸前であることに加わり、主要補給港が使えないことで、帝国が、ゴンドワナ大陸北部に有している制海権の維持に綻びが見えてきたことを説明した。
その上で、2週間以内に主要補給港を最盛時の7割の能力で再開させることができる方法について説明し、これには、既に鎮守府として作戦計画を承認し、一部走り始めていること。海軍全体を動かすために今朝早くに長官が帝都に向かったこと。
そして、最大の案件が、ここゴンドワナ大陸の作戦大綱の見直しの提言を帝都で行い、早急に新大綱に基づいた作戦の実行を行いたい為、殿下に協力を求めたいことを説明した。
現状帝都では、まだ不毛な政戦がだらだらと行われており、いつまでたっても大綱の改訂が行われていない。
現場にいる誰もが、既に今ある作戦大綱が全く意味のないものになってきており、その為に新たな作戦が組めなくて機能不全を起こしている事を知っている。
帝都にいる連中に任せていても、現場のジリ貧が続く現状に、ついに鎮守府が動いたのだ。
というよりも、誰もこの危機的な状況の打破についての妙案を持ち合わせておらず、ただただ困っているだけであったのが、昨日のグラス少尉との会談で、打開策のアイデアを貰い、直ぐにまとめて殿下の協力を求めてきたのだった。
サクラにしても、基地の補給についてつい先ほど皇太子府からのお客様と話し合ったが、出るのは愚痴ばかりであり、どうすることもできずにいたのだから、このゴードン閣下の提案は非常にありがたいはずであった。
しかし、彼女の感情の部分で、『昨日のグラス少尉との会談で得た、打開策のアイデア』に対し、非常なまでの嫌悪感があるのを消し去ることができなかった。
「ゴードン閣下、今ご説明いただいた内容は、新たな作戦大綱の原案ということでよろしかったでしょうか?」
「我々はそのつもりだ。潜水艦用の補給基地の建設にご協力を頂くために本日会合のお約束させて頂きましたが、その基地建設も新作戦大綱の原案では織り込まれており、かなり重要な役割を持たせております」
「今の説明では、先ほどサクラ大佐のご懸念であった補給の問題も解決されそうだな。殿下の計画も進められるし、いっそその新たな作戦大綱に盛り込まれてはどうか」
「以前より、殿下の下で何やら動かれていることは噂程度ですが聞いております。我々としては、殿下の計画そのものを知りませんので、私には判断ができませんが、帝都で殿下と海軍関係者で打ち合わせてもらえばよろしかろうと思います。そういう意味では、殿下の協力を得られるのならば我々としては大歓迎です」
「私どもとしては、閣下のお気持ちとその計画の骨子は理解したつもりである。早速、帝都に戻り殿下に伝えよう。で、その計画の骨子であるが、お手元のメモは私どもに貰えるのかな?」
「本来ならば、長官が殿下宛の親書にしたためねばならないところ、このメモができたのが今朝なもので、形式が整っておりません。それでもよければ私の責任で特使の卿にお任せしますが。よろしいでしょうか」
「形式なんぞ、今の状況では何の役にも立たない。それは構わない」
「では、お渡しします。取り扱いに気をつけてください。帝都のくだらない連中に漏れますと、少々厄介なことになりますので」
「わかっておる。ワシが戻り次第、そのまま殿下とお会いしてご説明にあがる」と言ってゴードン閣下はレイラにその原案が書かれた書面を受け渡した。
しかし、レイラは、そこで固まった。
サクラが、不審に思い、レイラに対して、「どうしたの、速やかに特使殿に渡してあげて」
「すみませんでした。正直、このメモの表紙に違和感を感じたもので。これをお渡しします」と言って、特使の外交執行部長であるソーノ子爵に手渡した。
「違和感?何を感じたの?」とサクラがレイラに聞いたら、代わりにゴードン閣下が答えてくれた。
「確かに、およそ作戦計画の類の作成者に少尉が当たることは極めて珍しいことだからな。それが作戦大綱ともなると、多分史上初のことじゃないかな。最も、これは作戦大綱原案だけれど。そういう意味では、我々だけじゃなく、帝国は彼に救われたかもしれない。ほとんど彼の意見をまとめ、無理のでない範囲に落とし込んだものだからな」
今度はサクラが固まった。
「あいつは、アイデアだけじゃなく、原案作成にも加わっていたのですか。そんな重要な打ち合わせにお邪魔して申し訳ありません。彼には審議の上きちんと処罰を申し渡します」
やや興奮して謝罪してくるサクラを、ゴードン閣下だけじゃなく、同行していた鎮守府総司令部 港湾建設土木部 部長も慌ててとりなした。
本当は彼らが無理を言って少尉を徹夜に付き合わせたのだから。
それに、本来お願いしたい基地の整備に彼の協力を強く望んでいるのも彼ら海軍なのだから。
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