第114話 暗礁に乗り上げた会議

 旅団長室に待っているサクラに、レイラは場外発着場まで出迎えてきた元老院議員で外交執行部部長のソーノ子爵の一行を連れてきた。

「よくこんな辺鄙なところまでおいで頂きありがとうございます。卿の訪問を基地を上げて歓迎いたします。ノートン様もご苦労様です。ノートン様の訪問も大歓迎です。皆様、とりあえず立ち話も何なので、こちらにどうぞ」

「急な訪問で大変申し訳ない。社交辞令などで大佐の貴重な時間の浪費をさせるわけにはいかないので、早速本題に入らせてもらうが、その前に、殿下より大佐宛ての親書を預かっている。まず、内容を確かめてくれんか。今回の我々の訪問の目的に関しての内容となっているはずであるから。それから打ち合わせに入りたい。我々は、それが済むまで、大佐の指定の場所で待つ事も厭わんから」

「では、こちらで確認させて頂きます。皆様におかれましては、ソファーでお寛ぎ下さい。すぐに茶などを用意させます」と言って、サクラは親書を受け取り旅団長席に戻り、机の中からペーパーナイフを取り出し中身を取り出した。

 読み進めていくうちにサクラの表情がだんだんと硬くなっていく。

 横にいたレイラは心配して、「何が書かれているの?」

 と小声で聞いてきた。

 サクラは、レイラのほうに顔を向けて、「ちょっと待って」と言って、今度は卿の方に正対し、「預かった親書は、うちの幕僚で情報の共有を図ってもよろしかったでしょうか?」

「親書の扱いは私信だ。内容を確認したのならば、大佐の判断に任せるよ。必要ならば我々は席を外すから、打ち合わせを持ってもらっても構わない。ただし、あまり時間はとられたくないがね」

「ご配慮、感謝いたします。そこまでは、必要ありません。すぐにすみますので、その場にてお待ちください」と言って、手に持っている親書をレイラに渡した。

 すぐにレイラは親書を受け取り内容を確認した。

 少し驚いていたようだったが、おおよその見当をつけていたようだった。

 後で聞いたところ、内容の見当はついていたが、時期の大幅な前倒しに驚いていたようだった。

 レイラは、親書を返しながら、サクラに対して、「で、この件をどう扱うつもりなのですか?」と尋ねてきた。

「私たちに拒否権がない以上受けるしかないわ。幸い基地のハード面の整備については目途がついていることだし、戦闘がない限り最大限協力するわ」と言って、サクラは応接セットにいる訪問団のすぐそばまで来て、ソファーに腰を掛けた。

 レイラを続いてサクラの隣に座った。

「内容は確認させてもらいました。私たちは最大限の協力をお約束いたしますが、実際には何をすればよいのですか?」

「まずは、お礼を言わせてくれ、協力を感謝する。私は、軍については完全に門外漢のためよくはわからないが、昨今のここゴンドワナ大陸での戦況は相当に悪いと聞いている。我が外交部で入手した情報によれば最悪、帝国がここゴンドワナ大陸からの撤退もありうるとか。殿下は、この件を大変憂慮しておられる。そこで、今まで殿下を頂点としていた有志が予て《かねて》から計画していることをステップを飛ばして無理を承知で進められることをご決心されました。目指すところは、ここゴンドワナのジャングルにおられる現地勢力との同盟と彼らとの共闘により、ゴンドワナからの共和国勢力の駆逐だ。そのための拠点を、ここに作ることを計画している。大佐には、拠点つくりと現地勢力とのファーストコンタクト及び、外交部との橋渡しを希望している。今回の訪問の目的は、基地設営の下調べと、設営の開始時期の決定をすることだ。詳しいことは、同行しておるノートンより説明させる」

「はい、計画を説明させて頂きます。……以上となっておりますが、何か問題点やお気づきの事、もしくはご質問がありますか?」

「質問というより、懸念事項があります。昨今のここゴンドワナの戦況については我々も蚊帳の外に置かれており、詳細はわかってはおりません。しかし、その影響については当基地にまで及んできております。第3作戦軍司令部からは、当基地に送られている補給物資の全面差し止めを要求されており、そうなると我々はこの地にとどまることができません。正直、上層部からの撤退命令を待っているようなものです。そんな状況に有って、このあたりに基地を設営するのは無理筋を通り越して不可能と判断できます。最低でも、今の倍以上の補給路の確保がない限りは、建設にはかかれません。我々だけでは、この問題の解決はできません。この方面の戦略、いや、作戦大綱の内容に関することにまで及んでしまい、私ではその権限がありません。帝都で、そこからの見直しをご提案いたします」

「そこまで、状況が悪化していたとは我々も理解していなかった。情報の収集が甘かったと反省している。しかし、どうしたものか、とりあえずこの件は持ち帰りか、うん~~~~~ん」と、その場にいた全員がうなりを上げ会議が止まり思考が停止したようになっていた。

 そこに、遠慮がちに旅団長室の扉をノックする音が聞こえてきた。

 本当に遠慮がちに弱弱しく、もし会議が佳境に入っていたら絶対に聞き逃されるくらいに遠慮したノックだった。

 それに、サクラが気づき、続いてレイラも気づいた。

 サクラはレイラに無言で合図を送り、レイラは卿に断りを入れその場を離れた。

 旅団長室の外にはクリリンが本当に申し訳なさそうに待機していた。

 そこで、クリリンからレイラにゴードン閣下が到着し、閣下がサクラ及び帝都からきている訪問団に面会を至急求めていることを伝えた。

 これにはさすがのレイラも予想はしておらず、慌てたが、すぐに旅団長室に戻り、サクラに伝えた。

 ゴードン閣下たちは隣室の会議室に到着しており、待機しているとのことだった。

 ちょうど会議も暗礁に乗り上げていたところだったので、卿たち一行もそのゴードン閣下の提案を快く受け入れ、彼らが待機している隣の会議室に全員で向かった。

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