第111話 作戦大綱の原案
この長官室には既にマリー中佐は居なく、俺らは、ゴードン閣下が直々に引きずるようにして、地下にある作戦大会議室に連れていかれた。
すぐ後ろにいるアプリコットとジーナは、完全に怯えている。
ちょっとばかり可愛そうで、前回のレイラ中佐の尋問に続いてだから、トラウマにならないかと心配になった。
「君たちが嫌なら、俺だけで行くから、どうする?もし、どうしても嫌ならゴードン閣下に俺から聞いてみるよ」
俺が、彼女らを心配して小声で声をかけた。
すると、アプリコットが、これも小声で、「いえ、私たちも行きます。今回基地を出るときに旅団長から直々に少尉の暴走を監視して、絶対に海軍基地では暴走させないでと言われておりますから。もうすでに手遅れですが……」
「殴り倒してでも、暴走させるなと、不可能ならば、自分たちの判断で銃の発砲まで許すと、レイラ中佐にも言われております」とこれもジーナが怯えながら答えてくれた。
何、銃の発砲ってなんなんよ!?
俺そこまで悪人じゃないよ。
俺が今まで何したって言うんだ。
それに、今まで俺はアプリコットやジーナたちの言うことはきちんと聞いてきたのにな~。
「最後まで、お供します。でないと、ここでの状況を報告できませんから。でも、どうして少尉といるとこうなるんですかね~」
「そうそう、もう、レイラ中佐の尋問は受けたくないからね。これから何が起こるか少し怖いけれど、報告するので、見届けます」
うんうんと頷きながら、ジーナも答えてきた。
ゴードン閣下に連れられて、地下の奥にある会議室に入ってきた。
「悪いが、君たちはそこの壁際の副官控え席についてくれ」
「はい、わかりました」
「でも、いいんですか?重要な会議に私達のような小官が臨席して、大丈夫でしょうか?」
気丈にもアプリコットが、ゴードン閣下に聞いてみた。
「何、大丈夫だ。緊急に開かれる会議だし、非公式で、この会議の議事録は作られないから。でも、守秘義務は発生するよ。そこのところは弁えてくれ」
「あの~、旅団長への報告は、守秘義務に抵触するのでしょうか?」
「あ~、そうか、君たちには報告の義務があるか。でも、今日の件は明日、彼と一緒にワシが基地まで出向いて報告するから心配はいらんよ」
「「え~~~」」
「何大声を挙げているんだ、閣下に失礼だよ。すみません閣下、いつもはよくできた部下なのですが、何分経験が少なく、イレギュラーな事態に耐性がなくて。それに、基地できちんと報告を上げないと何故か元情報部出身のレイラ中佐から尋問まがいの聞き取りがなされるので、彼女たちも必死なのですよ」
「何構わんよ、でも、尋問とは穏やかじゃないな。あ~そうだ、少尉、君はそこの席についてくれ」と言って指定された席を見ると、明らかにプレゼンの発表席じゃないか、俺に何をさせる気だ。
「わかりました」と渋々席に着いた。
マリー中佐も戻ってこられ、後ろに参謀徽章をつけている明らかに上級士官を連れていた。
すぐに全員が席に着いた。
長官が出席者に向かって、
「忙しい中、事態が変わってきたので、わしの判断で緊急に会議を開くことにした。事前に情報を渡せなくてすまんが、内容については、作戦大綱の刷新についてだ。ここゴンドワナ大陸の作戦大綱が既に破綻していることは、君たちも理解していることだろう。早急に新作戦大綱作成がなされなければならないのに、未だその動きがない。我々の懸案である制海権の維持にも影響が出始めている。既に潜水艦用の補給基地の設営が始まっていて、陸軍のというより、皇太子府直属のサクラ旅団に協力を仰いで、あのグラス少尉に来てもらっている。彼に、基地設営について先程同席した部長と話を聞いていたのだが、ことが作戦大綱案にまで話が及んだので、いっそ全員で、その話を聞いて作戦大綱案の原案を作り上げ、帝都にねじ込んでしまおうと考えている」
会議室に入ってきた参謀たちは、お誕生日席に座っている俺を見て不思議がっていたが、長官の話を聞いて、おもむろに全員がメモを取り始めた。
オイオイ、どこまでハードルを上げれば済むんだこの人たちは。見ろ、アプリコットとジーナは完全に怯えているぞ。目が死んでいる。
どうしてくれんだ。
「幸い部長が明日サクラ旅団長と会談できるようアポイントメントを取っており、そこのグラス少尉が率いる小隊に連れて行ってもらえることになっている。その席には、皇太子府からも人が来ているそうだから、事前のネゴまでできる環境にあるので、たたき台のメモで構わん。それを今日中に作り、それを持って、ゴードン閣下に出向いてもらうことにした。きちんとした体裁は、その打ち合わせをもった後に作り、俺が帝都まで行って統合作戦本部に認めさせる。連中は、いまだに破綻した大綱に固執しているから、引導を渡してくる。では、少尉、先ほどの話を最初から詳しく話してくれ。参謀たちよ、質疑は一応少尉の話を聞いてからにしてやってくれ。では、始めてくれ」
俺は、よくわからないが、戦線の破綻の原因がゴンドワナ大陸の主要補給港の機能不全にあることを知ったので、まず、そこから話を始めた。
「……ここの港ですが、補給港としての機能不全が先の破壊で起こり、大陸全体の軍の活動に多大な影響が出てきております。しかし、まだ制海権は長官からの説明で我が帝国が持っているようなので、ここを機能的には劣りますが、補給機能を復活させます」
そこまで説明したら、質疑は終了してからと言われていたのにも関わらず、補給担当の参謀が声を上げた。
「機能を復活させるといっても、簡単な話じゃない。現にこの基地からも大量に人が連れて行かれ修理にあたっているが、何年かかるのか、その目処すら立っていない。夢のような話じゃなくて、実現できる方法を提案してもらえんかね」
それに周りの参謀たちも賛同の意思表示をしている。
俺は、邪道を説明して良いか迷ったが、説明を始めた。
「これは、あくまで小官の考えで、海軍の皆様には受け入れ難いかもしれませんが、ご説明させていただきます。まず、退役寸前もしくは、退役直後で動かすことのできる戦艦か艦隊旗艦を勤められる巡洋艦を1艘と大型のタンカーそれに大型の輸送艦の3艘を準備してもらいます。全て古くて構いません。船としては使いませんから。それら3艘を問題の港に曳航もしくは自走して運び、港の岸の近くに着底させるか丈夫な杭に永久係船させ、それらを倉庫と燃料タンクと、司令部として使います。
それらの船を岸から簡易橋を渡し、そこを新たなベースとして使えば港を使えます。
あそこは地上施設のみが使えないのであって、湾そのものには問題がありませんから、駆逐艦隊の基地としても使えると素人ながら考えております」
そこまで説明したら、参謀たちは、一瞬、呆然としていて、目からウロコが落ちるといった感じで、俺の案の妥当性を認め、徐々に会議室はざわつき出して、しまいにはゴードン閣下も俺に質問してきた。
その後は、参謀たちが自分たちの抱えている問題を質問してきて、会議室はカオスのような状態になっていった。
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