第112話 徹夜の会議
結局その日の会議はその日中には終わらなかった。
そのまま朝まで迎える徹夜になってしまった。
俺の後ろに控えていたアプリコットやジーナなんかは途中で舟を漕いでいたよ。
いいのか?大事な会議だそうだぞ?海軍の会議だからいいのか?それじゃ~なぜお前らここにいるんだ?
『会議の参加が目的じゃない、目的は少尉の監視とレイナ中佐への報告がメインで次に少尉の暴走の防止。』だそうだ。
彼女らは、最後には、交代して寝ていやんの。俺が眠い目をこすりながら、久しぶりの徹夜会議にメインで参加しているのにも関わらずに、だ。
レイラ中佐に報告ができればいいのだから、二人が絶対にいなければならないわけじゃないらしい。分担して内容が把握できればいいのだと。以前の鎮守府のようにいないところで問題が起こるのが一番困るんだそうだ。
問題なんか起こしていなかったのにも関わらずにだ。
あの時は、俺にもわかってなかったが、とても感謝されたんだぞ。
感謝状までもらったんだから。……その理由がわからなくて基地が大騒ぎになった?……俺のせいか?
本当にひどい話だ。
あたりが明るくなり、朝を告げる小鳥のさえずりが聞こえてくる頃に会議は終了した。
なんでも、ゴンドワナ大陸対共和国作戦計画大綱原案なるものができたそうだ。
ほとんど素人の俺の意見だが、これでいいのか?帝国軍は大丈夫か?
でも、これでいいらしい。最後に俺にできた原案なるものを見せてきた。
俺は正直見たくはなかったのだが、確認を強要されたのだ。
アプリコットに一緒に見ようと誘ったら、思いっきり拒否された。
なんでも、俺らのような尉官では絶対に見られるものじゃないものらしい。
むしろ、見てはいけないものだそうだ。
直ぐに俺はアプリコットのとなりに控えているジーナの方に顔を向けたんだが、ジーナなんかその場から逃げ出したよ。
失われたアークの呪いじゃあるまいし、そこまで拒否することはないじゃないかと思ったよ。
俺はどうしたらいいんだよ!内容の確認を強要されているんだぞ!
ま~いいけど、理不尽な扱いには慣れている。
今回のことで俺は一つの真理を学んだ。
俺に対する評価がいいはずの海軍でも、仕事に関してはブラックなことを強要されたのだ。
評価の良し悪しにかかわらず、ブラックな仕事はついてまわるということだ。
そういえば、うちの旅団長は帝国一の高評価にも関わらず、目の下に隈のない状態を俺は見たことがない。
いつもイライラしているようだし、相当ブラックな職場環境なのだろう。
美人なのにもったいないとは思うが、彼女を女性として扱うためには男として相当な力量がいることだろう。
人間にそんな奴はいるのだろうか?
人間のジャンルを超えた奴が現れない限り、そんな男は存在しないと思ってしまった。
今はどうでも良いことか。
それじゃ、強要されている原案なるものの確認をしよう。
どれどれ……
ゴンドワナ大陸対共和国作戦計画大綱原案
ドラゴンポート鎮守府 参謀本部作成
◎共和国の北上阻止についての作戦方針
・戦線の後退及び縮小
陸軍で構成している戦線を主要補給港とジャングル方面軍とを結ぶ線まで後退させ、そこで戦線を再構築し、共和国の侵攻をこの防衛戦線で防ぐ。
・補給、
補給に関しては、現在の東部正面軍についてはタッツー経由で行い、西部正面軍は主要補給港に派遣される艦船で構築する臨時の補給基地を利用する。
中央正面軍は、第3作戦軍本部まで後退するか、帝国への撤退を図り、補給基地の負担の軽減に務める。
・制海権
制海権の維持と拡大を目指し、海軍は主要補給港に駆逐艦から成る水雷戦隊を1個艦隊派遣し、付近の警戒に当たる。
また、準備が出来次第帝国より海防艦からなる警備部隊を2個艦隊派遣し、主要補給港を警戒する。
海軍は、大綱原案が可決される前に退役予定の戦艦ホエールを旗艦とするタンカー、補給艦から成る艦隊を準備が出来次第水雷戦隊とともに主要補給港に派遣する。
・現在建設中の潜水艦補給基地は機能を拡大し、潜水艦だけではなく、ほかの軍及び施設への補給機能を持たせる。
防空対策として、第27場外発着場を拡大整備し、陸軍、皇太子府と共同で使用し、そこに海軍局地戦闘機からなる防空戦隊を2個中隊及び偵察小隊を1個派遣する。
・ゴンドワナ大陸の再侵攻については、完全にゴンドワナ大陸の制海権及び制空権を取った後に行う。
以上
ざっと確認したが、陸軍さんが認めればこれ以上の妥当な作戦??はないと思う。
だいたい補給に問題があるところに大部隊の展開やら侵攻やらを考える方がおかしい。
食いもんがなければ兵隊さんたちは餓死するぞ。
霞を食わせておけば大丈夫なのは仙人のみだ。
それに、食物以上にかさばる武器弾薬はどうするつもりだったのだろう?
弾を撃ち尽くしたら、竹槍でも持たせるつもりだったのだろうか?
この大陸は、最近までほとんど開発がなされていないのだ。
最も開発がされているようならば別の国ができていただろうけれど、陸上移動がとにかく大変なのだ。
軍隊を展開させたいのならば、まず、道の整備が急務だ。
それをしないでいきなりの戦闘とは、ホント呆れる。
素人の俺が考えてもわかることなのに、作戦を作る人たちは何を考えていたのだろう?
多分、クライアントであるお偉いさんの無理難題を、安請け合いする営業に当たる高級官僚が現場に無理を言ったのだろう。
設計や生産に当たる現場部署は、良識と胆力があるリーダーならばクライアントに再考を促す交渉をするのだけれど、そうでない場合には一番後に問題を残す、その場限りの見せかけを納品するが、今回もそのケースだったのかな。
どちらにしても、いつも苦労するのは現場部署だな。
当然のごとく、後に問題しか残さないことをしでかしたし、火消しは現場でやるしかない。
社畜ならば最悪、会社の退職でその場から逃げることも出来るが、軍隊はそうもいかない。
自分の命が掛かっているんだから、俺も含めてだけれど、できるだけ早急な鎮火ができるよう最大限協力していくことを、この場にいる海軍さんたちに約束していた。
横に居たアプリコットとジーナは『しまった』って顔をしていたが、俺はまた何かしでかしたかな。
確認を終えたら、サインを求められた。
議事録に参加者のサインを求められることはごくごく普通にあるのだが、サインする場所がなぜ、長官のすぐ下なの?順番がおかしいでしょ。
ここの参謀本部の長より先にサインっておかしいよね、とアプリコットを見たが、彼女も逃げ出していた。
俺、彼女たちに嫌われているのかな。
そんなこんなで、今度は拉致られるように食事をとらされ、直ぐに車に乗せられた。
当初の予定より少し早いが基地に帰ることになった。
俺の隣に、ゴードン閣下と帝都からのお客様を載せて。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます