第109話 新たな命令
クリリンからの報告を受けサクラは顔を顰めたが、直ぐにクリリンに、「あいつをここに呼んでちょうだい。アプリコットも一緒にね」
「解りました。グラス少尉とアプリコット准尉を司令部でよろしいでしょうか?それともこの会議室に呼びますか?」
「時間を無駄にしたくないわね、会議室に呼んでちょうだい」
「解りました、直ぐに呼びます」と言って、クリリンは会議室を出て行った。
喫茶サリーのおうち…違った…グラス小隊詰所の電話が鳴り、ジーナが受話器を取り上げた。
「アプリコット、司令部のクリリン秘書官から電話が入っているわよ」
「ありがとう」
受話器を受け取り、アプリコットはクリリン秘書官と話した。
受話器を置き直ぐに詰所を出ようとしていたアプリコットへ、心配そうにジーナが声をかけた。
「なにかまずいことでもあったの?」
「分からないわ、でも旅団長がお呼びなのよ。少尉と私に直ぐに来いと言ってきたのよ。だから、急いで少尉を探さないと」
「それなら、多分訓練施設の新設に向かっているはずだから、今なら川原のはずよ」
「え、あの訓練施設、ついに川原まで増殖したの?一体どこまで大きくすれば気が済むのかな。いい加減にして欲しいのだけれど」
「しょうがないんじゃないかしら、新兵たちの要望聞いていたらそうなってきたようよ。そんなことより、直ぐに探さなくて大丈夫なの」
「あ、そうだ。行ってくるわね。見つけ次第そのまま司令部に行くから戻ってこないわね」
「いってらっしゃい、悪い知らせじゃないことを祈っているわ」
「何ひとごとのように、…ブツブツ」と言いながら、アプリコットは詰所を出て行った。
サリーがキッチンから、「いってらっしゃい!」と大声で声をかけてくれた。
(ホントにも~、どうなっているんだかここは…)と思いながら、アプリコットはグラス少尉を探しに川原まで降りていった。
少尉はすぐに見つかった。
ジーナの言うとおり、訓練施設の拡張工事の指揮を取っていたのだ。
訓練施設は、今ではがん細胞のように無軌道な広がりを見せ、カオスの様相を呈していた。
「いったい誰にここを完全走破させるつもりなんだか」呆れながらアプリコットは、少尉を捕まえ、引きずるように司令部建家に向かっていった。
司令部建家の中にある会議室に案内されたふたりは、いきなり旅団長から鎮守府に行って海軍さんからのお客さんを出迎えるよう、命令を受けた。
今すぐ鎮守府に向かって出発し、明日午後までにここへ連れてくることを厳命された。
俺とアプリコットは謹んで命令を拝命し、すぐにここを出た。
「すぐに出発しろとの命令だ。全員で行くこともあるまい」
「そうですね、指揮車にバイクが2台もあれば充分かと思います」
「それじゃ~、小隊付きの連中だけで行くとするか。小隊は基地に残ることだし、メーリカさんに預けよう」
「そうですね、それがいいかと思います。少尉からお願いしておいてくださいよ」
「へ~へ~、解ったよ。それじゃ~、メーリカさんを探して川原まで行くとしよう。マーリンさんは車の準備をしておいてくれ」
「判っています。サリーはどうしますか」
「彼女に任すよ。行きたいようならば連れて行くし、残りたがっているのならば残していくよ。どうせ明日までの出張だ」
「解りました。すぐに準備しておきます」
俺たちはすぐに別れ、それぞれの目的地に向かった。
俺は川原で新兵たちを監督していたメーリカさんを見つけ、今までの経緯を説明し後を頼んだ。
メーリカさんも行きたそうにしていたが、了解してもらい、車のある車庫に向かった。
そこには既に出迎えメンバーが待機しており、サリーもそこにいた。
すぐに出発せよとの命令だったので、時間を置くことなく基地を後にした。
今からだとタッツー到着は夕方になる。
これは、鎮守府に連絡を入れ、タッツーに宿泊になると考えていた。
バイクを入れた一行は、予想通り夕方に鎮守府へ到着した。
一応は仕事なので、タッツーでいきなり宿泊とはしないで、まずは鎮守府に向かい、到着と明日朝の出迎えについて報告を入れようとしたら、そのまま基地内に拉致されるように連れて行かれ、歓迎を受けた。
基地は元々忙しいはずだったが、以前お邪魔した時とは感じを一変させていた。
なんだか基地全体に活気があるのである。
以前お邪魔した時にお会いした、マリー中佐が直接出迎えてくれた。
いきなりのVIPの登場で、俺も、アプリコットやジーナも固まった。
「え~と、俺たちは明日の朝一番に、我らの基地をご訪問予定の方を、お迎えに伺うことをお伝えに来ただけなのですが、なんでお忙しいはずの中佐がここにいらっしゃるのでしょうか?」
「あなた方をお連れしろと、上から申し使っております。お連れの方も、本日宿泊する宿舎に案内させますので、ご安心を。リーサ、みんなを迎賓宿舎へお連れして」
「あ、あ、ありがとうございます」
俺は、何がなんだかわからないままに、お礼だけを辛うじて返すことができた。
後ろでジーナがアプリコットに、「ね~、ね~、上って、中佐の上でしょ。中佐の上って最低でも大佐よ。また、ゴードン閣下が出てくるかも。でもどうしてなの?いつも、隊長についていくとこうなるの?」
「私に聞かないでよ。私にも、わからないのだから。でも、このパターンは何故か多いわよね。なんで、少尉の評価が陸軍と海軍とで雲泥の差があるのよ。絶対に海軍は勘違いしているんだわ。ぼろが出ないうちに帰りたい」
いつものように、俺が謂われのない事でディスられているが、俺だって知らんわ。
も~、なるようになれだ。
俺らは覚悟を決めて中佐の後についていった。
そこは、『鎮守府 長官室』と目立つ表札のある部屋だった。
予想はしていたよ。
だって、いきなり中佐の出迎えだろ。
その上からのだなんて、そうなることしかないじゃないか。
でも、俺にどうしろというのだ。
もう好きにしてくれ。
俺らは案内されるまま鎮守府長官室に入っていった。
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