苦悩の旅団長

第108話 サクラのため息

 サクラたちが詰めている会議室に、通信兵が1通の通信文を持って入ってきた。

 そのまま通信兵は持ってきた通信文を、サクラの副官であるマーガレットに手渡した。

 マーガレットが通信文を読んで、そのまま固まった。

 すぐ横で、難しい顔をしながら思案していたサクラが、マーガレットの様子に気づいた。

「どうしたの?また、嫌な知らせでも入ったの?」

「ハイ、すみませんでした。嫌な知らせかどうかと問われれば、あまり嬉しくない知らせですが、重大問題の発生を知らせる物ではありません」

「では、なんなの?大丈夫よ。もう、耐性は付いたわ。少々のことでは動じないわよ。たとえ今、西部正面軍が共和国に破られた知らせであっても、冷静に受け止められるわ」

「ブル、今それは冗談にならないわよ。で、マーガレット中尉、それにはなんて言ってきているの?私たちが聞いてはダメなやつじゃないわよね」

「あ、ハイ。大丈夫です。これは、今しがた帝都を発った輸送機『北斗』からの定例通信です。ただ、今回は補足がついておりまして、その補足が少々厄介なことになりそうなので、思案しておりました。すみませんでした」

「では、その補足について教えてくれるかしら」

「あ、ハイ、すみませんでした。え~とですね、輸送機『北斗』は順調に飛行すれば明朝8時には第27場外発着場に着くそうです。ただ、今回の飛行には、便乗者を載せておりまして、その方は、サクラ大佐との面会を希望しております。所属と、氏名はですね、元老院議員で 外交執行部の部長ソーノ子爵とそのお付の方と、皇太子府からノートン課長補佐です。お二方ともサクラ旅団長とは面識があるので、そのままお乗せしたとの殿下からの言い訳めいた補足文までついております」

 これを聴いてサクラは先ほどのマーガレット同様に固まった。

「来るものは、追い返せないわよね。明日の8時ね、ブル、場外発着場には私が出迎えるわ」

 サクラも固まりから復帰して、「レイラ、ありがとう。明日朝から、彼らを迎えてブレックファーストミーティングの用意をしておくわ。マーガレット、場所は、私の営舎内の食堂スペースで準備をお願いね。ここよりは、格段にましだからね。あいつが作ったのが癪に障るけれどね」

「そうですね、まだ当分新司令部建屋はできそうにありませんものね。あれが間に合えば、見栄えもするのですが、ここよりはいいですからね。分かりました、用意させます」

 そう言って、マーガレットは会議室を先ほどの通信兵と一緒に出ていった。

「ふ~~~、で、レイラ、今回の訪問について事前情報はないの」

「以前殿下の言っておられた、次のステップってやつじゃないかしら。ここに来てここゴンドワナ大陸の戦況も大きく変化していることもあるから、もしかしたら計画の大幅な変更もあるかもね」

「私、その計画そのものを知らないのだけれど、いつになったら教えてもらえるのかしらね」

「さ~~、私にはわからないわ。計画の全貌を明かさないのはある意味殿下の優しさかしらね。地獄が先に見えていたら、やる気なんて出ないものよね」

「レイラ、何さらっと物騒なことを行っているのよ。冗談だよね?お願いだから冗談だと言って」

 レイラはただ笑って返事をしなかった。

 そこに、ドラゴンポート鎮守府に出張に出ていってたクリリンが戻ってきた。

「旅団長、ただ今戻りました」

「あ、クリリン、お帰りなさい。で、どうだった、あっちは大丈夫なの」

「あ、ハイ、鎮守府は相変わらずの大忙しですが、以前のグラス少尉の大活躍で、モチベーションも上がり、また、効率もかなり良くなってきたことから、取り扱う物資の量が3割増までなったそうです。現在のところ、海軍側は、以前の取り決め通りで構わないが今後はどうなるかわからないと言っておりました。なんでも、帝都の統合作戦本部あたりから圧力がかかり始めたようです」

「だから、私は撤退命令を貰ったら、すぐにでも明け渡すと言っているのよね」

「ブル、その件は、第3作戦軍司令部から返事が来てたわよ。『そんな命令を出せるか~~~~』だって、ここは勅命でできた旅団なので、進退については我々司令部に無いって言ってたわよ」

「知っているわ、ちょうど良かった。今向かっている皇太子府の方に相談して、引き上げの交渉をしましょう。ここに我々がいてもあまり役に立っている実感がないのよね」

「ブル、残念だけど、それは無理な注文よ。殿下の構想では、ここが最重要拠点なのだから。多分、今回来ているのだって、その件での打ち合わせに決まってるのよね。でなけりゃいきなり帝国の重鎮のお出ましはないわよ。外交執行部の部長が向かって来てるのでしょ。諦めてね。それより、そろそろ真剣に補給についても考えないといけないわよね。あいつらとかぶらない独自ルートの模索を始めないといけないわよね」

「あの~~、お話中申し訳ありませんが、重大な報告がまだ済んでいませんので、報告を始めてもよろしいでしょうか」

 サクラとレイラが雑談を始めていたので、申し訳なさそうにクリリンが切り出してきた。

「あ、ごめんなさい。で、重大な報告って何かしら」

「今日の午後、鎮守府に鎮守府総司令部 港湾建設土木部 部長の技官の方が着くそうです。その方がサクラ旅団長との面会を希望しております。できれば早急な面会を希望しております。こちらがゴードン閣下からの親書となります」

「クリリン、今回の訪問がなんのことかわかる?」

「ハイ、先日お願いしてありました新たな港建設についてかと思われます」

「なんで急に重なるかしらね」

「ブル、それはここ最近の戦況の変化によるものよ。あなただってわかって言っているのでしょ」

「わかってたわよ。本当にあいつらのせいで、使えないわよね。へ~へ~、明日は朝からまた地獄がやってくるのよね。本当につかの間の平穏だったわ。次に平穏を迎えられるのはいつになることかしらね」

 サクラは肩を落とし、諦めた心境で、冴えない顔をしながらため息をついていた。

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